目白村だより7bis(猫女優②)

フランスで化け猫女優と言えば、シモーヌ・シモンである。もっとも化け猫とはいっても、種類は日本と全く違い、こちらはDNAに描族の血が入った化け猫の話である。
シモーヌ・シモンは淫乱系DNAだったという。
代表作「キャット・ピープル」(1942)は、彼女が戦前にアメリカに渡りハリウッドで製作されたが、その後続編も作られる大ヒット。

アメリカでも人気だったシモーヌ・シモン。

第二次大戦後、シモーヌに次ぐ猫系のフランス女優で有名になったのが、フランソワーズ・アルヌール。彼女は、小柄で小味、日本で抜群の人気となり、その脱ぎっぷりの良さもあり多くの熱狂的男性ファンを生んだ。
アルヌールには、幾つもの佳作があるが、個人的に好きなのは「女猫」(1958)である。監督のアンリ・ドコワンはヌーヴェル・ヴァーグの波に隠れてしまったような職人監督だが、このナチス抵抗の女闘士を描いた「女猫」の評価は近年非常に高くなっている。
彼女の最大のヒット映画は、1955年ジャン・ギャバンと共演した「ヘッドライト」(アンリ・ヴェルヌイユ)。この映画の音楽担当はJ・コスマで、電気ヴァイオリンの音のアレンジが、幽霊みたいで気持ち悪いが、主題曲の旋律は素晴らしく、日本語歌詞がつけられる程、ポピュラーであった。
内容は、原題「Des Gens Sans Importance」が示すように、名もない庶民、重要ではない人々(あまりうまい訳ではないが)の、ありふれた不倫である。暮らしに追われる中年の陸送運転手が、中継点のさびれた宿泊所兼食堂で働く、娘程の若い女と恋におちる。
しかしただの不倫映画の様でありながら、戦後の厭世感と荒廃と貧しさ、中年男にすがった若い女の幸薄い人生が、胸を締め付ける。それこそ雨に濡れそぼれた捨て猫の様な、みすぼらしい女を、猫科のアルヌールが好演、ハンカチを持った御夫人層を大泣きさせて、日本での彼女の名声を決定づけた。

この映画の日本版翻案「道」(1986)では、アルヌールの役を、狸顔の藤谷美和子がやったが、本人が、精神的な病気を抱えていたらしく、逆にエキセントリックで妙な危うさを出した。この作品が、男性映画が多い東映作品である事に驚くが、フランス映画の翻案としては、成功した作品といえよう。
現場はやりにくかったそうだが、監督は日活モダニズム映画の旗手、蔵原惟繕(これよし)
F・アルディが主題歌担当であり、ヒット映画になった。ジャン・ギャバンの役は、最初高倉健であった。結局、仲代達矢が代わり好演したが、私は、名優仲代よりも、高倉健で見たかった。

近年、評価が高い「女猫」

50年代~60年代後半のアルヌールは、日本の男性に人気絶大であつたが、その影響の代表例が、1964年連載開始の石ノ森章太郎のマンガ「サイボーグ009」である。その中の紅一点003の名が、フランソワーズ・アルヌール。フランス人のロボットにしてお色気担当。石ノ森はアルヌールのファンだったという。

アルヌールの後を継いだ、猫族女優は、BBとCC。この略称は、60年代当時普通に理解できる言葉であった。BBはブリジット・バルドー、CCはクラウディア・カルディナーレ。それぞれ名前と名字の頭文字読みで、同じアルファベットでなくては面白くない。この二人は、明らかに猫族の顔をしている。
ところで、BBもCCも現在の顔は、まさに化け猫である。CC が、フランスのTVに出たときは、そのあまりの崩壊を直視できなかった。BBは整形こそしていないが、
動物愛護のジャンヌ・ダルクのようなシャーマンな存在となり、動物問題になると必ずマスコミに登場。
元大スターの影響力は、無視できず、現在も彼女の前では毛皮を着れないと恐れられている。
他に猫族女優としては、私の好きな、シャルロット・ランプリングがいるが、彼女の話は
別の機会にしよう。

サイボーグ003


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