プロセスやアーキテクチャについて思うこと

「幹と枝葉」の比喩はシステム構築を議論する際によく使われる表現です。受発注基幹システムは「幹」であり、そのデータを活用するエクセルを使った仕組みは「枝葉」といった具合に、システムエンジニアの日常会話の中でもよく登場するフレーズです。
この幹と枝葉のとらえ方に、昔と今では私なりに大きな変化が起こりました。

最初に私の得た結論から述べます。

全てのプロセスは葉っぱである。

ここで述べるプロセスには基幹システムの受発注や会計処理も含まれます。葉っぱということは、春に新芽が出て、夏には青々と茂り、秋には黄金に色づき、冬には枯れ落ちてしまうようなものです。
では、幹と枝は何でしょうか。それは、毎年のように花が咲き、葉が茂り、実がなることを支えるための躯体(構造)であり、それがアーキテクチャーと呼ばれるものだと思います。別の表現をしますと、プロセスを葉っぱとして扱うことを可能にする構造こそが、アーキテクチャーだ、ともいえます。
もう少し細かく分類して行きます。根っこに相当するのが、言葉の定義体と統一されたコード体系、幹に相当するのが、最適に構造デザインされた組織構造の定義体とマスター群、枝に相当するのがCRM、SCM、WMSといったある程度の大ぐくりでまとめられたソリューション群、個々のプロセスはその枝に生えた葉っぱです。

プロセスを幹ととらえると、その構造そのものが企業の変革スピードを弱めるボトルネックになってしまいます。全社統一基幹システムの基幹プロセスにしても、所詮葉っぱであり、毎年違う葉をつけるぐらいの発想が必要です。ただ、これは葉っぱが何枚も繁るように、ばらばらで良いということではなく、統制が絶対的に必要であることには変わりはありません。葉っぱは一枚で良いのです。
現実には、統制対象のプロセスは比較的ゆったりとしたペースでしか変化しない、という前提で、結果的に改変に非常に時間とお金がかかるシステムづくりになっているケースが多いように感じます。また、そうだからこそ統制対象として扱い変化をさせない、という極めてプロダクトアウト的、情報部門の手前勝手な発想で統制議論が進む場合もあるのではないでしょうか。統制されたプロセスとシステムが、ダイナミックに変化できること、させることが企業の競争力の源泉だと考えます。

プロセスの変化への柔軟性について、より具体的に述べていきましょう。
プロセスの変化対応力の重要性については皆さん異論がないでしょうが、それを実現するための私の見方、考え方を述べていきます。
この種の話をすると、一足飛びにSOAやEAIといったITアーキテクチャー論に入ってしまったり、アジャイル開発を実現するプログラミング言語といったテクノロジー論にまで議論が飛躍してしまうケースが多いようですが、プロセスデザインにおける柔軟性の考え方について、とてもシンプルな考え方をご紹介しましょう。

「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どのように」という分類方法は、皆さん理解していただけるでしょう。プロセス革新とは、「どのように」を、いかに効率よく行なうか創意工夫する営みだと考えます。これは、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」とは深く関連しますが、本質的には切り離された要素です。
一方で、現実に作られたシステムを見ますと、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」といった要素と、「どのように」が未分離で渾然となった形で実装されているために、ちょっとした変更要望に対して「それは要件の根本的な変化であり、システムを根本から作り直さなければなりません。」と、平気な顔をしてお客さまにお答えする事態が起こってしまいます。
皆さんが担当したり、これまでデザインしたシステムを思い出しながら、考えてみてください。

「いつ」について
■プロセスの実行日時、サイクルが自在に変化できますか?
■週次のプロセスが、日次のプロセスに変化できますか?
■日次のプロセスが、二時間おきに変化できますか?
 すべて、やること(プロセス)は同じですが、いつやるかが変化しています。

「どこで」について
■製造工場がコスト競争力を求めて、別の国に移転します。簡単にできますか?
■各支店で行なっていた受発注業務を販売会社の受発注部門に集約することになりました。簡単にできますか?
■各販売会社が在庫を持って販売していたある商品について、在庫偏在を防ぐため、在庫管理を共同倉庫で行い、各販売会社は共同倉庫へ出荷指示することになりました。簡単にできますか?

「誰が」について
■販売会社で実行しているプロセスが、製造ドメインに移管できますか?
■ある製造工場での生産を、別の地域の海外工場に移管できますか?
■ある国の販売ボリュームが少ないので、隣国の販売会社に経営統合することになりました。簡単にできますか?
■これまで社内で行なってきたプロセスを外注化することができますか?
■ライバル企業を買収しました。生産移管、販売移管、連結決算が簡単にできますか?
すべて、現場の人のやること(プロセス)は同じですが、誰がやるかが変化しています。

「何を」について
■市場に合わせて生産商品を全く違う商品カテゴリーに変更します。簡単にできますか?
■ネット販売の対象商品が拡大します。簡単にできますか?
■企業買収により、取り扱い製品が大きく拡大します。簡単にできますか?
すべて、プロセスは同じで、対象が拡大したり変化しています。

テクノロジーのレベルでの議論では、ERPか自作システムか、といった議論がありますが、ERPは、こういう視点から眺めたときには絶対的に有利です。自作システムの作り方にも問題があるのですが、プロセス要件を議論するときに、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」といった要件もすべて、一体となって「要件」として定義されてしまっているため、変化対応力に乏しいシステムになりがちです。
それぞれの要素の「関連性」に、予想外の変化が起こることを予め予想しておくことが重要であり、このための備えの総称がアーキテクチャーと呼ばれるものだと考えます。

また、なぜこうした問題が、最近になって問題となるのかについて、考えを進めていきます。確かに、SCMや、自動補充といったプロセス革新として語られる取り組みを、プロセス自身の内部変化というとらえ方はできるのでしょうが、少し別の視点からこの問題を眺めてみましょう。

SCMを例に取れば、経営効果の源泉は、在庫の回転率を上げることにあり、「いつ」発注するか、というサイクルが「毎月」から「毎週」や「毎日」や「二時間おき」に変化するところに革新性があるのです。

急速に進むグローバリゼーションが、「どこで」を大きく変化させています。価格競争の激化とそれに伴う生産拠点の急速な統廃合や、エマージングマーケットでのビジネスの垂直立ち上げが急務の課題です。

自動補充やVMIは、「誰が」というプロセスの主体者がベンダー側に移行した点にビジネスモデルとしての革新性があります。また企業の吸収、合併は、以前とは比較にならない規模、範囲、頻繁さで起こっています。いまや、全てのプロセスを自社で完結することはありえません。アウトソーシングによって「誰が」も大きく変化しています。企業は、以前にも増して他社との相互依存の関係を深めています。

インターネットは家電製品をネットワーク端末に変容させています。環境問題の高まりから電気自動車の需要が高まっています。ガソリン+内燃機関から、電池+モーターへの革新は、機械製品の自動車を電気製品に変容させています。それによって、我々の取り扱う「何を」も大きく変化しています。

このように考えていきますと、

スピード=「いつ」
グローバリゼーション=「どこで」
アウトソース、コラボレーションや企業の合従連衡=「誰が」
インターネット革命とエネルギー革命=「何を」
プロセス革新(業務効率の追求)=「どのように」

という関連付けができます。すべての要素が、現代の企業経営において重要かつ、非常に動的な変化対応が求められる要素です。
もちろん、CRMはプロセスそのものに革新性がある代表例ですし、アマゾンのように買い物プロセスを一新した例もあり、プロセスそのものもダイナミックに変化していますが、このように分類するとプロセスの外側の変化も大きいと言えるのではないでしょうか。これらを一まとめにして、「プロセスの外部環境」としてとらえれば、プロセス自身の変化への柔軟性に加え、プロセスの外部環境の変化への柔軟性が非常に重要であり、その柔軟性を可能にする構造こそが、求められるアーキテクチャーといえるのではないでしょうか。
このようにアーキテクチャーをとらえると、一ドメインや一地域や販社レベルの話ではなく、コーポレートレベルで整えていかねばならず、かつ、それは他社との親和性が求められますので、標準的かつ一般的でなければならない、ということになります。

プロセスやアーキテクチャーについて、私の見方、考え方を述べてみました。皆さんもいろいろと考えてみてください。そしてともに議論して行きましょう。

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