良い旅は、終わった後に喜びが増幅する

オーストラリア、アデレードを出発して、アーミデールまできた。Google mapを見ると、もうほぼ東海岸にいる。

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約1カ月間前には、西海岸のパースにいた。そこからヒッチハイクだけでここまでこれたかと思うと、既に感慨深い。ここまで乗せてくれた、

アユさん、トムさん(1台目)、ベンさん(2台目)、スティーブンさん(3台目)、ナヴィさん、サムさん(4台目)、スティーブンさん(5台目)、トービーさん(6台目)、モスさん(7台目)、ジュリーさん(8台目)...

彼らのバトンを最後まで繋ごうと決意が高まる。


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ここに到達する前の中間地点のアデレードには、2週間ほど滞在した。そして、そのうちの1週間を使って、パースで出会ったMさんと、中腹にあるウルルまでロードトリップに行ってきた。この旅は、最悪に最高だった。

私は一緒に旅をしている彼女のことが、とても嫌いだったのだ。旅の途中、好きになろうと努力をしたけれど、どうしても好きになれなかった。

2日目の晩、彼女には、ストレートに嫌いだと伝えた。そしたら、彼女は「こんなにもストレートに傷つけられたのは初めてだ」と悲しげに言った。私もこんなにもストレートに人を傷つけたのは初めてだった。

そのとき初めて、彼女だけではなく、私も既に傷ついていたのだと知った。この傷は、今ここで生まれたものというよりも、遠い昔のもののように、感じられた。いずれにしても、自分を赦すことができないのと同じように、彼女を赦すことができなかったのだろう。

そう思うと、私の過去に彼女を巻き込んでしまったのかもしれない。同じように私自身も彼女の過去に巻き込まれていたのだろうけれど。


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彼女との旅を終えて3日たった今、彼女と旅をして良かったと思っている。彼女とは、生身の人間どおし、本気でぶつかった感覚がある。お互いに傷つき合って、もうこんな人間と一緒にいたくないと心で叫びながらも、これこそが出会いの面白さだ、と感じている自分がいた。

彼女との旅は、傷つけ合わないように人と付き合う方法をずっと模索してきた私にとって、とても革命的なものであった。

勝手な想像だけれど、きっと内田裕也と樹木希林はこんな関係だったんじゃないかって思っている。相手を傷つけながらも、生き添いつづける覚悟と、相手を信じる強さがなければ、関係はすぐに破滅する。


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そんな感じだったから、旅の後味はかなり悪かった。終わりが全てを彩ると思っている。ウルルで見たエアーズロックも、砂漠のど真ん中で食った肉の塊も、思い出は灰色に染まってる。

結局何を見るかでも、何を食べるかでもなく、どのように見るか、誰と食べるかなのだろう。何をするかよりも、どのようにするか、誰とするか。


良い旅は、終わった後に増幅するものだと思っている。道の中腹が苦しければ苦しいほど、終わりの喜びは増す。喜びのピークは、終わりに来る。その喜びは、旅を思い返す度に、永遠と続く。そして、歳をとる旅に、さらに膨れ上がっていく。だから旅は最高だ。

そういう意味では、今回の旅は、まだ熟成されていない。今の時点では、彼女との旅の記憶は、思い出すに苦いものだ。このオーストラリアの旅が終わる頃には、新しい色に彩り直すことができるのだろうか。それとも灰色に染まったままなのだろうか。


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旅は、シンプルであるほうが面白いのだと思う。ルフィもただ、ワンピースを目指している。

今回の旅のゴールは東海岸に昇る朝日を見ることだ。世界遺産を悶々と巡ることはしない。私は、何か1つを目指すほうが好きだ。

今はただ、5000kmの大陸を、ひたすら走り抜けた先にある一輪の花を見る感覚でいる。きっとそれは、どんな世界遺産よりも、美しいと思う。

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