見出し画像

「120%の潜在能力を引き出すに至る」馬とは

 競馬予想が外れた上で、「どうしてこの馬が来たんだ…」と頭を悩ませた馬はそれこそ星の数ほど居ますが、完全に力の目算を間違えた馬の数は、私自身の予想精度の向上にあたり減少傾向にあります。

 それだけ日本競馬の予想にあたって、データベースの豊富さは高い水準にあり、JRAの公式発表のレースラップや上がり3Fである程度の数字というのは分かるようになっています。更に高みを目指すならJRAレーシングビュワー、TARGET、DerbyRoomなども用いれば、割と誰でも精度の高いAIや指数を作る事ができる時代でもあります。

 勿論見た目通りな部分にも現れ、中山の内回りを直線だけで後方から差し切ったり、先行馬が全て垂れる中3番手から圧勝したりすれば、誰が見ても分かるような強さというのは把握しやすいです。

 私自身、後半ラップに関しては5・3・2・1Fを目算で算出したりして末脚の能力を測ったりしますし、前後半のラップバランスから推定タイムを算出したりもある程度出来るようになってきました。その上で、走破タイムがどれだけ優秀かというのも分かりますし、力関係というのも把握できていると思います。

 実績ではないですが、例えば阪神JF前に有力な2歳牝馬を10頭取り上げましたが、そこに掲載の10頭は暮のレースで殆ど好走しており、まあ目はそれなりに良くなっている訳です。

 それでも力の目算を完全に見誤る瞬間はあり、それが「明らかに強くなっている」というもの。

 競走馬は成長するので、大体ここぐらいまでなら強くなっているという見立てのもとで計算する事が多いです。穴馬を予想したりする人は、こういう計算が上手だったりします。最大値を予測し得るレース内容に嵌められるかどうか、という点。

 それを凌駕する「成長速度が凄まじい馬」というのも存在します。今年の中で、ついでに言えば馬券的に踊らされた中で、となると

・エルトンバローズ(牡3)
・ジャスティンパレス(牡4)
・スターズオンアース(牝4)

が、そういう認識の領域に居ます。これらの馬を精査する事で、来年以降の予想に繋げられないか、というのが今回の記事の目的となります。幾つか見当は付けているので、そこを中心に述べていけたら、とは思います。

そもそも余力が違うのではないか?

 これは前提条件として考えたい所。余力というのは常々述べていますが、他馬より速く走れる距離の長さです。単純に(走破時計を短縮するという意味で)脚が速いという可能性。

 とはいえ、長距離でのジャスティンパレスを除けば、凄まじいトップスピードを出した訳でもありませんし、余力は確かに高いものを持っていますが、そこが急成長とイコールで結びつくようなイメージにはありません。

 成長曲線がラディカルな馬としてはブレイディヴェーグ(エリザベス女王杯1着)やマスクトディーヴァ(秋華賞2着)が居ますが、それらは元々余力が非常に高いので、そういう見方は出来なくもないです。

著しい追走力の向上

 寧ろこれが一番大きい要因かと思います。この馬たちの今年1年のレースを見返すと、オーバーペースになった経験が全く無く、元々の余力が基礎として、追走力を向上させた部分が大きいのではと感じます。

 エルトンバローズの未勝利戦は、サトノグランツやソーダズリングと、それなりのラップを刻んでの善戦ですし、ラジオNIKKEI賞からマイルCSまでは、ある程度線で繋がるような追走をしています。

 ジャスティンパレスは元々クラシック路線が厳しいペースでしたし、有馬記念で先行した分も含めれば、春の長距離の2戦で末脚が大爆発した要因も頷けます。天皇賞秋は最後方追走でも菊花賞より苦しい流れでしたが、しっかり余力が確保できています。

 スターズオンアースはスピードレンジがマイルや2000mに無いので考え所ですが、大阪杯を余力で差してきた経験から、追走力にもそれが現れたのだと思います。スタミナもありますし、これは後述の、追走力を上げる過程で人の手を上手く加えた結果でもあると思います。

追走力を上げる過程

 追走力を上げるには、苦しいラップの追走経験が前提となります。余力が高い馬でも、オーバーペースと感じる流れを引き上げる作業には、レース経験以外の訓練は存在し得ないからです。

 例えばドウデュースは天皇賞秋で、追走負けしましたが先行したイクイノックスの真後ろを取りましたし(あのペースで掛かる辺り大概ですが)、レモンポップはゴールデンシャヒーンで超前傾スプリントを経験しています。

 これは後の有馬記念や南部杯で余力を完全にキープ出来ていますし、他にもクラウンプライドやデルマソトガケなども、こういう経験が糧となって好走を続けています。

 ではこの過程を生み出すのは何かと言えば、当たり前の話ですが騎手が先行させる他ありません。勿論、調教師のオーダーという所はありますが、未勝利戦で減量騎手を乗せている訳では無いので、あくまで騎手の度量による部分もそれなりにはあると思います。

どのような騎手が馬を強くするのか

 まず、スタートが上手いジョッキーが大前提です。先行するにもまずはゲートですからね。馬を育てるのが上手いとなると、脳裏の片隅に福永祐一元騎手(現調教師)が居ますが、彼は日本競馬でも最高峰のスタート技術を持っていました。

 川田将雅騎手と藤岡佑介騎手は、若手騎手を対象に「ゲート」に特化した研修を行なっている、とコラムで語っています。ゲートはあくまで馬が出やすい体勢を作る、との事ですが、そうなると返し馬やパドックで跨った瞬間から意識的に意図を伝える必要があります。

 福永祐一元騎手は度々「返し馬の一歩目で騎手の指示に従う馬は、スタートで出遅れる可能性が低い」と語っている通り、やはり返し馬で気を配れない騎手はダメな可能性が高いです。流石に現地でもないと返し馬をじっくり眺める期間は無いので、まずはゲートを出るかどうか、1歩目もそうですが、2・3歩目をスムーズに出せているかどうか、というのが焦点となります。

 また、レースプランに幅があるジョッキーも馬を強くする騎手に該当すると思われます。ルメール騎手なんかがそうですが、馬に極端なスローペースもハイペースも経験させにくい位置を取っています。川田将雅騎手も、ゴールからの組み立てが上手いタイプ。武豊騎手もそうなんですが、引き出しが多い騎手は大概逃げが上手いです。

 要はペース読みが上手いという事。横山和生騎手、武史騎手の兄弟も、柔軟かつ強気に乗る事が出来るタイプで、過去に跨った馬を見ても、しっかりと強くできていると思います。

調教師のオーダー、という観点

 ジャスティンパレスやエルトンバローズは杉山晴紀厩舎です。当然の如く調教師リーディングなのですが、その実勝ち星を挙げているジョッキーはリーディング争いでバチバチというような面々ではなく、勢いのある若手や中堅、といったイメージ。

 勝ち星の詳細を見ると、東京1600〜1800mや阪神の1800mのような、比較的差しが決まりやすいコースでの勝利が少ないです。彼らの先行意識が高いことは起因していると思われますが、それ以上に前が残りやすい条件に出走させていると思います。

 関東の調教師リーディングの木村哲也厩舎を見れば、先日牝馬ながらホープフルSを勝ったレガレイラは適条件に合わせて出走したといえます。国枝厩舎も顕著で、10F路線に専念して大穴を開けたハヤヤッコ、勝ち星を挙げた条件かそれに近しいレースを走らせて好走を続けたフィアスプライドなんかが居ます。

 適性を見抜く眼では他の追随を許さないと思われるであろう矢作厩舎は、毎年調教師リーディングを争っていますし、調教師のオーダーというのは、レース選択から始まっている可能性が考えられます。勿論、鞍上の進言を受け入れる体制、目標レースに仕上げる厩舎力も、そういった面を支えている要因ではありますね。

まとめ 〜イクイノックスという馬の成長について〜

 ここまでの見立てを纏めると、

追走力を上げる=馬を強くすると仮定した時

①スタートが上手い騎手
②レースプランの引き出しが多い騎手
③先行意識の高い騎手
を、④適性通りのレースに出す厩舎

 これが馬を急加速的に強くするベースなのだと思います。挙げていない馬で言うと、ナミュールなんかも適性通りのマイルで、先行できる騎手を乗せていますし、高野厩舎ならジャンタルマンタルもそうですね。

 別に全ての要因に当てはまる必要は無いですが、噛み合わせというのは大事な点で、上手く噛み合った時の爆発力は、そういう部分に現れていると感じます。

 最後に、それらが全て噛み合った上で、初めに述べた「そもそもの余力が違う」まで持ち合わせた世界最強馬・イクイノックスの話をします。

 イクイノックスの適性は間違い無く2400mでしょう。ドバイシーマクラシックでWestover相手に、ジャパンカップでリバティアイランド相手に、いずれもゴール寸前に強いブレーキングを掛けて勝利しています。まさに無双の閃光。

 とはいえ、イクイノックスの強さの根底は、その追走力の高さにあります。ドバイも天皇賞(2年目)も、高い追走力で余力を確保するベースを生み出しています。皐月賞と天皇賞秋は同レベルの上がりを出していると思いますが、その実ペースが全く違いますから。ジャパンカップに至っては、3番手から後方追走だったダービーより格段に速い上がりを出しています。

 その追走力の向上を支えていたのは、目標レースが適性通りと判断しそこに仕上げる厩舎力、鞍上のスタートセンスとレースプランの豊富さ、そしてイクイノックス自身の圧倒的な余力がなせる技です。

 勿論、彼のレベルを日本競馬に求め続けるのは酷ですが、こういうキャリアを積み重ねるにあたっての下地自体は、見渡せば案外多いようにも感じますし、そういうのを探せるような1年を来年は過ごしていきたいですね。

 あと挙げた3頭、記事内で述べた数頭は図らずとも馬券から消さないように頑張ります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?