シトロエン プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)考察

〈2020年にNewsPicksの削除スレに書いた文章です 備忘録として残します〉

シトロエンと言えばハイドロニューマチックサスペンション、と言うのが少し前の自動車好きの常套句である。

しかし、ハイドロニューマチック及びその進化系のハイドラクティブ搭載車は2代目シトロエンC5で終焉した。

理由は簡単。凝り過ぎで高コストだからだ。

ハイドロ関連は以下の試乗記で書いた。
今見返すと死ぬ程読み難い自己満足ポエムだが、ひとまず凝ってるサスペンションである事はわかるだろう。

シトロエンC5試乗記
https://newspicks.com/news/3874950/

じゃぁ今はどうか。
元々PSAグループのプジョーと共に、実はショックアブソーバー、いわゆるダンパーと呼ばれてる部品に結構コストをかけてたりする。

15年ほど前に出たシトロエンC4やプジョー307のダンパーは、ピストン部分に都合四つのコイルスプリングとバルブを使って、ダンパーの速度依存特性を最適化していた。

ダンパーはオイルの中を穴が開いたピストンを上下させてサスペンションの動きを減衰させるものだ。オイルが穴を通過する際の粘性抵抗(剪断応力)で減衰させるものだ。

端的にはピストンの穴の大きさで、減衰力が変わる。これだとカタクするか柔らかくするかしかできない。

理想は凸凹した路面で乗り心地よく柔らかく、フラットな路面では無駄な動きなくカタクしたい。

なもんで、このピストンの穴にバルブを付けて、板バネで開いたり閉じたりさせるのが一般的だ。オイルは慣性力があるのでコレを利用する。
速いピストンの動きにはオイルは追従し辛いので、バルブを開く方向になる。遅い動きではバルブは閉じてカタクなる。

大抵はこんな感じで2段階の速度依存性を持たせて、ピストン低速(フラットな路面)と高速(凸凹した路面)で最適化させる。

コレを4つのバルブを用い、かつバネ常数一定のコイルスプリングで正確に減衰力コントロールをしようとしたのが、前述のC4や307だ。

そんなPSAからシトロエンC5エアクロスと言うクルマが昨年登場した。
シトロエン曰く、ハイドロニューマチック後継のプログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)と言う新機構を搭載して。

ソレはどんなものだろうか。
ふと興味が出た。

プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)について、公式サイトでは「魔法の絨毯」としか記載されていない。
魔法の絨毯って抽象的な表現は宣伝文句なだけなのでどうでもいいが、どんな構造なのかイマイチよくわからない。

ジャーナリストの試乗記に拠れば、ソレはダンパーの中に第二のダンパーを仕込み、フルストロークした際、最も縮んだ時や最も伸びた時のショックを和らげるそうな。

通常ショックアブソーバーにはゴムやウレタンのバンプラバーが付けられ、最も縮んだ際のガツンというショックを和らげようとする。
最近はバンプラバーを長くしてストロークの途中からワザとぶつけてコイルバネの補助(より硬く)する例が多い。

(このセッティングを無視していきなりバンプラバーに当たるカスのような純正シャコタン仕様車も多いが)

しかし、ゴムもウレタンもコイルバネと違いプログレッシブ特性(縮むに従いカタクなる)な為、いずれにせよここに当たると途端に硬くなる。

ソレをダンパーに置き換えようと言うものらしい。

ネットで写真を検索すると、以下の様なものが見つかった。

https://images.app.goo.gl/NWmjpNyAjDHGBgGP8
https://images.app.goo.gl/EP9tdjr3PdgZmKE48

ダンパーと聞いていたが、どう見てもコイルバネが仕込まれている。なぜみんなコイルバネと言わないのか。

実はダンパーの中にコイルスプリングを仕込むのは珍しいものではない。

https://car.watch.impress.co.jp/docs/series/carparts/565214.html

今や軽自動車でも常識的に使われてる、リバウンドスプリング。
主に伸び側の動きを抑制してロールを適正化する目的の物。
この仕組みを縮み側にも採用してるように見える。

で、図からはわかり難いが、バネだけでなく伸び側と縮み側の両方にフリーピストンを置いてオイル室を仕切ってる様に見える。
ソコがミソなのだろう。

お、ダンパー動作のの動画があった。
https://youtu.be/9s1AWkEwgUo

通常のショックアブソーバーは複筒式(外側と内側と2つの筒)であり、コレもそう。

内側の筒にオイル、外側の筒にガスを封入して、オイルが外側の筒へ逃れる様にする。
コレはストロークするとシャフトがオイル室に入ってくる為、シャフトの体積分オイルを逃してやる必要があるからだ。

で、今回のダンパーのフリーピストン部分はオイルが入る筒を更に二重構造として、内側シリンダーに穴を開けてオイルが移動できるようにする。しかし、そこから先、ガスが封入されてる1番外側とは繋がってない。

動作はこうなる。

大きくストロークするとダンパーシャフト及びソコについているピストンが、フリーピストンを押す。

このフリーピストンには穴が開いてない為、オイルをそのまま押す。押されたオイルは筒の穴から独立した外側のオイル室に入る。この穴の大きさで減衰力が決まる。

しかし、外側のオイル室は更に外側のガス室とは繋がって無く、密閉されている。
オイルは逃げ場が無く、プログレッシブに内圧が高まる。つまりフリーピストンのストロークに応じてカタクなるという訳だ。

コレとスプリングでフルストローク時にジワジワ硬くなっていく感じなのだろう。

となると、バネは補助的なものでオイル室圧がメインなんだろうか。

さて、これがハイドロ後継になり得るか。

本来ハイドロニューマチックはシトロエンの考える理想のサスペンションを実現する為の手段の1つでしかない。

重要なのはどう言うサスペンションを実現しようとしているのかだ。

魔法の絨毯と言うのは、ホントにそこなのか?と思う。

シトロエンは如何なる状況でも車体姿勢が安定し、4つのタイヤが路面を追従する事が目的だろう。それは単に快適と言うだけでなく、安全かつ高性能なクルマづくりに他ならない。

シトロエンのハイドロニューマチックは油圧配管で左右輪連結し、その油圧配管の圧を空気バネで受ける形であった。

これにより左右輪が逆位相の動きであれば油が移動するだけでバネは効かず柔らかい乗り心地が実現できる。配管内油量を制御する自動車高調整機能もある。
最終型の電子制御ハイドラクティブは端的に言えばロール制御が電子制御になっただけだが、それにより唯一無二な極上の乗り味を実現していた。

シトロエンC5エアクロスの新しいサスペンションは左右連結しない。そして普通のコイルバネで、車高調整機能もない。
つまり普通のクルマのサスペンションと同じ構造だ。
普通のクルマとの違いはバンプラバーがダンパー&バネになっただけである。それだけだ。

ココからその良さは読み取れない。

果たしてどんな乗り味だろうか。
興味がある。

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