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悪夢が終わらない

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この物語は実話です。
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#榊

健康な入院生活

 七月十二日(火)榊

 「あと二十八日」。

 福留さんのベッド脇には、自作の日めくりカレンダーが掛かっている。退院の日を決めるのはもちろん医者だが、なまじ元気なため、法定伝染病である結核の「最低三ヶ月の入院」を指折り数えずにはいられないらしい。

 僕は福留さんよりも一週間遅れてここに来た。先輩患者である福留さんは、毎朝カレンダーをめくりながら、「絶対先に退院してやる」と息巻いているが、会社の

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うどんと一緒に入れ歯を飲み込む

 七月十六日(土) 榊 

 いつものように十二時に昼食が配られた病室。天ぷらうどんにつゆを注いでいると、向かいの病室から大きく咳き込む声が聞こえた。海老天でも喉に詰まらせたかと思っていると、誰かが部屋を飛び出して行った。

 あとを追って洗面所に行くと、顔を真っ赤にした小坂井さんが、すごい形相でうがいをしていた。「どうしたんですか」と聞くと、小坂井さんは慌てた様子で、「部分入れ歯、飲み込んじゃっ

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女性専用病室に忍びよる影

 七月二十日(水)榊

 何者かに拉致監禁され、歯をすべて抜かれるなどの暴行を受けたあと、解放されると駐車していた自分の車に駐車禁止の札が貼ってあった。夢から覚めると夜中の二時だった。

 体を起こし、誰かのいびきをしばらく聞いた後、棚から買い置きの経口補水液を出して飲んだ。冷えていないそれは甘いだけで美味しくなかったが、いくら飲んでも喉の渇きは癒えなかった。

 ベッドから起き上がり、部屋を出る

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ある妄想

 七月二十四日(日)榊

ある病室に、誰とも話さず、カーテンを締め切っている患者さんがいました。ある日、その病室を、ひとりの男の子が訪ねました。

 「あの、すみません」

 「何でしょう」

 か細くて、今にも消えてしまいそうな声でしたが、返事がありました。男の子は「ちょっとだけお話しませんか」と聞きました。すると、閉じていたカーテンが少しだけ空き、人がひとり入れるくらいの隙間ができました。男の

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長い夏休みが終わる

 七月二十八日(木)榊

 来週の月曜に退院することが決まった。昼過ぎに医者から呼び出されナースステーション行くと、担当医の本多から「培養の結果菌ももう出ていませんし、大丈夫ですね」と言われた。僕の長い夏休みは終わった。

クズにも妻はいる

 八月一日(月)榊

 朝食を食べ終わる頃、妻がやって来た。今日でこの二ヶ月過ごした病室とお別れか思うと、不思議な気分になった。「榊さんがいなくなると寂しいですね」と砂原君が言うので、「僕も寂しいけど、二度と来ないよ」と答えた。

 そうは言ったものの、しばらくは検診に来なくてはならないのだ。もう有給もないのにわざわざ平日の午前に会社を休み、車でここまで来なくてはならない面倒は考えると気が重かった

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