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ジャムと化粧水(短歌30首)

短歌結社・水甕の賞に応募した連作30首です。
受賞なりませんでした。今更ですが、造りも思想も詰めが甘かったです。手厳しいコメントも心してお受け止めします。


ジャムと化粧水

みどりごの頭いくつも抱えるよう重みに耐える鬼柚子いっぽん

テーブルの上にごろりん正座する鬼柚子の実はふくれっ面に

鬼柚子をあたまごと煮て甘苦き匂いに満たす実家の厨を

鬼柚子の苦き香りに思うのはカインの抱いた暗き感情

亡き父と亡き祖母のこと語りつつ齧る鬼柚子甘煮の和し

「ばあちゃんは毒母だったね」最期まで祖母と同居してた妹

厳格な母だった人の庭隅に鬼柚子実る 重すぎないか

妹もわたしもアベルになり損ね鬼柚子の味は長寿の予感

中老と初老の姉妹酌み交わす妹はずっとノンアルなれど

おおちちの出征経験知る我のとぷとぷ注ぐ青島ビール

レモンジャムは砂糖をたっぷり使えよとミシェル・ド・ノートルダムのレシピは

大予言過ぎたる後の長々しい終末があるわたしの余生

ねえミシェル遠くで死にゆく者たちを見送る無力の時代になるよ

柚子の皮うす皮刻んでグラニュー糖加えて煮込む魔女のひととき

黄金の柚子のマーマレードなり我が唯一の錬金術に

里山の日差し吸い込む金色に無農薬柚子のマーマレード

お取り寄せ葡萄ジャムにはペクチンが多いねハードなキスの感触

お裾分け微妙なリンゴはお砂糖の錬金術でジャムにしちまえ

救急車がグリグリと抜けていく立川通りのトラフィックジャムを

五〇〇ミリリットル五〇〇円で買うハトムギ化粧水でバシャバシャ

水銀と鉛で美肌を作らんとノストラダムスの化粧品レシピ

美しさ若さは作り出すものとノストラダムスも考えたかな

終末のわたしたちにも保湿用化粧水は手放せなくて

侵攻もたとえば恐怖の大王に似てるんじゃないか 未完の終末

シアバターを背中に塗れば右耳にブルキナファソの女らの声

「とんじるだ」「ぶたじるよ」などと言いしのちそれぞれの椀に七味散らばる

豚汁の葱と牛蒡と里芋と蒟蒻にかかる赤い微粒子

七味の瓶ふるふる振ると香りだす温州みかんの皮だったもの

単線の電車から見る「売地」札 売りにくそうな買いにくそうな

ささやかに寄付した後の買い物はジャムと化粧水見つけてみよう

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