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「ポイントカードはお持ちですか?」

別にイライラしていたわけじゃないけど、とうとう言ってしまった。
「勧められたくない人もいるんです」と。

もうずいぶん前から、店のレジで「ポイントカードはお持ちですか?」と言われるのが嫌で、無視したり、「大丈夫です」などと断ったりしてきた。

あの一瞬で、少し気分が悪くなる。
「持っていないけど何か問題ありますか?」と言い返したい気持ちを押さえ、大人になりこれまでしのいできた。

とくに嫌なのは、断っているのに、さらに確かめるような間合いができた時と、よく行くお店で繰り返されるそれ。
かといってその店に行かないことにするのも億劫というか癪というか。

で、昨日ついに駅前のファミマで、冒頭の言葉を吐いてしまった。
いつものように聞かれるだろうな、とは思っていた。
この時は、小さな声で「結構です」と言った後、オバチャンの動作が止まったので、まずいパターンだなとは思った。おつりをもらわず去るわけにはいかない。

コンマ何秒の世界だ。1/10ぐらいにスローダウンした映像のなかで、(このオバチャンちゃんは何かを言ってきそうだ)と考える時間がたっぷりあった。
案の定、
「お持ちでなければ、今すぐにお作りしましょうか?」と来た。
で、冒頭の台詞。
「勧められたくない人もいるんです」
オレの言葉が意外だったのだろう。元気が良かったオバチャンの顔付きが、スローモーションで悲しい表情に変化。ほうれい線がより深く、閉じた口の両サイドを下方向に長く伸びた、ように見えた。

あなたは悪くないんだよ、店長に言われているだけだよね。わかってるよ。
オレはオレで自己弁護をしながら店を出た。
夕飯の食卓で、このことを妻に話したら、「店員さんがかわいそう」の一言だけ。話題はすぐ他へ移った。

※2015年5月

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