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【気になる八尾のあの工場 vol.9】大阪糖菓さん

*この記事は、2024年6月18日に友安製作所のWEBメディア「トモヤスタイムズ」に掲載されたものです。

こんにちは!友安製作所 広報のCyan(シアン)です。
今日は連載「気になる八尾のあの工場」の第9弾をお届けします。

友安製作所が拠点とする大阪府八尾市の、ものづくり企業の魅力を発信していくこの連載。

今回は、金平糖を中心とした砂糖菓子の製造メーカー大阪糖菓さんにお邪魔しました!
大阪糖菓さんは、先日マクアケで販売スタートした友安製作所×FATCAMP kitchenのオリジナルスパイスカレーキット「わいわいがやがやカリー」トッピングとして、「チャイ金平糖」「カレー金平糖」をつくってくださった会社さんです!

「本物のスパイスを使った金平糖をつくってほしい」というかなり変わったお願いを快く引き受けてくださり、本当に美味しいスパイス風味の金平糖を、ゼロから開発してくださいました!

友安製作所×FATCAMP kitchen の「わいわいがやがやカリー」

そんな大阪糖菓さんは、「コンペイトウ王国」という別名を持ち、単なる製造・販売だけでなく、金平糖の歴史や文化を伝える活動に様々な角度から取り組まれています。手がける金平糖も、お花をモチーフにしたカラフルなものや、世界一小さい金平糖など、独自の世界観を感じさせるものばかりです。また本社である八尾に加え、大阪の堺、福岡に構える各拠点には「コンペイトウミュージアム」を併設。一般のお客様向けに金平糖づくりについて「見て、聞いて、体験できる」場を提供されています。

今回お話をきかせてくださったのは、3代目社長の野村しおりさん。「コンペイトウ王国」の活動では「フロイスしおり」として、金平糖の伝道師をつとめています。インタビュー当日も、その昔日本に金平糖を伝えた南蛮人をイメージしたコスチュームで登場してくださいました!

お話を聞かせてくださった野村社長

大阪糖菓 株式会社
創業1940年の砂糖菓子メーカー。伝統の技術と多彩なアイデアで、金平糖を中心としたカラフルな砂糖菓子を製造されています。【大阪糖菓さんHP】



変わらない伝統、変わり続ける金平糖

大阪糖菓さんは、1940年に「野村商店」としてスタート。創業者は野村社長のお祖父様、野村三男さんで、創業から数年間はお菓子を仕入れて販売する卸問屋でした。あるとき客先から、「金平糖をつくって売っていきたいので、製造用の釜を仕入れて欲しい」とお願いされ、金平糖の釜を取り扱うことに。砂糖と合わせて販売できるだろうと考えてのことでしたが、価格の折り合いがつかず、結局仕入れた釜に買い手はつきませんでした。 
そこで三男さんは「それならば、空襲で焼失してしまった野村商店の跡地に工場を建てて、自分たちで金平糖の製造をしよう!」と決意。職人を雇い、金平糖づくりをはじめました。

それは戦後間もない昭和21年のこと。砂糖はまだまだ貴重な品でしたが、大阪ではもともと金平糖の製造が盛んだったこともあり、すぐに受け入れられ、事業は軌道に乗っていきます。昭和27年には「大阪糖菓」に社名を改め、株式会社となりました。

大阪糖菓さんの金平糖といえば、見ていてうっとりするような可愛いカラーや、「まつたけ」や「コーヒー」など一風変わったフレーバーが多いことが特徴ですが、そんなユニークな金平糖を手がけるようになったのは、製造開始から20年ほど経った昭和45年のことでした。

伝統的な金平糖のカラーは、「ももいろ」「きみどり」「きいろ」「しろ」の4色。それぞれに「春夏秋冬」を表しており、味は「うめ」「ニッキ」「しょうが」「ハッカ」だそうです。なんとも日本らしい由来とお味ですね。金平糖は日持ちの良さから戦時中にも重宝されていたので、戦地で配られた際には、兵隊さんがその色や味から祖国を思い出していたのだとか。

そんな風に色や味にも歴史や日本の文化が表れている金平糖ですが、時代と共に世の中に多種多様なお菓子が出回るようになったことで、2代目の野村卓さんは現代の金平糖のあり方を考えるようになったのでした。そこで大阪糖菓さんでは、金平糖の色と味のバリエーションを豊かにする試みをスタート。このとき可愛いピンク色のいちご味や、水色のソーダ味など、今までにないカラフルな金平糖が次々に誕生し、色ごとにお花のイメージを持たせるなど、新しい魅せ方もできるようになりました。それにより「どこか懐かしいお菓子」から「可愛い!」と思わず手に取りたくなるお菓子へとイメージチェンジを果たし、大阪糖菓さんの金平糖はより多くの人の手に届いていきました。

大阪糖菓さんのお花をイメージした金平糖

そんな大改革をおこした2代目の卓さんはとにかくアイデアマンで、チャレンジャー。「コンペイトウミュージアム」の創設も、「メーカーとして製造工程を伝えたい」「ただ商品を作るだけでなく、金平糖の歴史や文化も継承していかなければならない」という卓さんの強い想いがあってのことでした。2003年春にスタートした「コンペイトウミュージアム」は金平糖づくりの見学と体験ができる施設として、設立から半年後には大人気に。せっかく来てくれる子どもたちにより興味をもってもらえるようにと、卓さんは南蛮人のコスチュームで案内をするようになり、社員みんなで楽しくお客様をお迎えする文化が根付いていきました。

職人の手から生まれる星の粒

大阪糖菓さんの金平糖へのこだわりは、見た目や味だけではありません。熟練の職人たちが手がける金平糖の魅力は、「凛としたツノ」と「透明感」。実は金平糖の「ツノ」や「色味」の風合いは、作り手によって変わってくるものなのだそうです。

その秘密に迫る前に、まずは金平糖のつくり方について。みなさんは金平糖がどんな風につくられているかご存知ですか?

金平糖は、大きな鉄の釜の中で、グラニュー糖の小さな粒を回しながら、蜜をかけてコーティングしていくことで、出来上がります。今回お邪魔した大阪糖菓さんの工場には、180cmの釜が16台並んでおり、5人の職人さんがそれぞれ3つか4つの釜を担当されていました。釜は1分間に2回転のペースを保ち、毎日朝の8時から夕方の5時までゆっくりと回り続けます。熱した釜の中で砂糖の粒を回し、蜜をかけ、しっかりと乾燥させ、また蜜をかける。そんな1日を通して、金平糖は約1mm大きくなり、大体10日〜2週間ほどの時間をかけて出来上がります。砂糖の粒を金平糖たらしめるあのツノのような形状も、この工程の中で次第に生まれてくるものです。釜の中でたくさんの砂糖の粒が触れ合いながらまわる間、くっついたり、離れたりすることでツノが生えてくるのだとか。

今回お邪魔した八尾の金平糖工場

このようなつくり方は、基本的にどの金平糖メーカーにも共通するものですが、それだけでは大阪糖菓さんが大切にしている「凛としたツノ」と「透明感」は実現されません。そこに欠かせないこだわりとは、「素材の良さ」と「丁寧さ」。金平糖の芯となる最初の一粒にも、蜜にも、良質なグラニュー糖だけを使用することで、しっかりとしたツノに仕上がります。そして透き通るような透明感を出すには、最初のひと回し目からとにかく丁寧に、時間をかけてコーティングしていくことが大切です。蜜をかける量や、タイミングは全て職人さんの匙加減。さらにその日の気温や湿度によって釜の温度や角度まで調節します。その適切な判断が下せるのは、まさに一流の金平糖職人。釜は自動で回りますが、目を離すことなく、丁寧に向き合ってこそ、美しい金平糖をつくりあげることができるのです。

ちなみに金平糖に色や味がつけられるのは、約10日間の工程のうち、最後の1日程度。そこまでは純粋な砂糖だけで形づくられた真っ白な状態です。大阪糖菓さんでは定番のフルーツから、金平糖らしからぬフレーバーまで、様々な味を展開されているので、「どんな味付けの金平糖もできちゃうのか!」と思ってしまいそうなところですが、それは大阪糖菓さんの試行錯誤の賜物。例えば、ワインや地元の特産品など特別な食材を用いて味付けをする際には、素材の味わいや香りを損ねないように、試作を繰り返し、最適なレシピを編み出しているそうです。

色がつけられ、完成間近の金平糖

食べるだけじゃない!金平糖のかわいい魅力

その昔、地元の商人が金平糖の釜を量産したことから、大阪では金平糖づくりが盛んに行われてきました。しかし時代と共に伝統的な製法で金平糖をつくるメーカーの数は減り、今では全国でも10社程度だと言われています。

そのことからも、大阪糖菓さんが貴重な存在であることは明らかですが、さらにその個性を語るならば、「金平糖を次世代や、海外の人々にひろめること」に全力を注いでいるところではないでしょうか。

「ワクワク・ドキドキ」をコンセプトに、手に取った人が楽しくなれるような商品づくりだけでなく、近年では「食べること」にとらわれない、金平糖の新しいあり方を提案する商品も手がけられています。

たとえば、金平糖と同じ砂糖の成分を用いた石鹸。みなさんは砂糖に高い保湿効果が期待できることをご存じでしたか?この商品は一般的にはあまり知られていない砂糖のそんな側面を活かすことで、「“甘いもの”というお砂糖の悪いイメージを払拭したい」と考え、野村社長が最初に取り組んだものだそうです。このときかわいいパッケージを考える中で誕生したのが、お砂糖の妖精「シュガラブちゃん」。以来「コンペイトウ王国」のオリジナルキャラクターとして大活躍しています。

砂糖をつかった「シュガラブ石鹸」

また八尾のゴムメーカー錦城護謨さんと共同開発した「金平糖のブレスレット」もお子様に大人気。金平糖のかわいい見た目も楽しんでほしいと考え、アクセサリーやインテリアとしての魅力を提案されています。「飾って楽しんでもらいつつ、非常時などには口にすることもできる」という野村社長の言葉に、思わず「なるほどー!」と声に出してしまいました。

世界一小さな金平糖(小さくてもちゃんと星形です)

そして、「シュガラブちゃん」をはじめとするゆるきゃらや、オリジナルマンガ「コンペイトウ王国物語」など多彩な発信活動を通して、たくさんのひとに金平糖が持つ豊かな歴史と文化を伝えています。そのように間口を広げることで、多くの人との出会いの機会を創出し、一瞬でも「コンペイトウ王国」のファンになってもらうことを目指しているのだそうです。

また近年では、人気のアニメや映画などで、金平糖が日本らしさを感じさせるお菓子として登場することから、海外の方が興味を持って「コンペイトウミュージアム」に訪れることも増えているとか。そこで、「海外の方におもてなしするためには、自分たちも海外の文化を知らなければ」と考え、留学生のインターンシップの受け入れに取り組まれています。最近では、インターンシップ終了後に、そのまま社員となった方もいて、会社の中で多様な文化が交わり合っているようです。そんな中でも、誰の言葉も通じないお客様がいらっしゃることもしばしば。そんな時は「コミュニケーションはハートでとれる!」と信じ、いつでもあたたかくお客様を歓迎しているといいます。

コンペイトウミュージアムの玄関で出迎えてくれる、原寸大の金平糖釜

それだけ「金平糖を伝える」ことに本気で向き合う大阪糖菓さん。野村社長がおもう金平糖の魅力とはどんなものなのか、伺ってみました。すると「星の形をした金平糖は、夢と希望です」とにっこり。実際にお客様に金平糖を手渡す際にも、そう伝えているのだそうです。「夢と希望」そんなふうに思いながら、甘くてかわいい金平糖を食べることで、幸せになってほしい。野村社長のそんな想いを知ると、大阪糖菓さんのユニークな商品や、コンテンツの数々には、どれもたっぷりの愛情が込められているのだなと感じられました

金平糖で地域とつながる

全国や、世界からのお客様を日々お迎えしている「コンペイトウミュージアム」ですが、スタートの際には「八尾にだれが来るんだ?」と厳しい声を投げかけられることもあったとか。それでも、全国から来てもらえるような面白いコンテンツを届けることで、八尾に工場見学と体験に来てもらい、金平糖を通して地域のことも知ってもらいたいと、運営をつづけて来られました。そんな大阪糖菓さんは、地元企業とのコラボレーション商品や、八尾の特産品「若ごぼう」の金平糖をつくるなど、常に地元八尾を盛り上げる存在です。「地産地消」という言葉をよく聞くようになって久しいですが、野村社長は「農作物も、金平糖にすることで、遠くの場所までその魅力を届けられる」と考えて、特産品を使った金平糖づくりに取り組んでいるといいます。

八尾の特産品「若ごぼう」の金平糖

八尾の企業の共創地点「みせるばやお」での活動にも積極的に参加されている大阪糖菓さん。野村社長に八尾のまちの印象を伺ってみると、「個性のかたまり!」とのこと。熱い思いや面白い考えをもった人が多いからこそ、コラボレーションが生まれやすい環境だと感じているそうです。

またコロナ禍で、地域内での関係性づくりの大切さを実感したといいます。「しんどくなってから助けを求めるのは難しいけれど、日頃からの繋がりがあれば、大変な時も力を合わせられる」。そんな場所が「みせるばやお」であり、八尾のまちのひとつの良さなのだと語ってくださいました。

かけがえのないスタッフと永く、ワクワク

金平糖づくりの見学と体験に力を入れている大阪糖菓さんでは、コロナ禍には大変な時期がありながらも、少人数での体験教室にシフトするなど柔軟に対応しながら成長をつづけて来られました。

そんな大阪糖菓さん、これからは、金平糖の価値をもっと高めることで、スタッフが誇りを持って長く勤められるような会社を目指したいといいます。

人手不足が業界全体の課題である中、現在大阪糖菓さんでは、20代の職人さんも活躍中。それも日頃からの「金平糖を知ってもらう活動」が実っている証かもしれません。そんな大阪糖菓さんで働くスタッフのみなさんは、それぞれに個性豊かな面々だとか。社内に商品企画を担当する部署は特になく、様々なポジションのスタッフから「これをやってみたい!」と声があがることも多いそうです。野村社長曰く、「みんな同じだとおもしろくない!金平糖といっしょですね」とのこと。

個性豊かなみなさんがつくりだす、カラフルな金平糖に、これからもワクワクさせられそうです!

金平糖をつくる職人さん

おわりに

実はCyanがはじめて大阪糖菓さんにお邪魔したのは、冒頭にお話しした「カレーの金平糖づくり」の最初の打ち合わせでした。こちらからお願いしておきながら、その時は、「カレーの金平糖って本当においしく出来上がるのだろうか??」と半信半疑だったことを覚えています。

1回目の試食の時は、あまりにスパイシーで食べると口がヒリヒリしてしまいましたが、それを経た2回目の試食では、とっても美味しくなっていて驚きました!スパイスの風味がしっかりありつつも、甘くて癖にになる味わいに、「カレーの金平糖ってありなんだ!」と感激してしまいました。

それからも大阪糖菓さんは、味やツノの具合にこだわり、何度も改良を重ねてくださっていて、今度はそのストイックさに驚くことに。そんな風に、カレーの金平糖づくりでご一緒していたからこそ、今回の取材では野村社長に伺ってみたいことが盛りだくさんでした!野村社長のお話からチャレンジ精神あふれる社風とその所以を知り、製造工程を実際に見せていただくことで、大阪糖菓さんと金平糖への理解を深め、私もすっかり「コンペイトウ王国」のファンになりました。

野村社長、今回はお話を聞かせてくださってありがとうございました!

シュガラブちゃん

さて、連載「気になる八尾のあの工場」も次回でいよいよ第10回を迎えます!どうぞお楽しみに。

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