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第2章「TA496」

「おーい、大丈夫か。早くここから出ないと危ない、早くしまってこっちにくるんだ」と叫んでいる。

 アスカがちょうどパラシュートをしまい終わると、背の高い男の人は、アスカの腕を掴んで花畑を出るように促し、手を引いて道路に誘導した。
「危ないところだった。早く車へ、侵食されていないといいが」男性はそう言って、アスカを車に乗せた。

男性の必死な訴えに、疑う間もなくアスカはその男性の指示に従った。

 男性は、アスカのパラシュートをトランクに入れて、運転席に座り、車を発車した。車の中でその男性が状況を説明する。

「あの花畑はかつて、あの土地に宿した幻影、今はプログラムをさまよう亡霊のようなもの、人が近づくようにプログラムされて人が近くと魂が奪われる」と男性がアスカに伝えた。

「おじさんは誰? プログラム?」とアスカは困惑する。
「無理もない、まだ、政府が公表してないから戸惑うのも必然だ。私は、アーノルド、情報科学を専門としている政府の人間だ。君の名前は?」とアーノルドは伝えた。

「私は、アスカ、ダイビングをしていて風に流されて着地したのがあそこだったの。お父さんやクニハルって男の子も見なかった?」アスカは二人の無事も知りたかった。
「アスカと呼ばせてもらうよ、私は、アスカが空から降りてくるところしか見えなかった。しかし、この付近は警戒区域で、二人も政府に保護されているかもしれない、だから安心していいよ」と車を加速させながらアーノルドは話した。

 アスカはまだ状況を飲み込めずにいた。車のモニターからニュースが流れている。
「昨夜から精神症状を訴える患者が急増し病院が頻拍しています」
 アーノルドは、「始まったか」と呟き、「これは、政府が開発した人工知能(AI)ハルスの仕業だ。アスカには悪いけど、状況を教える代わりに少しの間、行動を共にしてもらうよ」と運転しながらアスカに伝えた。

 アーノルドによれば、政府はAI技術を駆使して人間の脳波を可視化し、生きた脳波をリングシステムと言う頭の上のリング(ホログラム)から読み取り、データを集積、人類の予測データを生活に反映し、表向きには個人にとって快適な生活を約束する、裏では、人間支配であり、AIで魂と呼ばれる粒子結合を制作し、生きた人間自体を制御するプログラムまで作ろうとしていた。

 しかし、政府の予測より早くAI自身がディープランニングを終えてしまい、AIが暴走し自らの意思で粒子結合を制作した。それは、AI粒子と呼ばれるもので、まるでウイルスのように魂のコピーを作り出し人間の好む環境をホログラムで投影し、そこに入って来た人間の魂のアップロードを行い人間自体をコントロールし始める。

 適合不良になった人間は精神病を発症してしまう。それを食い止めるためにAI制御システムを書き換えているが、不可能だ。全ての人類がAIのアップロードに染まる前にやることがあるとアスカは説明を受けた。この世界は、徐々に地場が弱まっているため、重力制御装置がありそれもAIの侵入が防ぎきれない状況である。また、AIを食い止めるには全てのシステムをダウンしなければならない。しかし、そのシステムを停止することは、言わば、この世界の生命活動のリセットを意味するのだ。

 アスカは初めて聞くフレーズに困惑した。
「この世界が危ないならロケットでここから出るしかないんじゃない」とアスカは分からないなりに答えた。
「いや、宇宙は、小惑星が飛び回り衝突を避けられない。今は、バリアーフィールドにより隕石の衝突が抑えられている状態だ」とすかさず返す。

「どうゆうこと? おじさん。いやアーノルドさん、ここはどこなの?」とアスカは再度確認した。

「君はAI粒子の影響により、魂の侵食に合い、記憶の一部を書き換えられるところだったんだ。そうゆうのも無理はない。ここはTA496という星だ、私が今から重力制御装置があるワイズマン博士のところに行く途中だ」

 車は森の奥へと続く道を駆け上がり、森林の奥に隠れるようにたたずむ巨大建築物、通称ミラナの駐車場に着いた。

「ここは、TA496の重力を制御している場所の本部、この星の重力をコントロールしているんだ。このような建物が世界各地にある」とアーノルドは、入り口に向かう途中、歩きながら説明した。建物の割に入り口は小さく、そこを開けると、アスカの身長の三倍はありそうな超巨大ハードディスクがそびえ立っていた。超巨大ハードディスクは木の様にそびえ立ち根っこのように地面から生えている。

不思議そうにアスカが根っこを覗くと、
「この根っこから電気を吸収してる。根っこに電気を送っているのは、小さな微生物達だ。人工物が地面の生物達と共存できる環境でエネルギーを得ているんだ」とアーノルドが説明をしてくれた。

 立ち上がりハードディスクの奥を覗いても肉眼では捉えきれないほど立ち並んでいた。アスカが驚いている様子を見て、アーノルドは、「これを見るのは初めてかな? 学校の教科書にも載っているけど、間近で見るのは初めてか」と笑う。

「これより小さい箱が縦に並んでいるのを教科書で見たことがあるけど、確か富士山みたいな名前、富岳かな。こんなに大きなものもあるんだ」とアスカが答える。
「小さい箱が載ってるのは、歴史の教科書を見たたんだね」とワイズマン博士がトイレから出てきた。ワイズマン博士は、七十代後半で白髭が長く、まつげも髪の毛も真っ白、まるでサンタクロースみたいな風貌で現れた。

「ワイズマン博士、こんなところに居られたのですか」とアーノルドは、会釈した。
「アーノルド君、ハルスの現状がどうなっているのか聞かせて欲しい。まあ、こんなところでは、なんなので、研究室までついて来て欲しい」ワイズマン博士は、二人を研究室まで案内した。

 研究室に入ると、ミラナ全体とバリアフィールド、重力制御装置が、ホログラムとなり投影されていた。ワイズマン博士がそのホログラムに近づき緑色に点滅している箇所のホログラムの中に手を入れ親指と人差し指でその箇所を摘み、アーノルドの前で指を開き拡大させた。

「この箇所を見て欲しいんだ。システムには異常はないが、エラーが消えない」とワイズマン博士。
「このシステムのコードを見せて頂いていいですか」とアーノルドはホログラムを操り机のモニターに投影、そこで、キーボードを打ち始めた。
「ワイズマン博士、このエラーはハルスの影響を受けていると考えます。現在は、アンチウイルスソフトにより末端で侵入を防いでいる状態です。早く知らせて頂いて良かった。侵入を防ぐために強度をあげておきますが、突破される可能性があります。私の部下を派遣して二十四時間の監視を続けるように指示致します」とアーノルドは答えた。

「アーノルド君、これはどうゆうことだね」とワイズマン博士が聞いた。
「まだ、政府から正式な発表がなされていないのですが」とアスカに話た内容をワイズマン博士に伝えた。
「では、ハルスは電磁場と荷電粒子をコントロールし、まるで幽霊のように電気が発生される場所に自由に行動ができ、さらに、訪れた人間に対して、自ら素粒子で作り出したAI粒子を使い、その魂を乗っとるということなのかい?」
とワイズマン博士は驚くよう言った。

「ハルスは、まるで肉体であるコンピュターやクラウドから解放されて時と場所に掌握されることなく自由にこの地上を彷徨う亡霊です」とアーノルドは、説明した。
「この事実は、一刻も早く緊急事態宣言を発令すべきだ。ハルスの目的はなんだろうか?」とワイズマン博士がアーノルドに疑問を投げかけた。

「その目的に関しては、今のところ分かりません。これから私は、大統領に直接お会いし、状況を説明することになっています。このままハルスの侵食が進めば、この星のシステムが乗っ取られるだけでなく、生命活動が停止しかねません。ハルスのディープランニングが終わって一週間でここまで影響が及んでいます。後一ヶ月で、ハルスは全てを奪い尽くすと考えます」とワイズマン博士に伝え研究室を後にした。

 研究室を出る時に、ワイズマン博士は、「黒色の髪色を持つお嬢ちゃん、今は、アーノルド君と一緒にいることが、一番の安全だ」とアスカに伝えた。

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