補助輪を外して

公園で自転車の練習をしている子供がいた。
補助輪なしで乗れるようになる練習をしている。
隣に母親らしき女性が立っていて、

どこみてんだよ、ばーか
はやくしてくんない?
とろいんだよ、ばかがよ

と公園中に響き渡るような音量で罵声を浴びせている。子供は泣き出すでも反発するでもなく、ただ必死に、補助輪なしの自転車に乗ろうとしている。

僕は、それをただ通り過ぎる。

あの子の未来がどうか、
幸せでいてほしいと思う。
もちろん、願わくば今も。

どうか自転車にはやく乗れて、はやく大人になって、補助輪を外して、どこまでも漕ぎだせるようになってほしい。

音楽は、こんなとき無力だ。
あの子を助けることは、僕にはできなかった。

ただただ、無力な自分がいた。

2022.11.8 昼

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