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NMB48 MV撮影の舞台裏

私がNMB48のMV(ミュージックビデオ)の仕事の依頼を受けたのは2015年2月2日の昼前だった。依頼者は小学校時代からの友人のプロデューサーで、とても困っている様子だったのですぐに引き受けた。当時私はフリーのロケーションコーディネーターだった。私のやることはロケ地探し、宿泊先の手配、弁当の手配など映画やドラマの制作部(製作部)の仕事の一部に該当する。

撮影するMVは2本、それぞれ1日で撮影を終えなけれ ばならないというハードなもので、2月14日にチームM、翌15 日にチームBⅡの撮影というスケジュールだった。 チームMの曲は「ハート、叫ぶ」で、園田俊郎監督の要望は 学校と体育館だった。学校は実際に使われているものが望ましく、体育館はメンバーの歌やダンスが撮影できるサイズというものだった。

一方、チームBⅡの「ロマンティックスノー」で、スミス監督の要望はスキー場、雪合戦ができる雪原、ロッジ、ダンスシーンが撮影できる場所というものだった。 

私はこの情報を元にすぐにフィルムコミッションや自治体に電話をかけ、アポが取れたところからロケハンを行っていった。そして各地で撮影した写真をメールで送り、監督に選んでもらい、ロケ地候補を絞っていった。撮影前に監督ロケハンは必 須なので日程調整を行い、監督ロケハンを行った。2本のMV は別々の監督となるので、同時進行で2班の段取りを組んでいく。監督ロケハンの時には企画書ができていて、ロケ地候補 の担当者に見せて交渉を行うことができた。MVと言っても、歌とダンスのシーン以外はドラマ部分がメインとなるので、監督は監督ロケハンでイメージをつかみ、撮影したいショットやシーンを考える。それを助監督が香盤表に落としこんでいく。2つのMVのロケ地が全て決定するまで約1週間かかってしまった。撮影日まであと数日だったのでスケジュール的にはギリギリのタイミングであった。 

2月14日早朝から甲斐市立玉幡中学校で撮影が始まった。 午前6時にスタッフ現場入りだが、私は受け入れ側なので 午前5時頃にはスタンバイ。この中学校はドラマ『WATER BOYS』の主人公達が通う唯野高校のロケ地としてもおなじみの場所である。甲斐市はテレビドラマや映画撮影などに協力的な職員がいるので電話1本で借りることができた。AKBグループらしい王道の学園ものにはピッタリだ。チームMのメンバー達は前のりではなく、都内からマイクロバ スで当日現場入りとなった。やはり予算やスケジュールに余裕 があるAKB48とは差がある。AKBグループのMVの場合、ロ ケ地は撮影する地域の特徴がないことが望ましい。玉幡中学校からは富士山が見えるが、あえて富士山は撮らないようにしていた。撮影に使用したカメラはSONYの「PXW-FS7」だった。

香盤表通りに撮影は順調に進み、玉幡中学校の撮影は夕方には終了し、次の撮影地である甲斐市立双葉体育館に移動した。先行していた照明部と美術部により、普通の体育館がダンスシーンのステージに変わった。この頃やっと秋元康事務所から音源と歌詞が現場のスタッフにメールで届き、体育館に到着したメンバー達は同行している振付師からダンスシーンの フリ入れが行われ、1時間ほどで覚えていた。 先に全体のダンスと歌の撮影を行っていくのだが、メンバー 達は歌詞を把握していない。歌の撮影はマネージャーが拡声器で先に歌詞を読み上げ、続いてメンバー達が口パクをして撮影するというもので、もはや当たり前の光景だそうである。ぶっつけ本番でやっていた。メンバーの歌唱のショットの撮影も独 特である。AKBグループでは総選挙の結果でメンバーの序列 が決まるので、人気メンバーは目立つショットで個別に歌の撮影を行う。これが1人だと「1shot Lip」、2人だと「2shot Lip」と 呼称する。この頃は白間美瑠さんと矢倉楓子さんが人気だっ たので、MVではこの2人がクローズアップされている。撮影は 深夜まで行われ、すっかりくたびれてしまったメンバー達はロケバスに乗って東京の宿舎に戻って行った。

チームMの撮影が終って私はそのまま北杜市へ移動、先発のスタッフとホテルで合流し打合せを行った。日付は2月15日の午前1時過ぎになっていた。すぐに寝て午前4時には起床、チェックアウトして清泉寮のコテージに移動、チームBⅡの 到着を待つ。清泉寮の2つのコテージが控室となり、そこで着替えたメンバーをサンメドウズ清里スキー場に連れて行った。

撮影に使用したカメラはアレクサ製だった。監督やカメラマンの好みで使用するカメラも変わるのだろう。このMVにはスキーで転倒する渡辺美優紀さんを助けるイケメンが登場するが、予定では最後2人が夜の道で見つめ合うというシーンを撮影するはずだった。だが撮影当日は猛吹雪で撮影が押してしま い、見つめ合うシーンまでは撮影できなかった。そのシーンが撮影されていれば作品の印象は違っていただろう。続いて清泉寮の雪原に移動し、雪合戦のシーンを撮影、吹雪の中メン バー達は寒さにもめげず笑顔で撮影をこなしていく。遊具で遊ぶショットなどはスミス監督の弟子である2人の助監督が即興で指示を出していく。時間内に必要なショットをたくさん撮るために助監督も必死だった。 夕方、メンバーのスキーシーンを撮影するためにスキーが上手な地元の女性3名にサンメドウズ清里スキー場に来ていただいた。渡辺美優紀さんがスキーで転倒するシーンの撮影 も行った。ここは地元の女性に代わりに転倒してもらった。スキーシーンはかなり暗くなってからの撮影だったが、カラコレで調整したと聞いている。 

夜には萌木の村に移動し、メリーゴーラウンドの前でダンスと歌のシーンを撮影した。例によって音源と歌詞が秋元康事務所からメールで届き、フリ入れを1時間ほどしてから撮影開始 となった。氷点下の気温の中、引き、ミドル、サイドとダンスシーンを撮影していき、「1shot Lip」なども撮影していく。待機場所のカフェやジェットヒーターで暖をとりながら撮影は進み、最後 にメンバーがメリーゴーラウンドに乗って楽しむシーンを撮影して終了した。急いで撤収作業を行い、撮影本隊と別れ、深夜2時か3時に甲府市の自宅にたどり着いた。NMBのマネージャ ーが「うちは団体芸ですから(笑)」と話していた言葉が印象的だった。大人数のアイドルグループをコントロールするのは非常に疲れるというのがよくわかった2日間であった。

私は短期間で撮影を成立させるためベストを尽くした。香盤表を読めばわかるが、やはりMVは構成が大事である。音源と歌詞がMV撮影当日の夜届くというのは異例のことである。曲の大まかなイメージだけ運営側から聞かされているMV監督は歌とダンスシーン以外のドラマ部分で曲のイメージを壊さないように、しかも自分の撮りたいショットをどのように組み入れるか考えながらディレクションしていた。イレギュラーなことも現場で は常に起きる。完成した映像は、音源と歌詞が撮影当日に届 いたとは微塵も感じさせない素晴らしい構成、画作りがなされていた。こういった作品に参加できたことは自分的には大変勉強になった。映像業界に身を置く者が学ぶべきプロの映像人の姿勢ではないだろうか。編集にはPremiere Proを使用したと聞いている。私が完パケデータを受け取ったのは3月9日だったので、編集も1ヶ月かかっていなかった。このMVは、2015年3月31日発売のDVD付シングル『Don’t look back!』に収録されており、現在発売中である。

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