日野自動車の排ガス不正報道からディーゼルエンジン排ガスについてメモ

日野自動車の排ガス不正がなかなか大変な事になってる。

当初は日野自動車が2014年に開発した新触媒による排ガス浄化システムの製品化を急いだせいかと思ってたが、そうじゃない、と。2003年から不正やっとるわい、と。

元々ディーゼルエンジンの排ガス浄化って昔から難しい。ある意味ではコレがディーゼルエンジンの最大の欠点と言っても良いほど。

ディーゼルエンジンの排ガスは一般的に、
燃焼温度を上げるとハイパワーだけどNOxが増える。
燃焼温度を下げるとNOxは抑えられるがPM(煤)が出てパワーも落ちる。

NOx浄化について決定打が無かった2000年以前は、事実上地域のNOx規制によってエンジンの性能が決まる状況だった。

NOx規制が厳しい北米や日本では、燃焼温度を下げるしかないので、パワー無く黒煙撒き散らしの臭いディーゼルエンジンとなる。日本で昔お馴染みの低性能ディーゼルだ。

NOx規制が緩い欧州では、燃焼温度をバンバン上げて、ハイパワーで黒煙の少ない、臭くないがNOx撒き散らしディーゼルエンジンとなる(NOxは有毒だが、無味無臭)。

パッと見、欧州ディーゼルの印象は良い。アウトバーンを時速200kmで巡航でき、燃費も良いディーゼルなんて、ステキだもの。臭く無いし。
欧州贔屓な多くのヒョーロンカも大絶賛。

この状況が変わったのが、21世紀に入ってから。
欧州もNOx垂れ流しじゃマズいので、規制値を強化する方向に舵を切った。
北米や日本も強化する。
黒煙(PM)の規制値も強化されたが、茶漉しの様なフィルター(DPF)でキャッチして焼けばいい。
(DPFは現在全てのディーゼルエンジン車に搭載されてるだけでなく、直噴ガソリン車でも適用が増えてる)

となるとNOxをなんとかしないと。
EGR(排ガス再循環、要は再度燃焼室に戻して希釈する)だけでは追いつかない。
ディーゼルにとって死活問題だ。

そこで出てきたのが、アンモニア還元によるNOx浄化。

アンモニア(NH3)を還元剤としてNOxを、窒素(N2)と水(H2O)に分解して無毒化しましょう、と言う火力発電所や船舶エンジンで用いられていた手法を自動車に採用しましょうと。
トラックは日産ディーゼルが、乗用車はメルセデスベンツが先行して採用。
(アンモニアそのものを載せるのは危険なので、尿素水を積み、それを加水分解したアンモニアガスで還元する。)

コレが尿素SCR触媒ってやつ。アドブルーとか。

当然ながら、尿素水を定期的に補給する必要があり、そこがめんどい。

で、日野が考えたのが、排ガス成分を用いて排ガスを浄化するシステム。
これをHC-SCRと呼ぶ。

こう書くと何が何だかわからないが、
排ガス成分の中で、有害な一酸化炭素(HC)を還元剤としてNOxを無毒化する。
NOxが、窒素(N2)と水(H2O)と二酸化炭素(CO2)にしちゃおうと。

なんだ二酸化炭素が出るのか、と言いなさんな。
そもそも燃焼で二酸化炭素は出るのだし、NOxを自身の排ガス成分で浄化できるなんて、ステキすぎるやん。

って事でHC-SCRは、2014年に「第11回新機械振興賞 経済産業大臣賞」「2013年度日本機械学会賞(技術)」「第64回自動車技術会 技術開発賞」「平成25年石油学会 学会賞(工業的)」を受賞するほど、スゲー技術として評価された。

コレを中型トラック用エンジンの決定打としてガン推ししていた日野自動車。

すっかりこの浄化システム推しが不正の要因かと思っていたのだが。違っていた。

日野自動車は社内のパワーバランス(パワハラ)でノーと言えない会社、と言うどうしようもない状況だったのだろう。

余談だが、排ガス浄化手法に関して世界的にも独自路線を突き進む会社がある。
マツダだ。

マツダのスカイアクティブDは尿素SCRを使わない。日野の様な別の還元剤も使わない。
要は後処理のNOx浄化装置を持たない。

燃料の噴き方、圧縮比などで燃焼をトコトン詰めてNOxが出ない様にしている。

このアプローチはマツダ以外まず無い。

コト乗用車向けディーゼルに関しては、マツダは世界をリードする可能があるのではないかと思ったりする。

以上、備忘録。

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