2020年7月の記事一覧
老人はイボ痔の夢をみるか?
八月九日(火)大沢
同室の田渕さんがたまに昼寝しながらうなされている。その際、かなりはっきりと寝言を言うのだが、同室の人間は慣れているらしく、誰もつっこまない。どんな夢を見ているのか本人に聞いてみると、「君は、同じような夢を見ることがあるか」と逆に質問された。
「ないですね。もともとあまり夢をみないので」
「そうか、ならいい」
「イボ痔なんですか」
僕の言葉に、田渕さんが狼狽
高校時代の同級生に復讐する
八月十四日(日)野田
夕食後から就寝までの時間に病院を抜け出し、駅前のライブハウスへ行った。本当に新井がバイトしているかを確認するためだった。
会場はライブがこれから始まるところのようで、入口に人だかりができていた。待ち合わせしているふりをして階段を何度か行ったり来たりしていたが、いつになっても新井は現れなかった。今日は外れか。帰ろうとしたところで階段に張ってある色とりどりのチラシの中か
君がいないとさみしい
八月十五日(月)砂原
夕食後に屋上へ行き、ギターを抱えた野田君と夜中十二時頃まで語らうのが日課になっていたのだが、なぜか昨日は野田君の姿が見えなかった。
痛風が治ったこと、そして片想いしていたゼミの女が男と別れたらしいことを話したかったのだが、一時間待っても彼は現れなかった。病室を覗いても不在だったので、仕方なく十一時までテレビを見て寝た。
入院生活で食べず嫌いが治る
八月十七日(水)大沢
子どもの頃から乳製品が嫌いだった。しかし入院してからは毎朝ヨーグルトを食べている。朝食に必ずついてくるからだ。そして今ではデザートとして、何の躊躇いもなく食べている。
初めは魔が差したとしか思えなかった。なぜ食べようと思ったのかも憶えていない。いつもは手をつけずに残していたヨーグルトを、気づくと右手に持っていた。そして左手にスプーンを持ち、何かに操られるように口に入
復讐のことで頭がいっぱい
八月十八日(木)野田
どうかしているのは自分でも分かっている。何かに取り憑かれたように復讐のことばかり考えている自分が怖い。しかしトイレで、洗面台で、窓ガラスに映る右目を見ずにはいられない。そして次の瞬間には必ず、新井の顔が浮かぶ。
やはりあの男に会って清算するしかない。決着をつけなければ、きっと何にも手がつかない。人は過去にけりをつけなければ前には進めない。俺は前に進まなくてはならない