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【100均ガジェット分解】(58)キャンドゥの「デジタルバッテリーチェッカー」

本記事は月刊I/O 2024年1月号に掲載された記事をベースに、内容を追記・修正をして再構成したものです。

今回はキャンドゥの乾電池の残量をデジタルで表示するタイプの「バッテリーチェッカー」を分解してみます。

パッケージと製品の外観

キャンドゥではアナログ式とデジタル式の2種類のバッテリーチェッカーが販売されています。デジタル式の商品は乾電池の残量をセグメント液晶の数字で表示し、バッテリーの状態をユーザーがその数字で判断するタイプとなっています。
残量測定はアームで電池の両端を挟んで行い、単1~単5の1.5V系の乾電池に対応しています。動作用の電源は測定対象の電池からとるので、別電源は不要となっています。

店頭展示の様子

パッケージ

パッケージ内にあるのは本体のみ。パッケージ裏面には測定方法と電池交換の目安(約0.8V)が記載されています。

パッケージ裏面の測定方法表示

輸入元は大阪の日用雑貨品の商社「株式会社アクシス(http://axis-web.co.jp/」です。

パッケージの輸入元表示

本体の外観

本体はプラスチック(ABS)製、正面中央には液晶画面があります。アームは未使用時はバネで自動的に格納される構造で、筆者の購入した個体ではガタツキもなくしっかりできている印象です。液晶画面はバックライトはありませんが視認性は問題ありません。

本体の外観(乾電池チェック中の状態)

本体の分解

本体の開封

本体の背面にある固定用のビス(1か所)を外して前面と背面のケースを開くと、内部にはプリント基板がケースにビスで固定されています。
乾電池用の-電極の金具は基板に直接ハンダ付け、+電極はアーム内を通ったリード線で接続されています。

開封した本体

ビスを外してプリント基板を取り出しすと、基板の後ろ側に液晶パネルがあります。
液晶パネルとプリント基板の接続には異方性導電ゴムが使用されています。

プリント基板を取り外した状態

部品構成と回路図

液晶パネル

液晶パネルはセグメントタイプです。電極数(10極)よりセグメント数(7セグx 3桁)が多いので、中間電位を使った多値駆動タイプだと思われます。
液晶パネルの下段には基板のパターンと同じピッチの透明電極があるのが見えます。

液晶パネルの透明電極(拡大)

メイン基板

メイン基板はガラスエポキシ(FR-4)の両面基板、電極以外の部品は全て片面に面実装されています。
半導体部品はコントローラIC・昇圧型DC-DCコンバータIC・3端子レギュレータ・ショットキーバリアダイオードで、昇圧型DC-DCコントローラの近くには昇圧用のインダクタもあります。
100円ショップのガジェットでは珍しく抵抗アレイが2個使用されています。また、基板上には未実装の9V入力用の回路があります。
シルク印刷は回路番号ではなく回路定数の表示になっています。

メイン基板(表面)

基板裏面には液晶パネルとの接続用の10個の電極があります。

メイン基板(裏面)

回路図

基板パターンから回路図を作成しました。(回路番号は筆者が割り当て)
測定用の乾電池(DUT)が接続されると昇圧回路(U2・L1・D1)で3.0Vまで昇圧され、3端子レギュレータ(U3)を経由してコントローラIC(U1)に電源(Vcc)が供給されます。乾電池の電圧はR1とR2で分圧されてコントローラIC(U1)のADC1(9番ピン)に入力されます。

液晶パネルの1~4番端子の入力とVcc及びGNDの間には抵抗アレイ(RN1・RN2)が入っています。この抵抗によってU1の出力をハイインピーダンス(Hi-z)にした際に中間電位となりますので、特別なI/O端子を使用しなくても液晶パネルをVcc・1/2Vcc・GNDの3値で駆動することができます。

バッテリーチェッカーとして見た場合、 乾電池接続時の負荷電流は実測で4mAと少なく、本機では電圧がかなり高めに出ています。

未実装の9V入力は抵抗分割でU1のADC2(4番ピン)に入力される構成になっていて、9V入力時にはダイオードと抵抗経由でU3のVINに接続されてU1の電源を供給する回路になっています。
ただし、基板のシルクで表示されている回路定数ではADC2の入力がVccを超えますので、とりあえず基板パターンは準備してある、ということだと思われます。
1.5V入力の場合はU3は入出力を短絡しても動作する(3.0V出力の3端子レギュレータに3.0Vを入力している)ので、9V入力用の回路をそのまま残してあるようです。

回路図

主要部品の仕様

コントローラIC:型番不明

コントローラIC

コントローラICはマーキングがなく型番不明です。
回路構成の説明にもあるように、汎用I/Oで3値駆動ができる回路になっている汎用マイコンです。
VCCとVSSの配置がMicrochip社の"PIC16Fシリーズ"互換の、いわゆる"ジェネリックPIC"です。

昇圧型DC-DCコントローラIC:QX2303L30E

昇圧型DC-DCコントローラIC

“E30S”のマーキングの部品は「泉芯电子技术(深圳)有限公司(Quanxin Electronic Technology (Shenzhen) Co., Ltd. http://www.qxmd.com.cn/)」の昇圧型DC-DCコントローラIC「QX2303L30E」です。

データシートは以下より入手できます。

https://datasheet.lcsc.com/lcsc/1809101716_QX-Micro-Devices-QX2303L30E_C236074.pdf

主な製品の特徴は以下です。

  • 出力電圧: 3.0V

  • 出力電流(max): 300mA

  • 出力電圧精度: ±2.5%

  • 起動電圧(min): 0.8V(1mA)

  • スイッチング周波数: 300KHz

  • 効率(max): 89%

内部ブロック図 (データシートより)

3端子レギュレータ:HT7130

3端子レギュレータ

“HT30”のマーキングの部品は「深圳市华轩阳电子有限公司(Shenzhen Huaxuanyang Electronic Co.,Ltd. https://www.hxymos.com/)」の低ドロップアウト(LDO)の3端子レギュレータ「HT7130」です。

データシートは以下より入手できます。

https://datasheet.lcsc.com/lcsc/2309121406_HXY-MOSFET-HT7130_C17702044.pdf

主な製品の特徴は以下です。

  • 出力電圧: 3.0V

  • 出力電流(max): 50mA

  • 出力電圧精度: ±2%

  • 入出力電圧差: 30mV(typ), 100mV(max)

  • 最大入力電圧: 30V

  • 静止電流(typ): 1.5uA

内部ブロック図 (データシートより)

ショットキーバリアダイオード:SS14F

ショットキーバリアダイオード

“SS14F”のマーキングの部品は「安徽富信半导体科技有限公司(ANHUI FOSAN SEMICONDUCTOR TECHNOLOGY CO., LTD. http://www.fosan.net.cn/)」のショットキーバリアダイオード「SS14F」です。

データシートは以下より入手できます。

https://datasheet.lcsc.com/lcsc/2205161616_FOSAN-SS14F_C3014024.pdf

主な仕様は以下です。

  • 逆耐圧(max): 40V

  • 平均順方向電流(max): 1.0A

  • 順方向電圧(max): 0.55V

各部の実測波形

電源電圧の確認

昇圧回路U2の出力電圧は2.89Vと若干低めでした。

昇圧回路 U2の出力電圧

3端子レギュレータU3の出力電圧は2.66Vです。入力電圧が2.89Vと低いので仕方がないのですが、リップルノイズ等は観測できませんでした。

3端子レギュレータ U3の出力電圧

液晶駆動波形の確認

以下は液晶駆動波形の実測結果の一部(ch1:LCD1の1ピン, ch2:LCD1の5ピン)です。
抵抗アレイが入っている1ピンは3値駆動、抵抗がない5ピンはH/Lの2値駆動になっていることが確認できました。

液晶駆動波形(1ピン-5ピン)

以下にLCD1の1ピンを基準に全ピンの波形を並べてみました。各ピンが位相をかえつつ組み合わせで各セグメントを駆動しているのが確認できました。

液晶駆動波形(全ピン比較)

まとめ

本製品も2023年11月号で分解したセリアのバッテリーチェッカーと同様に電池残量判別の際には乾電池に電流を流さない仕様となっていました。

乾電池の場合、消耗すると内部の等価抵抗が増加するので、ある程度の負荷電流(200~300mA程度)を流した状態での電圧で判別するのが一般的ですので、大電流が必要なモーターのおもちゃや懐中電灯用のバッテリー残量判定には本製品は向いていません。

用途次第ですが、簡単に分解できるので内部に3.9Ω/1Wの抵抗を追加して負荷電流を増やすようにするのが良いかと思いますが、そのままでも、デジタル表示の電圧計が身近の店で300円で入手できるのは、電子工作で便利に使えそうです。

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