01_展示の様子

【100均ガジェット分解】(8)ダイソーの「ワイヤレスヘッドセット」

※本記事は月刊I/Oに掲載された記事にページの都合で省略した部分を追加したものです。

2019年9月、ダイソーからスマートフォンとBluetoothで接続できる「ワイヤレスヘッドセット」が300円(税別)で登場しました。早速購入して分解します。

パッケージと製品の外観

「ワイヤレスヘッドセット」は「ワイヤレス片耳イヤホン」という名前で白と黒の2色がスマホグッズコーナーで販売されています。

01_展示の様子

ダイソーではスマホグッズコーナーで販売

パッケージ表示では通信仕様はBLE(Bluetooth Low Energy)ではなく「Bluetooth 4.1+EDR」です。50mAhのLiPoバッテリーを内蔵し「連続通話1時間/連続待ち受け24時間」となっています。パッケージ裏面には「技適マーク」が表示されています。

02_パッケージ

製品パッケージ

本体の分解

同梱物
パッケージの内容は「本体」「USBケーブル(充電専用)」「取り扱い説明書」となります。
本体及びパッケージには「技適マーク」が印刷されています。取り扱い説明書も日本語・英語の2か国語に対応しており、きちんと日本市場向けの仕様となっています。

03_本体の技適マーク

本体に表示されている技適マーク

本体の分解

本体はツメで固定されているので、隙間に精密ドライバを差し込んで開けることができます。基板はケースの外形に合わせた形の1枚構成でLiPo(リチウムイオンポリマ)バッテリーはケースと基板の間に格納されています。

04_本体を開封

本体を開封

基板実装部品以外のスピーカー・コンデンサマイク・バッテリーのリード線は基板に直接ハンダ付けされています。

05_基板をケースから外した状態

基板をケースから外した状態

回路構成と主要部品の仕様

LiPoバッテリー

LiPoバッテリーはパッケージの表記通り”3.7V 50mAh”の表示があります。100均の商品には珍しくLiPo本体に保護回路を内蔵しています。

06_LiPoバッテリ

LiPoバッテリ

ちなみに同等品をAliexpress(中国の通販サイト)で検索するとUS$2.6で販売されていました。
https://bit.ly/2l0gWLp

メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。裏面には型番と思われる「XL-165-AC6919A V2.0A」と製造日(2018.6.15)の表示があります。主要部品は表面実装のLSI1個、Bluetoothのアンテナは基板パターンで構成されています。

07_メインボード

メインボード

基板としては特に特殊な設計をしている箇所はありません。コントロール用のボタンもスイッチ部品を使用しておりいわゆる「普通の設計」です。

回路構成

現物よりメインボードの回路図を書き起こしたものが以下です。

08_回路図

回路図

メインのLSI(アプリケーションプロセッサー)がBluetoothの通信、スピーカー出力、マイク入力というワイヤレスヘッドセットに必要な機能をすべて制御しています。
必要な電源についても、LDO_IN端子に入力されたMicroUSBコネクタのVBUS(+5V)を電源として必要な電圧を内部で生成しており、LiPoバッテリーの充電コントロールもこのLSIで行っています。スピーカー出力はMisroUSBコネクタの3,4ピンにもつながっています。これは完成品の検査に使用していると思われます。
キー入力(3個)は抵抗分割された電圧をADCで検出、2色のLEDは1ポートで排他的な制御(同時点灯できない)を行うなど、16ピンという限られたピン数で必要な機能をうまく実現しています。

主要部品の仕様

次に本製品の主要部品であるメインのLSIについて調べてみます。

アプリケーションプロセッサ AC6939A

09_LSIのパッケージ

LSIのパッケージ

"JL"のロゴより中国製のBluetoothやWiFiのチップセットでよく使われている珠海市杰理科技股份有限公司(ZhuHai JieLi Technology, http://www.zh-jieli.com/)製のLSIであることがわかります。
パッケージのマーキング及び基板の型番より”AC6939A”というLSIであることはわかりましたが、この型番は一般向けの販売はしておらず製造元の製品情報では詳細情報は提供されていません。ネットで検索したところ以下の中国国内向けのB2Bの販売サイトに参考回路図が掲載されており、基板から起こした回路図と一致していることでシリーズの特定ができました。

https://detail.1688.com/offer/565781949037.html

機能的には以下からデータシートが入手できる”AC6905A"をベースにカスタムされているようです。

https://bit.ly/2kZzWcM

これらの情報より推定される主な機能は以下です。
- 最大160MHz動作の32bit RISC CPU
- FS USB 2.0 OTGサポート(DP/DMあり)
- 1チャンネルのMICアンプ
- 内蔵ヘッドホンアンプ
- 10bit ADC
- Bluetooth V4.2+BR+EDR+BLEサポート
- LDO内蔵
- LiPo充電コントローラ内蔵

※2022年6月22日追記
その後のガジェットでのJieLiのマーキングのルールより、本製品のSoCは「AC6939A」に訂正しました。
同一シリーズ(同じパッケージ)の「AC6939B」のデータシートは以下より入手できます。

Bluetooth接続の確認

スマートフォンでの確認

今回はAndroid版の”Bluetooth Scanner”というアプリを使用しました。

画像10

Bluetooth Scanner

本機の電源をいれると”BT earphone”という名前で検出されるのでペアリングしアプリで接続情報を確認すると、プロファイルは「Headset」、プロトコルは製品仕様通り「EDR」で接続されていることがわかります。

11_本機の接続情報

本機の接続情報

Windows PCでの確認

本機はHeadsetプロファイルなのでWindows10(64bit)搭載のPCとペアリングをするとBluetooth Headsetとして認識され、スカイプ等の通話に使用することができます。

12_Windows10での認識

Windows10での認識

まとめ

メインボードのパターンレイアウト、回路構成ともに無理なコストダウンのための設計はされておらず、全体的にきちんと設計されています。
中国国内では今回のようにオールインワンのLSIでローコストを実現するプラットフォームを製品分解をしていると多く見かけます。実は中国の通販サイトでこれと外形の成形品は全く同じものを見つけて分解したのですが、内部の基板上のLSIが異なるものでした。
時間とコストのかかる成形品を共通にする(いわゆる公摸)ことで開発スピードとコストダウンを実現する「エコシステム」により日本仕様に変更しても「300円」という価格が実現できているのは見習う点が多いです。

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