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【100均ガジェット分解】(29)ダイソーの「完全ワイヤレスイヤホン」

※本記事は月刊I/O 2021年8月号に掲載された記事をベースに、色々と追記・修正をしたものです。

ダイソーから左右が独立した「完全ワイヤレスイヤホン」が 1000 円(税別)で発売されました。早速購入して分解します。

パッケージの外観

パッケージ表示と製品の外観

パッケージの表示

一般的にはTWS(True Wireless Stereo)と呼ばれているダイソーでは初めての「完全ワイヤレスイヤホン」はダイソーブランドの「1000円イヤホンシリーズ No.1」として「TWS001」いう型番で販売されています。

パッケージの表示は日本語のみ、通信方式は「Bluetooth v5.0」、内蔵の電池容量はイヤホンが「50mAh」、付属の充電ケースが「300mAh」です。

音楽の連続再生時間はイヤホン単体で「約4時間」、充電ケース使用時で「約10時間」です。

製品パッケージの表示

充電ケースから出し入れするだけで自動でON/OFFとペアリングを行い、側面にある操作ボタンを押すことで複数の機能を操作することができます。

操作ボタンの機能(取説より抜粋)

付属のイヤーピースを使った場合音質は低音が強めですが、同じダイソーの低反発イヤーピースと組み合わせると、バランスがかなり改善されます。
※ただし、イヤーピースを外さないと充電ケースきちんと入らない場合があります。

ダイソーの低反発イヤーピース

AppleのAirPods等の数万円のTWSイヤホンと聴き比べる、音の解像感にはやはり違いを感じますが、通勤や散歩などでも屋外での日常使いでは問題はあまり感じないレベルです。当然ながら左右での再生タイミングも一致していて問題ありません。

AppleのAirPods等にある「装着検出」や「ノイズキャンセル」といった機能は本製品にはありません。

同梱物と製品の外観

パッケージの内容は「イヤホン(左右各1個)」「充電ケース」「USBケーブル(充電専用)」「取扱い説明書(日本語)」です。

イヤホンの外装はプラスチック製です。付属のイヤーピースは小さいサイズ1種類のみなので、自分の耳のサイズに合わない場合は別サイズのものを準備する必要があります。

イヤホン本体

充電ケースはTWSでは一般的な磁石でイヤホンと電極が接触する構造です。「技適マーク表示」は充電ケース裏面にあります。

充電ケース

イヤホンの分解

イヤホンの開封

イヤホンのケースはツメによって固定されているので、隙間に精密ドライバ等を差し込んで外せます。
内部はメインボード、LiPoバッテリー、スピーカー、充電電極及び磁石で構成されています。各リード線はメイン基板に直接ハンダ付けされています。

イヤホンを開封

イヤホンの主要部品と回路構成

・LiPoバッテリー

LiPoバッテリーは保護回路内蔵の501015サイズ(5.0mmx10mmx15mm)で仕様では容量は50mAhです。
同等品はAlbabaでUS$1.00で販売されています。

https://bit.ly/2TXTLCl

LiPoバッテリー

・メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR-4)の4層基板、基板の型番「X10-5376T-V2.0」と製造日(20201224)がシルクで印刷されています。

表面にはメインプロセッサ・水晶発振子、裏面にはプッシュスイッチ・コンデンサマイク・積層チップアンテナ・LED(R/B)等が実装されています。裏面には未実装のパターン(U4、C8、C16)があります。

メインボード(イヤホン)

・回路図

基板パターンから回路図を作成しました。”NM”は部品未実装のパターンです。

回路図(イヤホン)

メインプロセッサ(U2)には充電時の電源(5V)とLiPoバッテリーが直接接続されており、充電制御はメインプロセッサで行っています。

メインプロセッサの周辺部品はコンデンサとインダクタ(L5)及び水晶発振子(26MHz)のみです。
必要な電源(VDDIO,VDDBT,VDDDAC,VDDPA)もプロセッサ内部で生成し、電源のフィルタ用に各端子に外付けでコンデンサがついています。

未実装のパターン(U4)にはタッチコントロールIC”JL223B”(2019年8月号の「USBタッチセンサーライト」で紹介)が実装可能です。

プリント基板は4層でGNDもきちんとしており、非常にきちんとした設計という印象です。

主要部品の仕様

・メインプロセッサ AB5376T

メインプロセッサ

メインプロセッサは深圳市中科蓝讯科技股份有限公司(BLUETRUM, http://www.bluetrum.com/)製のBluetoothイヤホン用SoCの「AB5376T」です。
製品概要は以下にありますが、データシートは公開されていませんでした。

パッケージはQFN、20Pinという少ないピン数でBluetoothヘッドセット機能を実現しています。主な仕様は以下です。

  • 32bit RISC-V + DSP拡張(52MHz)

  • Bluetooth v5.0準拠

  • Programable GPIO

  • DC-DCコンバータ内蔵

  • 充電制御サポート

  • フラッシュメモリ:無し

ちなみに同一機能でフラッシュメモリ搭載のものも存在していて、「AB5376A」という型番になります。

充電ケースの分解

充電ケースの開封

充電ケースもツメによって固定されているので、隙間に精密ドライバ等を差し込んで外せます。
内部はメインボード、LiPoバッテリー及び磁石で構成されています。

LiPoバッテリーはメインボードに直接ハンダ付けされ両面テープで固定されています。

充電ケースを開封

充電ケースの主要部品と回路構成

・LiPoバッテリー

LiPoバッテリーは保護回路内蔵の502030サイズ(5.0mmx20mmx30mm)で仕様では容量は300mAhです。
このサイズの300mAhは汎用品では見当たりませんでした。250mAhのものはAlbabaでUS$1.00で販売されています。

LiPoバッテリー

・メインボード

メインボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板、基板の型番「PH-BZH-RJ-V1.4」と製造日(201105)がシルクで印刷されています。

表面には充電制御IC・インダクタ・充電用コンタクトピン、裏面にはマイクロUSBコネクタ・LED(R/B)が実装されています。

メインボード(充電ケース)

・回路図

基板パターンから回路図を作成しました。

回路図(充電ケース)

充電制御IC(U2)はUSB電源(VBUS=5V)からLiPoバッテリーへの充電と、LiPoバッテリーの電圧を5.1Vに昇圧し、+/-端子を経由してイヤホンへ充電(充電ケースから見たら放電)を行います。
ケースの充電時はD2(RED)、放電時(イヤホンへの充電時)はD1(BLUE)のLEDが点灯します。

主要部品の仕様

・充電制御IC FM9688A

充電制御IC

充電制御ICは富满微电子集团股份有限公司(SUPERCHIP, http://www.superchip.cn/)製のMobile Power Management IC「FM9688」です。
但し、メーカーのホームページの製品検索では出てきませんでした。
データシートは以下(ALLDATASHEET.COM)より入手することができます。

LiPoバッテリーへの「トリクル/定電流/定電圧」という3段階での充電や、チャージソフトスタート(直接定電流充電に入る時、充電電流を設定値まで徐々に上げるよう制御)という、LiPoバッテリーへのダメージを保護する機能もサポートしています。

Bluetooth接続情報の確認

今回もAndroid版の「Bluetooth Scanner」というアプリを使用しました。
本製品は「DAISO_TWS001」という名前で検出されるのでペアリングして接続情報を確認すると、プロファイルは「ヘッドホン」、Codecは一般的な「SBC(SubBand Codec)」、プロトコルは「Classic(BR/EDR)」で接続されています。ベンダーは「不明」となっていましたが、特に問題となるところはみあたりませんでした。

BTの接続情報

まとめ

本製品で採用されている中科蓝讯(BLUETRUM、2016年設立)は、RISC-V Internationalの「Strategic Member」(https://riscv.org/members/)であり、SoCのCPUにRISC-Vを採用してローコストを実現しています。
これまで、ローエンドでのRISC-V採用の事例をあまり聞いたことがなかったのですが、なるほど正しい方向性だなと感心しました。

BLUETRUMのSoCはこれまでの分解で紹介した珠海市杰理(ZhuHai JieLi、2010年設立)と並んで、中国の低価格オーディオ機器(MP3プレーヤー等)で使われているのをよく見かけますので、今後も両社の動向を注意してみていきたいと考えています。


本製品はTWSイヤホンとして必要最低限の機能に絞って、1チップで製品を実現しているのに加えて、基板の未実装パターンにICを追加することでタッチ対応にできるように拡張性も配慮されていました。

ダイソーから本製品が発売された時期(2021年5月頃)から、日本国内のTWSイヤホンの低価格化が一気に進んで、2021年末にはドラッグストアやコンビニエンスストア、ディスカウントショップでも千円台前半のTWSイヤホンが多数販売されるようになっています。

「機能を割り切ってコストを抑える」というSoCが開発され、それを使った共通のデザインが提供されコストダウンが進むという「エコシステム」がうまく回っている良い事例だと思います。


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