図1_展示の様子

【100均ガジェット分解】(7)ダイソーの「センサ付きナイトライト」

※本記事は月刊I/Oに掲載された記事にページの都合で省略した部分を追加したものです。

はじめに

ダイソーのLEDコーナーで、壁コンセントに直接挿して、周囲の明るさで自動ON-OFFする「センサ付きナイトライト」が200円(税別)で売っているのを見つけました。
「100均で手に入るセンサ」ということで今回はこちらを分解してみました。

パッケージ

パッケージはブリスターパックです。台紙の表面には「約3ルクスで点灯、約13ルクスで消灯」と記載があります。台紙裏面には下の方に「MADE IN CHINA」との記載が、上の方に直接コンセントに接続して使うための「電気用品安全法適合品(PSE)」の記載があります。消費電力は約1Wとなっています。「使用上の注意」は日本語と英語の2か国語の記載です。

図2_パッケージ

製品の外観

外装はコンセントに差し込むACプラグ以外はプラスチックで覆われています。センサ部分も透明のプラスチックで覆われて電子回路部分に直接触れられない構造になっています。これは後述しますが、絶縁トランス等を使用せずにコンセントの電圧を直接使用して回路を動作させているので感電防止のための構造となっています。

図3_センサ部分もプラスチックで覆われている

ACプラグの根本には黒のスリーブがついていて、ほこり等による「トラッキング火災」を防止する設計になっています。

図4_トラキング火災防止のスリーブ

本体下部には「電気用品安全法適合品(PSE)」のシールが貼ってありました。なお、今回入手したものはシールが2枚重なっていました。

図5_電気用品安全法適合品(PSE)シール

本体の分解

■ 外装の分解

外装の固定はACプラグ間のビス1本だけです。これを外すことにより簡単に分解する事ができます。階層を開けると内部はACプラグ部分と片面カラスエポキシ基板1枚の構成となっています。ACプラグと回路基板はハンダ付けされておらず、ビス固定により基板のハンダ面と接触して導通する構造となっています。

図6_開封した本体

■ ACプラグ部分

ACプラグ部分は一体化された部品になっており直接コンセントに挿す2枚の金属板をプラスチックの成形品で固定された構造になっています。基板と接触する部分はバネ状になっています。これはコンセントへの挿抜へのストレスに配慮したものだと思われます。部品自体の仕上げはあまりよくなく、今回分解したものは成形品の「バリ」が残っていました。

図7_ACプラグ部分

■ 回路基板

回路基板はガラスエポキシ製でパターンは片面(ハンダ面)のみとなっています。電子部品はすべてパターンとは逆の面(部品面)に実装されています。部品はすべてリード部品となっています。照度センサとLEDはリード線に熱収縮チューブを被せた状態で基板からリード線のままで成形品にはまる位置まで引っ張り出しています。基板上には回路番号等のシルク印刷も一切なく、コスト優先の割り切った設計になっています。

図8_回路基板部品面

ハンダ面には部品は実装されておらずパターンのみとなっています。ACプラグとの接触部分は基板に穴をあけて周囲のパターンにハンダを盛って接触させる構造になっています。日本の設計ではハンダ部分の経年劣化を考慮してハトメを入れたりするケースが多いのですが、この辺は価格との関係で割り切っていると思われます。以下は個人的な感想ですが、商品の性格上常時コンセントに接続して使用されることが想定されるので、信頼性という面では(接触不良による発熱等の最悪を考えると)ここを割り切るのはあまり良い設計とは言えません。

図9_回路基板ハンダ面

回路構成と主要部品の仕様

■ 回路構成

以下は回路基板から起こした回路図です。部品の回路番号は基板上には表示されていないのですが、以降の説明の都合上こちらで付けています。

図10_回路図

ACコンセントから入力された交流(AC100V)は抵抗・コンデンサを通って「ブリッジダイオード(D1~D4)」で全波整流されます。外部の明るさ(照度)はR5の「硫化カドミウム(CdS)セル」で検出しています。CdSセルは当たる光の量に従って抵抗値が変化するデバイスで、セルに当たる光が多ければ抵抗値は小さく、少なければ抵抗値は大きくなるという特性を持っています。D5はサイリスタ(SCR)です。Gate(2番端子)の電圧がCathode(1番端子)に対してあるレベル以上の電圧になるとAnode(3番端子)~Cathode(1番端子)間がON状態になります。周囲が暗くなるとR5の抵抗値が大きくなり、SCRのGate電圧が上昇してON状態になりLEDが点灯します。周囲が明るくなるとR5の抵抗値が小さくなり、SCRのGate電圧が下がってOFF状態になりLEDが消灯します。ブリッジダイオードの後段には平滑用のコンデンサがなく、後述しますがサイリスタをOFFにするためにLEDと平行に電解コンデンサ(C2)がついています。
ひとつ注意しなければいけないのですが、この回路にはAC入力とLED周りの回路を絶縁するためのトランス等は使用されておらず、全波整流した電圧をそのまま回路動作に使用しています。そのため、コンセントに接続した状態で回路部分に触れると感電します。本製品が照度センサ部も含めて回路部分がプラスチックで完全に覆われていて触れないようになっているのは、このような理由によります。

■ 主要部品の仕様

パッケージのマーキング・形状および特性を実測して使用されている主要部品であるブリッジダイオード、Cdsセル, サイリスタ及び LEDの仕様を調べました。

●ブリッジダイオード: 1N4007相当品

ブリッジダイオードは本体部分が約5mmのアキシャルリード(部品の横方向にリード線が出ている)のDO-41パッケージです。

図11_ブリッジダイオード

パッケージのマーキングは「1N4007]となっており、「整流用ダイオード 1N4007」である事がわかります。定格 1000V/1Aのパワーダイオードでオリジナルは「Motorola Semiconductor」製の様ですが、現在では同じ型番で複数のメーカーから互換品が供給されています。データシートはPANJIT Semi Conductor製のものが秋月電子通商の製品ページから入手できます。

<製品ページ>
http://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-00934/

図12_1N4007の特徴

●硫化カドミウム(CdS)セル: GL5228相当品

CdSは受光面の直径が約5mmでラジアルリードパッケージ(部品の下方向にリードが出ている)です。

図13_CdSセル

外形寸法より”GL55シリーズ"相当のCdSセルだと思われます。こちらも同じ形状で複数のメーカーから互換品が供給されています。データシートは秋月電子通商の以下の製品ページから「参考技術資料」として入手できます。

<製品ページ>
http://akizukidenshi.com/catalog/g/gI-05886/

GL55シリーズのCdSセルは明るい環境(10Lux)での抵抗値(Light resistance)と暗い環境(0Lux)での抵抗値(Dark resistance)の組み合わせによっていくつかの種類に分かれています。本製品のCdSセルの抵抗値を室内の環境で実測した結果は以下です。
- 室内光(昼間): 1.5kΩ
- 暗室 1.6MΩ
この結果とCdSセルのデータシートの抵抗値のバラつき範囲より、使用しているCdSセルは「GL5528相当品」であることがわかりました。

図14_GL55シリーズ一覧

図15_GL5528のLux-抵抗値特性

●サイリスタ(SCR): PCR606J

サイリスタは幅約4.5mmで3ピンのTO-92パッケージです。

図16_サイリスタ

パッケージのマーキング「PCR606J」で調べたところ、「Ked Korea Semiconductors」製の Silicon Controlled Rectifiers(SCR, サイリスタ)であることがわかりました。データシートは以下より入手可能です。

<データシート>
http://akl.sytes.net/Reference/Diode/PDF/pcr606j.pdf

図17_PCR606Jの特徴

SCRは「一度ONになるとゲートをOFFにするだけでは電流が止まらない(OFFにならない)」という特徴があります。OFFにするためには「ゲートをOFFにした後にアノードに流れる電流も切る」ことが必要です。本製品の回路ではブリッジ整流ダイオードの後段に平滑用のコンデンサを配置せず、LEDと並行に電解コンデンサ(C2)を配置することによって全波整流波形の電圧が低い部分でサイリスタのアノードとカソードの電圧が逆転してアノードに流れる電流をOFFにすることが出来ます。

図18_全波整流波形

ちなみに、製品ページを探そうとdatasheetに記載の” http://www.kcd.net.cn/”にアクセスしたところ、このドメインは既に存在せず、色々とたどったところ現在は” 深圳市凯高达科技有限公司(KGO Semiconductors, https://www.kgd-tk.com/)という会社になっているようです。

●LED: 5mm Straw hat LED

LEDは直径5mmの白色のいわゆる「Straw hat LED」と呼ばれているものです。発光部分が面状になっているのが特徴的です。

図19_LED

本製品のLED点灯時の順方向電圧を実測した結果は以下の通りでした。
- Vf=2.72V
「Straw hat LED」は多くの種類が販売されており仕様を完全に特性することが出来ませんでした。比較的近いのは若干Vfが高めですが、WEJ LIGHTING TECHNOLOGY CO., LTD(http://www.winnerjoin.com/)製の以下のものです。

<alibabaの製品ページ>
https://www.alibaba.com/product-detail/5mm-dip-LED-straw-hat-led_1900988923.html


図20_5mm Straw hat LEDの概要

回路動作

回路図と部品仕様を元にLEDがONになる時の条件について簡単に計算してみます。LEDがONになるときのSCRのGate電圧は、
- LED(D6)のVf(2.72V)
- SCR(D5)のGate trigger Voltage(0.8V)
の合計で約3.5Vです。AC100V入力時の全波整流電圧のピークは、
- 100V x √2 ≒ 141V
ですので、SCRのゲートにはACプラグから直列抵抗R3(470kΩ)-R4(1MΩ)とR5(CdSセル)で分圧された電圧がかかります。(ブリッジダイオードのVf及びR1,R2は十分小さいため無視します)
LEDが消灯している時にSCRのGate電圧が4Vになる時のCdSセルの抵抗値は以下になります。
- 4V/((141V-3.5V)/(470kΩ+1MΩ))≒43kΩ
「GL5528のLux-抵抗値特性」より43kΩの時の照度を確認すると約3Luxですので、パッケージの記載とだいたい一致します。

まとめ

今回の「センサ付きナイトライト」は照度センサのCdSをはじめとして既に枯れた汎用的な部品のみで構成されており回路的にも低コストで照度センサを実現するための見本のような設計となっています。ACラインと回路部の絶縁がなかったり、ACプラグの接触部の構成等、低コストを実現するための「割り切った設計」となっており、ある意味「100円ショップで買える商品」の典型という感じがしました。

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