事業活動の社会的意義とモラル信任効果 醸造#3

ある組織において、当該組織が日々行う活動の社会的意義ややりがいについて、構成員に意識させるということは広く行われている。
なお、最近では、組織の存在意義をパーパスとして定義することも増えているが、同じ文脈でとらえることができる。

例えば、入社式で、社長が新入社員に対して、会社の事業活動の社会的意義に触れながら激励の言葉を贈るというのは、よくある光景である。

あるいは、社内研修や上司と部下のやり取りにおいて、仕事の社会的意義ややりがいに触れつつ、従業員の士気・帰属意識を高めるということもある。

従業員の士気・帰属意識を高め、それにより、従業員のパフォーマンスが上がれば、会社の事業活動にプラスの影響を及ぼすことから、このこと自体に問題があるわけではない。

ただし、念頭に置いておくべきことがある。
それは、「モラル信任効果」と呼ばれる、認知バイアスである。

「モラル信任効果」とは、自らが行っている活動の社会的意義・価値を免罪符として、倫理に反する行為をしても許されるものと考えることをいう。

平たくいえば、日ごろ、立派な活動をしているのだから、少しくらい悪さをしても許されるだろう、という考えのことをいう。

今日は沢山運動したから、いつもよりも沢山ビールを飲み、美味しくご飯を食べても大丈夫だ、というのも、これにあたるかもしれない。
こうしてダイエットの計画は簡単に崩れてしまうわけだが、これは微笑ましい例である。

社会的地位のある人物・組織による、倫理に背くような行為・法令に違反する行為は、毎日のように報道されている。
また、名だたる一流企業による不正事案というのは、後を絶たない。

会社の事業活動の社会的意義を周知し、従業員にやりがいをもたせた結果、従業員が自らの活動の社会的意義を不正の免罪符として考えてしまっては本末転倒である。

不正をしないようにコンプライアンス研修で徹底する、といった対応の効果は限定的だろう。
例えば、上場企業の不正事案というのは毎年後を絶たないが、上場企業にはそれ相応の内部統制システムを構築することが求められ、コンプライアンス体制の構築というのも当然、必須項目であり、一通りのコンプライアンス研修が行われていることが通常だからである。

事業活動の社会的意義ややりがいを強調し、自分たちが特別だ、社会にとって必要だ、との認識をもつことは、事業活動を推進するエネルギーになることは間違いない。

一方で、自分たちは特別だ、社会にとって必要だとの認識は、人間の認知バイアスゆえに、行き過ぎると不正の温床になり得る。

まずはこのことを認識し、各構成員のモラルの問題にしないところから始める必要がある。

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