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死ねという言葉。モンゴルからは届かぬ張り手。



「死ね」という言葉を使わないように心掛けて生きてきた。
子供の頃は、相手が傷付くから…とか、そういった教科書的、道徳的理由で使っていなかった気がする。
自分が今でも尊敬している小学校時代の担任が教壇で言った「死ねという言葉は使ってはいけません」を未だに律儀に守り続けている。
しかし、人を傷付けるその他の語彙の方が発達してしまった気もする。



大人になって思えば、人が「死ね」という言葉を使う時、それは多くが「失敗をした時」「不平不満を持ちつつも現状や相手を変える具体的な手段を持たない時」「その行動を起こせない時」といった場面で使う捨て台詞やガス抜きのようなケースばかりだった。
仮に本当に人を殺してしまえば追われる弱者、幽閉される弱者に転落する。

それは自分の弱さを相手に露呈させた上に自分自身がそれを認識してしまう言葉。それ故にその言葉を特に避けていたのだと気付いた。
「死ね」という言葉を使う人を、それだけで嫌いになるということは自分の経験上無かった。
しかし、そこから弱さを読み取る事は心底容易だったため、自分がそうなる事を恐れていたんだと思う。



「死ね」は命令形の言葉ではあるものの、最終的な決定権を相手に委ねてしまっている要素がある。
この言葉をあまり好まない理由の一つだった。
お前がどうにかして殺すんではないのか!? と思ってしまう。(殺してしまえば前述の通りだが)


本当に上手く殺す人は「お見事」の一言が思わず出てしまう。不謹慎ながらも。
警察に追われることもない、そうした消され方をした者を実際に何人も見てきた。
ゾルディック家の人?




仮に本当にトドメを刺す場面で「死ね」を使用する際も、最期に手向ける言葉はもっと両者のバックボーンに関連したもので送らないと消化不良に終わってしまうような気もするというのもある。

その言葉はファビュラスではない、というのも大きな理由の一つだ。叶姉妹はもっと上品に相手を送るだろう。
あと、デヴィ夫人は「死になさい、あーた」と言うだろう。
かつて自分に色違いダンバルを交換してくれた高貴なフォロワーは、どんなに辛くても己のファビュラスを守って生きようとしているので同年代として尊敬している。
「死ね」という言葉を使っているのを見た事がない。
おそらくは言いたくなるような瞬間もあったはずなのに。
それは越えてはいけない一線なのだと自分に誓っているのかもしれない。


自分は高貴に生きたいとまでは言わない。(言えない)
まだ高貴と呼べるそのラインに到達できていない。
しかし、最低限の品格だけは維持していきたい。















『アホ死ね』


仕事何でもやる!人こと
第68代横綱、朝青龍の言葉である。
彼はどうしてこの言葉を使ったのか。
バイトと間違えられたからだ。


朝青龍のこれは強さなのだろうか。
この言葉は強さなのだろうか。
強さと言っていいのだろうか。
ここまで問いかけると、その点に関して疑問を感じる者が少し増えると思われる。


そう、強さではなく、「強い言葉による、届かぬ恫喝」なのだ。
死を恐れる者が出す言葉なのだ。
バイトと間違えられた者が咄嗟に出す言葉なのだ。
血が上った頭で、指先で届けようとした言葉なのだ。


朝青龍ですらその強い言葉を使いつつも、怒りを乗せた渾身の張り手を相手に届ける事はできなかった。
宙に浮いた強い言葉は行き場を失い、その輪郭も失い、少しずつ虚空に溶けていき、いずれ消えてしまった。
その代わりに、朝青龍の中に少しばかりのわだかまりが残った。
ネットには魚拓も残った。
短気な弱者としてのレッテルすらも貼られてしまった。

いや、普通に失礼なリプを送った側の方が悪いと思うけども。
























『…あまり強い言葉を遣うなよ』
『弱く見えるぞ』


漫画「BLEACH」の登場人物。藍染惣右介の言葉。
作中最強クラスの人物から放たれるその言葉を時折思い出す。

そうか、やはり弱く見られたくなかっただけなのか、自分は。と再認識させられる。

弱音を吐く事は自身の余裕を維持する事に不可欠な要素だが、自分は余裕を維持しているように見せる見栄張りの方面に能力が偏ってしまっているように感じるため、その辺りを上手く行えるようにしていきたいと思いながらここ数年を過ごしている。
「死ね」という言葉は使わないまでも。
ただ、本当に辛いのなら、苦しいのなら「死ね」を使っても良いよと言いたくなる人は多く存在する。
自由にその言葉を使ってほしい。そんな言葉一つじゃ自分は嫌いにはならないから。



「死ね」と言いながら何かを殺す時、倒す時、自分が上位存在なのだと思い込む事ができる。
不安を、不十分を、不可能を、不愉快を、少しだけあやふやにしてくれる微量の脳内麻薬。
本当に苦しい時は頼っても良いと思う。脳内麻薬は合法だ。




重ねて言うが、自分はこれからもその言葉を使わないように生きるだろう









その代わりに
ボクが使う
とっておきの言葉は……♠︎




























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