トラブルのどん底から這い上がる公式

「トラブルは縁結びの神様」と書きましたが、それが余りにもキレイ事に聞こえたあなたに、より実践的な思考方法をご紹介します。システムトラブルが起こって事態がどんどん悪くなっていく状況で、どのように心の平衡を保ち、強い気持ちを維持するかはリーダーにとって大変重要です。

ここでの教科書は、D・カーネギーの「道は開ける」です。タイトルからして、松下幸之助の教えと相通じるところの多い名著であり、是非「人を動かす」とセットで読んで欲しい本です。彼は「悩みを解決するための魔術的公式」、もしくは、これを発想した人の名前を冠して「ウィリス・H・キャリアの公式」と呼んでいます。公式は三つの段階によって成り立っています。

「第一. まず状況を大胆率直に分析し、その失敗の結果生じうる最悪の事態を予測すること。」

「第二. 生じうる最悪の事態を予測したら、やむをえない場合にはその結果に従う覚悟をすること。」

「第三. これを転機として、最悪の事態を少しでも好転させるように冷静に自分の時間とエネルギーを集中させること。」

 我々が直面するシステムトラブルに、これらの公式を当てはめますと、例えばトラブルの第一報に続き、「現在行なっている修復作業(プランA)が上手く行けば、あと三時間で修復が完了するはずです。」という報告が入ってきたとします。あなたが、このベストケースを信じて、(よく言えば「部下を信じて」)これが上手く行くことを祈っていたとすれば、それが上手く行かなかった時に更なる精神的落ち込みがあなたを襲います。三時間であれば、今日中にシステムが復旧し対外への影響が出ないで済む、と考えていたあなたを裏切る結果を目の前にし、取り乱したあなたは、「誰が三時間で終わると判断したんだ。」と怒鳴り散らすかもしれませんね。第一の法則を当てはめれば、「三時間の修復作業が三倍の九時間程度かかり、しかもその処理が最終的に失敗してしまう。」と考えてみる、といったところでしょうか。プランAが実行されている間、それが上手く行かなかった場合のプランBを準備するのはもちろんですが、そのプランAもプランBもその他のあらゆるプランがすべて履行不可能となることを予測してみることが、第一の法則です。
 この予測が現実となる確率は私の経験では相当に高い、と言えます。私だけが、幸薄い人生を送っているのかもしれません。
 そうなったら、どうなるか。自分の経歴は傷つくでしょうし、責任問題となりこれまで積み上げたキャリアを失うことになるかもしれません。自分のキャリアだけならまだしも、自分の上司、同僚、部下も巻き込まれるかもしれません。対外的に影響が大きい場合は、お詫びだけで済まないケースもあるでしょう。多くの関係者からお叱りの声を受けるでしょう。そういった事から逃げようとせず、それが起こった事態をイメージし、その結果に従うことを覚悟することが、第二の公式です。幸いな事に、我々の行なうまっとうな商業活動においては、命を取られたり、同僚を死に追いやったりすることは選択肢にありません。戦争における軍事オペレーションの失敗ではないのです。それだけでも、すでに儲け物です。
 そのようにいったん覚悟が定まると、後はこれ以上最悪な事態は無く、全ての活動が最悪の事態を少しでも好転するための活動となります。
これらの公式は、「悩み」や「恐怖心」を心から摘出して、心を開放し、本来の「思考能力」を取り戻すための発想方法であり、システムトラブルに限らず、あらゆる悩みのシーンに広く適用できる公式でしょう。株式市場で言えば、悪材料をすべて織り込んで株価が底を打った状態から発想をスタートするようなイメージですね。最悪の事態から比べたら、すべての状況の変化が「儲け物」に映る、そのような心的状況を作り出すことが重要でしょう。
最後に話は脱線しますが、「明石家さんま」さんの座右の銘

「生きているだけで丸儲け」

は、この公式を人生訓にまで高めた傑作で、私の大好きな言葉です。皆さんも、口にしてみてください。

「生きているだけで丸儲け!」

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