日常・社会はどう調べるか(歌壇時評)

 以下は、結社誌に投稿したけど没になった文章です。結社の歌友たちはちょっと時事詠に弱いというか、あまり新聞などを読まないようなので、解説的に書きました。執筆したのは2020年5月です。まずはこのまま公開します。

 角川『短歌』五月号の特集は「日常・社会はどう歌うか」。ベテラン歌人たちによる作歌法が大変参考になる。参考になるのだが、総合誌読者の多くは、そして水甕の諸姉諸兄も作歌法以前のもっと手前のところでつまずいているのではないだろうか。無礼を承知で言うと、私の周囲の多くが(歌人に限らず)あまり新聞を読んでいないように感じるのだ。新聞を読んで書籍やネットで調べることをしない人に社会詠は、そして社会からつながる個人の日常詠は不可能だと思う。
 新聞屋と契約しろと言うのではない。月に一度か二度、コンビニで新聞を一部買って、数日かかってでも隅々まで読んでみて欲しい。一面や社会面だけでなく、経済面、国際面、家庭・教育・医療、スポーツ、地域版、料理のレシピ、コラム、連載小説、四コマ漫画などを読んでいるうちに、同時代に何が起きているかが何となく分かってくる。
 新聞を買わなくても、スマホで手軽にニュースが読める。例えば、朝日新聞や毎日新聞には毎月九八〇円で紙面と同じ記事を読めるプランがあり、専用のアプリもある。過去の記事検索も可能なので、「児童虐待」など特定の社会問題に興味を持ったら、より深く知ることもできる。
 SNSは基本的に無料でニュースが読める。LINEやTwitterを使う人は、大手メディアや地域メディアのアカウントを登録してみよう。特にLINEだと日に一〜二回まとめて配信されニュースチェックしやすいので、時間がない人はタイトルだけでも眺めてみて欲しい。海外メディアもチェックしておくと、日本のマスコミでは扱わないニュースが読めて視野が広がる。私がよく読むのは、英BBCの日本語版と、フランス通信社の日本語ニュースAFPBBだ。
 個人的には、雑誌『ナショナルジオグラフィック』のSNSや公式サイトがお勧めだ。自然科学・人文科学の情報、環境や文化に関する記事が多い。COVID-19(コビットナインティーン)(新型コロナウイルス感染症)に関して言えば、感染症の社会史、最新の研究情報、ロックダウン中のミラノ取材、ウイルス人工説を一蹴した専門家の談話、仏ミュルーズの葬儀人たちの奮闘などが記事になっている。こういう情報を得ていれば、デマを信じ込んで短歌にしてしまう失敗がかなり防げるはずだ。
 しかし、せっかくニュースを読んで視野を広げても、肝心の短歌がよくないと困る。短歌の技術を磨くには、やはり短歌作品をなるべくたくさん読むしかない。『短歌』同特集では、高木佳子の選と解説で近現代の日常詠・社会詠三〇首が紹介されている。この歌も。

法案の強行採決戦(をのの)きて坐る丸椅子 あ、背凭れがない
                  春日 真木子『何の扉か』(二〇一八) 


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