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ゴアトランスどうやってMixするの問題その1。とりあえず昔のMixCDからヒントを探ろう。

Paul Oakenfold – A Voyage Into Trance

名作ゴアMixCD、Dragonfly Presents 'A Voyage Into Trance' mixed by Paul Oakenfoldを解析してみる。

本題に入る今回、取り上げるのはゴアトランスの名門、DragonflyのMixCD「Dragonfly Presents 'A Voyage Into Trance' mixed by Paul Oakenfold」です。たぶんこれが自分が初めて買ったゴアトランスのMixCDだと思います。
当時、ゴアトランスのMixCDはリリース数も少なく、これはものすごく売れたゴアトランスのMixCDなんじゃないかと思います。
このCDは1995年に今は亡き渋谷LoftのWaveで購入しました。当時、ゴアトランスのCDは入荷数が少なく、朝、店頭に並ぶと夕方には完売というのがザラで、残り僅かなところを運よく購入でき、CDウォークマンで聴きながら帰宅した覚えがあります。
このCD、当時はよくあった1トラック収録のMixCDで曲が分割されていませんでした。ラストトラックのHallucinogen-LSDを聴くために何度も早送りをした記憶があります。

Paul OakenfoldとはどんなDJか!

Paul Oakenfold。このアー写ふるいかも。

UKを代表するDJのひとり、Paul Oakenfold(ポール・オークンフォールド)。彼は1970年代にバーでDJをスタート。単身移住したNYでハウスを体験、1985年にはイビザでバレアリック・サウンドに感化され、「セカンド・サマー・オブ・ラブ」で沸くUKで人気DJに。さらに自身のレーベルPerfecto RecordsではGraceやBTなどトランス系の人気アーティストを擁し、自らも多くのMixCDや楽曲をリリースしている、というできすぎで島耕作みたいなDJさんです。
彼はMan With No Nameの「Teleport」に衝撃を受けてゴアトランスに傾倒し、Perfecto Recordsのサブレーベル、Perfecto Fluoroを設立してMan With No NameやJuno Reactorなどの楽曲をリリースしたり、自らも楽曲をリリースしたりしています。最近だとMagnusやDominant SpaceがPerfecto Fluoroからリリースしていますね。
基本的にハウスでもテクノでも何でもかけちゃうのに最終的にアッパーなトランスに持って行っちゃうような快楽主義のDJスタイルで、自分も最も影響を受けたDJのひとりです。
ではこのMixCDを分析してみましょう。

A Voyage Into Tranceトラックリスト。

このMixCDのトラックリストは以下の通り。
01 Genetic – Trancemission
02 Man With No Name – Sly-Ed
03 Dynamix – Rezistor
04 Man With No Name – Teleport
05 Infinity Project – Superbooster
06 Mandra Gora – Wicked Warp
07 Prana – Voyager III (Voodoo Remix)
08 Ayahusca – New Moon
09 Infinity Project – Feeling Weird
10 Slinky Wizard – Wizard
11 Black Sun – Fat Buddha
12 Hallucinogen – LSD
収録曲は、基本的にDragonflyが1993年に出した「Project II Trance」、1994年の「Order Odonata」の2つのコンピレーションから選ばれています。
この2作はTIP RecordsのYellow Compilationと並ぶ特級呪物レベルの名作ですので、ゴア好きな方やDJの方はぜひチェックして頂きたいと思います。

どの曲も素晴らしいのですが、個人的には
02 Man With No Name – Sly-Ed
04 Man With No Name – Teleport
12 Hallucinogen – LSD
この3曲に花を持たせるような構成になっている印象です。

DJソフトでMixCDを解析してみる。

では、ここで自分が思いついたMixCDの分析法を紹介しましょう。
それは「DJソフトで解析させてみる」です。こうするとBPMやキーの遷移が一目瞭然。さらにどのようにMixされているか確認、追記してみました。

Rekordboxで解析すると一目瞭然。

こうしてみると、
①オープニングGenetic – Trancemission BPM129台
④Man With No Name – Teleport BPM135台
⑥Mandra Gora – Wicked Warp BPM133
⑨Infinity Project – Feeling Weird BPM130台
⑪Black Sun – Fat Buddha BPM138
⑫Hallucinogen – LSD BPM136台
1曲目よりは+7でBPMが上がっており、全体的にはゆるやかにBPMが上がっていることがわかります。グラフにするとこんな感じです。

では、実際に確認してみましょう。

ビートMixされている場所は、①→②、④→⑤、⑥→⑦→⑧の4か所で3ブロック。それ以外はフェードイン&フェードアウト、もしくはブレイクを組み合わせたイントロMixとなっています。

BPMに言及すると、①→②はBPM129台、④→⑤はBPM135台、⑥→⑦→⑧はBPM133台で繋がってます。

①→②はキックもベースも鳴っている状態で繋ぐビートMixでドライヴ感があり、さあパーティーをアゲていくぞ!という気合が伝わってきます。
④→⑤は繋いだ直後に⑤のブレイクがあるので、あまりビートMixの印象はないかもしれませんが、神曲④の後の空気を変えるのによい選曲なのではないでしょうか。
⑥→⑦→⑧はやはりドライヴ感のあるビートMix。派手なブレイクや煽り要素などはなく、短いブレイクを挟みながら比較的ミニマルな展開が続きます。短いですが「修行パート」というやつでしょうか。
⑨は曲全体のモチーフとなる印象的なイントロが続き、44秒目にキックが入ってくるため無理なビートMixは避けたのかな、という印象です。

さてラストの⑫Hallucinogen – LSDはゴアトランスを代表する名曲。自分はこのCDではじめて聞き、大好きな曲になりました。まあこの曲の意味というか、深淵さをさらに知ることになるのはずっと後なのですが。
“I believe that with the advent of acid, we discovered a new way to think, and it has to do with piecing together new thoughts in your mind.”
イントロで流れる"LSDの啓蒙家"Ken Keseyのスピーチはこの曲の一部として不可欠だと思いますし、ビートMixではなく、ほぼフルでこの曲を聴かせてくれたのは賢明な判断だったのではないかと思います。

'A Voyage Into Trance'総評

このMixCD、自分もよく聞きましたし、世界的にも売れたはずです。しかしちょっと現場感というか臨場感に欠けるところがあり、自分もここまで長々とオフビートのイントロを使うゴアトランスのDJは見た事がありません。
Paul OakenfoldはふだんこんなスタイルでDJしませんし、彼の他のMix作品もここまで堂々とブレイクがあるものは聴いたことがありません。
という事は、このMixCDを制作するにあたって「曲のBPMを極力いじるな」「曲をできるだけフルで使え」などの制約があったのだろうと思います。
おそらくPaul Oakenfoldは、先述したコンピレーション「Project II Trance」「Order Odonata」の副産物としてのMixCD制作を依頼され、厳しい制約の中で試行錯誤した結果、普段のDJの再現というよりは、Dragonflyのレーベルショーケースのようなものに落ち着いたのではないでしょうか。
海外サイトでのレビューを見るとやはり「現場にこんなDJする奴はいねえ」等の低評価も見られますが、「これでゴアトランスやHallucinogenに出会えた。傑作」などの評価もあり、当時のゴアトランス入門CDとして一定の評価はあるようです。自分もTIP RecordsのYellow CompilationとこのCDからゴアトランスを学んだので、思い出補正込みで名盤だと思っています。

けつろん。

結論として、当時のゴアトランスDJがどうやって曲をMixしていたか?という回答は導けませんでしたが、この作品はDJによるMixCDながら「ビートMixとイントロMixを共存させた」、「あえてビートMixしない事で曲の良さを引き出した」一例であり、当時のゴアトランスDJが必ずしもビートMixを求められていたわけではない事が伺えるのではないでしょうか。
といったところで今回はまとめさせて頂き、次回もさらなるMixCD分析で回答を探ってみたいと思います。

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