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我が家には犬が一匹いる。

名前はフラン。
名付け親は夫だ。

この名前がどこから降ってきたのかわからないが、私は勝手に、卵と牛乳でできたフランス菓子の名前からきているのではないか、と思っている。

フランはトイプードルだ。体重は3キロ。
小さい。

毛色は菓子のフランのような黄色ではなく、ミルクティーのような、ちょっとくすんだ色をしている。

巻き毛。

頭が丸くてホワホワとしているので、たまに陽だまりに寝ていると、天使がいるのかと思ってしまう。


フランとの付き合いはかれこれ10年。
見た目はぬいぐるみのように愛らしく、いつまでたっても子犬のようだ。

でも、気がつけば、フランもなかなかのいい歳になっている。


私はフランを眺めるのが好き。

ずっと一緒に暮らしていると、フランにもフランの好みや決まり事があることに気づく。

例えば、ふかふかとした柔らかい場所を好む。

毛布はもちろんだが、リビングの板張りの床のまん中あたり、誰が落としたのか、薄っぺらいタオルが落ちていると、上にすかさず乗る。

それはフェイスタオルだったりするから、フランの体とほぼ同じ大きさで、全然
余裕がない。

まるで大海原に、自分の小さな小舟を見つけたかのように、なぜか急いでびょんと飛び乗る。そしてそこだけは安全地帯なのだ、といった感じで行儀良く座っている。


ここだという場所を定めると、自分の身体のラインにそった寝床を作るため、真ん中あたりをカリカリカリッと掘る。そして、その場でくるくるくるっと何度か回転し、ジャストサイズのくぼみを作りあげる。

その後の流れはだいたい、後足をなめて湿らせ、耳の中に入れて耳のそうじ。

足裏を念入りになめて肉球のそうじ。

その後、太もものあたりの肉をホムホムと甘噛み。

そして、前足の少し上をなめて濡らしてから、目元から鼻先を挟み込み、上下に何度かさする。

あまり効果はないような気がするが、目やにをきれいにしようとしているようだ。


そうなのだ。体をきちんときれいにしてから眠ろうとしているのだ。
自分でこしらえた最高にフィットした寝床の中で。

フランにはフランの生活があり、決まり事がある。
きっと、他の家の犬も、そのこなりの決まり事があるのだろう。
そして、それは他のどんな生き物にも。

寝る前は、からだをきれいにして寝たほうが気持ちがいいに決まっている。

それが気持ちが良いからしているのか、本能的に埋め込まれたものなのか知らないけれど、必要な事を丁寧に、おこたる事なく日々やっているのだ。

人間の都合に振り回されることも多いのだろうが、誰にも犯されることのない確固とした領域、自ら決めた、自分のためだけの決まり事がある。

手足を綺麗になめあげる仕草は、それはそれは、愛情たっぷりで、丹念に丁寧に隅々までおこなわれる。

人間はいろんなものを所有し、身につけ生きているけれど、動物は身体ひとつなんだなと思う。

大切な自分の身体を労わり、整える事を怠らない。
じぶんの最も大切なものをよくわかっているのだ。

これは本当に当たり前のことで、とり立てていうのは、馬鹿なんじゃないって、笑われるかもしれない。

でも、わたしには、その事がとてもとても愛おしく、そして、とても素敵なことに思えるのだ。


フランにはフランからみえている世界がある。
この家が心地のいい居場所で、幸せであることを願う。




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