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はじめてのチュウ

バカな小学生だった。
ある時期「度胸試し」が流行った。

その種目は多岐に及ぶ。

<エントリーNo1「崖跳び」>
団地の崖から飛び降りる度胸試し。
2mはある高さ。
骨折はしなかったが、擦り傷、生傷は耐えなかった。

<エントリーNo2「ターザン」>
通学路の帰り道に農業用のネットが枝に絡まってロープのように垂れ下がってる場所があった。その木は崖の端で、下の道路側に張り出すような形になっていた。
下まで3〜4mくらいはあったか。
ランドセルを持ち寄り、下に並べてマットの代わりにする。
崖からそのネットを掴んで一気に飛ぶ。
ブラ〜〜〜ンとぶら下がり、振り子のように道路の方へ跳びだす。そしてまた崖の先端へ戻ってくるという仕組みだ。
「何回ターザンできるか」その振り子の数を競う。2度ほど尻から落ちた。怪我はない。
ランドセルマットは素晴らしい仕事をした。

<エントリーNo3「ブロック歩き」>
小学校の近くにあった県営住宅。
10階建てくらいか。
今では考えられないことだがその屋上へ自由に出入りできた。屋上には柵もない。
20センチくらい高くなったブロックの枠があるだけ。そのブロック枠の上を平均台にみたて、ぐるっと歩く。歩いた距離の長い者が勝ち。一歩、外側へ踏み外していたらおそらく死んでいた。

他にも「ドカン潜り」や「公園フェンスの上を一周」「怒鳴り親父の家にボールを投げ込み取りにいく」「坂道ノーブレーキ」「野良犬アタック」etc...

今考えたら身も毛もよだつようなことばかりしていた。

【異色の度胸試し】

色々やった度胸試し。
その中で、ひときわ異色の度胸試しがあった。

ルールは簡単。
野原に入ってヘビを探す。捕まえる。
そのヘビと「一番早くキスできたもの」が勝ち。

アホだ。アホの極みだ。

その当時。これを制覇した者は誰もいなかった。ヘビは意外とすぐに見つかる。
草むらや石垣の隙間などをくまなく探す。
30分もすれば、誰かが一匹は見つける。
あとは、それを手掴みし、キスをするだけだ。

【運命の相手】

「おったぞ!!」
フジもん(仮名)が声をあげる。

「そこ、そこや!そっち行った!」
「よっしゃ!まかせとけ」
コロちゃん(仮名)が草むらにガバっと手を突っ込む。

「捕まえたぞ〜〜〜」
「おおおお・・・」
皆がワラワラと集まる。
「頭は三角やないな?腹は黄色くないか?」
私がコロちゃんに確認する。
頭が三角で腹が黄色いヘビはマムシだから近づくな、と教えられていた。

「ああ、大丈夫や。」
コロちゃんが捕まえたヘビを頭と尻尾を両手に持ってビョンと伸ばす。
小さい。30〜40cmほどだったか。
お腹も全体も白い、ツルツルとした可愛いヘビ。

「キスの権利」は捕まえた者にある。

エピソード#9


<1人目:コロちゃん>
コロちゃんがヘビの頭を持って自分の顔に向ける。
ドキドキドキドキ....
皆が固唾を飲んで見守る。
コロちゃんが口をタコにして突き出す。きもい。
「きーす!きーす!」
「あか〜〜ん!!恥ずかしい」
ヘビをグイッと離した。
「コロちゃん失敗!ブ〜〜〜〜〜!」
フジもんが嬉しそうにはしゃぐ。

ここからはジャンケンで決める。
その結果。
フジもん、トクさん、ペーやん、私の順番になった。

<2人目:フジもん>
「きーす!きーす!」
「うう、あかん、きもい。。」
フジもん脱落。
あれだけ張り切ってこのザマか!
いつもフジもんはこうである。

<3人目:トクさん>
「きーす!きーす!」
「いや、俺はええわ。」
はぁ??空気の読めないトクさんがスルー。

<4人目:ペーやん>
「きーす!きーす!」
「ううう、、プルプル... ぶへ!」
唇まで数センチというところで、ペーやんリタイア。

そして。
キタ!私の番だ。
というか、わかっていた。

遊び仲間の中でいつも「オチ」をつけるのは私かコロちゃんの役目だった。
私たち二人は遊びの中で、いつも周りを盛り上げ、皆が飽きないように気配りをし、最終的には「結果を出す」役を求められていた。
だから最初にコロちゃんが失敗した時点でこうなることは予想していた。

「よっしゃ、きっぴの番や!」
(わかっとるな...)
コロちゃんがうざいくらいのアイコンタクトを送ってくる。

<5人目:私>
「きーす!きーす!」
「きっぴ!きっぴ!」
「いーけ!いーけ!」

「うえええ、マジかぁ、、きもいわぁー(棒)」

そうでもない。
実は得意だった。虫も爬虫類も何でもいける。
ヘビを掴むくらい何ともない。
キスくらい余裕だ。
そう思っていた。

(ほな、そろそろフィニッシュを決めるか)

わざと気味悪がってつぶっていた目を開けた。
その時。
ヘビのつぶらな黒い瞳と目があった。

途端に思い至る。

これは...キスだ。
キス...だよ...な??
ええ?ちょっとまてよ。
これが私のファーストキス?
おいおいおいおい!!
これはあかんヤツちゃうか。
最初がヘビでいいのか!!!!!

【はじめてのチュウ】

「きーす!ーすいーけいーけ!
「きっぴ!きっぴ!
きっぴ!きっぴ!

取り囲むヤツらのボルテージは最高潮。
もはやここで引き返すことなどできようはずもない。
みんなが「オチ」を待ってる。
私がヘビにキスをして大爆笑!それを待ってるのだ。

私のファーストキス、、、ヘビ、、、
でも、、みんなが、、、ここでやめたら、、でも、、
ファーストキスが、、、

ぐるぐるぐるぐる...頭が回転した。
唇まであと数センチというところでずっとプルプル止まっている。

「もーーう!はよチュウせぇ!」
フジもんが怒鳴った。

ハ!!!!!!!!
その声で気づいた。
これはキスではない!
チュウか!チュウだ!キスではない!チュウだ!!

あの時。
私の中で何が起こったのか。
今考えると理解不能だ。
『チュウはキスではない。だから大丈夫』
そう思ったのだ。

チュウ❤️!!
私はその日。ヘビと「はじめてのチュウ」をした。

「ギャハハハハハハハハハ」
皆、おおウケである。
私も一緒になって笑った。
涙が出るほど笑った。
無事「オチ」をつけることが出来て安堵した。

「よっしゃ〜〜!次、野球しようぜ〜」
コロちゃんを先頭に、皆が走り出す。

「ごめんな、、ありがと」
私は先ほど熱いチュウを交わした白いヘビを草むらに戻した。
ヘビはシュルシュルと草むらの中に消えていった。

その後。
「ファーストキスはいつやった?」
学生時代、男同士でそういう会話になる時がある。
「俺は、、高校生の時や」
私はそう答える。

実は小学生でお相手はヘビ。
などと口が避けても言えない。

だって、あれはキスではない。
はじめてのチュウだから。

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illustration: のんち(@Nonchi_art


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