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グリーン車にいたせこいおっさん

東京駅行きの東海道線のグリーン車に座っていた。
すぐ後ろの座席に会社管理職風40歳代後半男性2人。まあまあ大きな声で、偉そうな口調で、俺たち仕事できます的話題が止まらない。
「だいたいあれなんですよ」
「そもそもね」
「いい提案なのになあ」

商談の帰りなのか、元気なおっさん達の会話が否応なく耳に入ってくる。
聞き入っていたのは僕だけじゃないはず。
藤沢駅を出た頃、後方から検札の女性車掌が入ってきた。
客席頭上のランプを見て、グリーン券情報を確認している彼女が、おっさん達のとこで足を止めた。

「すみません、グリーン券を購入いただけますでしょうか?」
俺たち仕事できます的会話を遮った格好だ。
「はい?」とおっさんの片割れ。以降応えるのはその片割れ。
「どちらでお降りでしょうか?」
「大船まで」
「それではグリーン料金830円です」
支払っている様子。
「ありがとうございました」
女性車掌は前方車両に消えた。
大船駅。おっさん達は降りる気配もなく、できます的会話を続けている。
「わかってないよね」
「そんなもんですよ」
「そんなもんか」
大船駅を出ると、今度は前から別の女性車掌。
「どちらでお降りでしょうか?」
「横浜まで、だな」
「それでは差額の210円を頂戴いたします」
「スイカで払える?」
「すみません、現金でお願いします」
僕は思わず、「せこ!!」と発した。周囲に聞こえるぐらいの声で。
 
睡魔に襲われて僕は横浜駅を記憶していない。
品川駅を通過して目が覚めるともうおっさん達の姿はなかった。

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