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組織デザインにおける「分業」設計の考え方:THE MODELからクロスファンクショナルを分業図でスケッチをしてみた

・組織構造と組織内における分業の実態がマッチせず、スムーズに組織行動が進まない
・他社の組織構造を参考にしてみたものの、自社のビジネスモデルやメンバーのケイパビリティに即した組織にならず、業務効率が落ちてしまった

……事業拡大に伴ってさまざまな部やチームをつくり、組織化を進める中で、こうした課題に直面する企業は少なくありません。

その理由は、組織デザインにあたっての「分業」設計が噛み合っていないから、というケースが多いと考えています。

以前書いたnoteでは、分業の設計は「組織構造を描くこと」から始まることを解説しましたが、今回はさらにその「描き方」の深掘りをしていきます。

分業を設計する際、まずはさまざまな業務を可視化しなければなりません。そして、それらの関係性を整理することが設計のファーストステップとなるわけですが、その際に必要になるのが、「水平」と「垂直」の軸です。

業務の関係をそれらの軸に沿って整理した上で、「水平の分業」と「垂直の分業」を設計していく──これが分業の設計の基本になります。

この記事では分業設計における「水平」と「垂直」の概念について説明した上で、THE MODELやウォーターフォール、クロスファンクショナルといった実際の組織体制を参照としながら、実際に「分業図のスケッチ」を試みて、設計のポイントについて考察していきたいと思います。

分業設計の準備:「水平」と「垂直」の二軸で業務を整理する

水平と垂直の分業を設計する際の基本になるのは、以下のようなマトリクス図です。

水平方向の軸、つまり横軸が示すのは部門や組織における「業務全体の流れ」です。左から右に業務が進行していくようなイメージを持っていただければと思います。

対して垂直方向、すなわち縦軸が示すのは「業務の上流と下流」です。ある業務を進めるプロセスをかなり単純化して言えば、業務を「どう進めるか考えること」が始点になり、そして、終点は「その考えを元に実行すること」になります。

「考え、実行する」という垂直方向にまとめた一つのタスクが完了したとき、業務のバトンは水平方向に、つまりは「右に」移動する。そして、バトンを受けた次のチームがまた「考え、実行する」……このプロセスを繰り返し、業務全体を完結させるというのが、「水平と垂直の分業」の基本的な考え方です。

そして分業の設計を進める上でまず重要なのは、水平と垂直の流れを意識して、組織における業務をマトリクス図にまとめることです。どのような業務が存在し、その業務はどのような流れで遂行され、どのような業務に接続されるのか……そうした流れを確認し、可視化した上で、組織図を描くステップに移行することをおすすめします。

それでは、以下ではいくつかの有名なモデルを紹介しながら、分業図のスケッチを試みようと思います。

分業設計の実例①:THE MODEL

最初は言わずと知れた「THE MODEL」を取り上げます。

THE MODELとは、主にSaaSプロダクトを展開している企業が、営業部門の組織を構築する際に採用することが多い組織構造ないしは、業務プロセスを進めるための仕組みです。

まずは「マーケティング」「インサイドセールス」「フィールドセールス」「カスタマーサクセス」に分解し、それぞれのプロセスを担当するチームを編成。実際の業務の流れとしては、まずマーケティングチームがリードを獲得し、次にインサイドセールスチームが獲得したリードにアタックをして、受注確度を高めた上で、実際に商談を行うフィールドセールスチームにバトンを渡します。フィールドセールスチームがしっかりとクロージングをした後、バトンはカスタマーサクセスチームに渡り、顧客満足度を向上させるためのさまざまな施策を講じる……THE MODELにおいては、このような流れで営業プロセスが進んでいきます。

水平方向の分業としては、マーケティングチーム→インサイドセールスチーム→フィールドセールスチーム→カスタマーサクセスチームとバトンが渡っていく設計になっていることがわかるでしょう。

さらに垂直方向の分業も、4つのチームそれぞれの内に存在します。たとえば、マーケティングチームの中には、マーケティング戦略を立案し、KPIを定めた上でその進捗を管理しながら具体的な施策を検討する役割と、決定事項に基づいて施策を推進する役割がある。他のチームも同様に「戦術管理」というタスクと「施策実行」というタスクが存在し、それらをチーム内で分業しながら、チームとしての価値を最大化させようとしているわけですね。

THE MODELは、垂直方向にも水平方向にもバトンを渡しやすい構造になっており、極めて完成度の高い組織構造です。さまざまな企業がこのモデルを取り入れている所以はそこにあると言えるでしょう。また、「誰がどのようなKPIに向き合うべきなのか」が非常にわかりやすく、事業管理がしやすくなることもTHE MODELを採用する大きなメリットの一つです。

しかし、組織や役割を綺麗に分けすぎてしまうがゆえに、柔軟性を欠き、こぼれ落ちるタスクが発生しがちというデメリットも存在します。とりわけSaaSのように磨かれた事業モデルではない、曖昧さが残る組織にこれだけシンプルなモデルを導入すると、歪みが生じてしまうことが少なくないので注意が必要です。

分業設計の実例②:ウォーターフォール型組織

次に取り上げるのは、開発手法の一つである「ウォーターフォール」に近い組織形態を採用する組織です。

ウォーターフォール開発とはその名の通り、滝を水が流れ落ちるように、一つの作業が終了し次第、次の工程へと業務のバトンが渡っていく開発手法を指します。

その開発手順、言い換えれば「水平方向の分業の流れ」は以下のようなものです。まずはシステムの仕様を設計し、その仕様に基づいて画面のデザインや内部構造を決定します。その後、実装を進め品質検査をし、もし問題があればデバックしてシステムを完成させる……このように、ウォーターフォール開発における水平的な分業はわかりやすい流れになっています。

一方、垂直的な分業には特徴があります。それは、仕様設計から品質検査に至るすべての業務の上流工程を、一人ないしは少人数のプロジェクトマネージャーが担っているケースが多いということです。

こうした開発手法と似たようなかたちで組織デザインがなされている組織を「ウォーターフォール型組織」と呼びます。その分業構造をマトリクス図にまとめると、以下のような状態になります。

この図が示すように、ウォーターフォール型組織においては、上流工程を担当するプロジェクトマネージャーの負荷が非常に高くなってしまいます。さらに、プロジェクトマネージャーには仕様設計から品質検査まで、一連の工程に関する知識が求められるため、この役割を担える人材が少ないという問題もありますし、何よりプロジェクトマネージャーの能力に依存する、極めて属人性の高い開発手法であるということが、ウォーターフォール型組織の問題点です。

ウォーターフォール型組織において、例外的な対応が必要になったとき、最終的な判断を下すのはプロジェクトマネージャーです。すると、その意志決定の基準や、その決定から学んだことが、プロジェクトマネージャー個人の中に閉じてしまうことになります。そうなると、実際に作業を進める開発担当者たちの学びは深まりませんし、その結果、開発プロセスの改善が進まず、価値を生み出しにくい状態になってしまう危険性があるのです。

このようにウォーターフォール型組織においては、暗黙知が形式知化されず、チームの推進力が弱まってしまうことがあるので、自組織の分業のマトリクス図を描き、「『上部』に役割の歪みが発生していないか」という視点を持って、チェックしてみることをおすすめします。

分業設計の実例③:クロスファンクショナル組織(アジャイル型組織)

次は、応用編として開発部門のクロスファンクショナル組織、言い換えるとアジャイル開発に近い分業形態を取っている組織の分業設計について紐解いてみたいと思います。応用編と表現したのは、ここまで取り上げてきたTHE MODELやウォーターフォール型組織とは「横軸」と「縦軸」の捉え方が変わるからです。

これまで縦軸は「特定の業務の上流と下流」を示し、横軸は「業務プロセス全体の流れ」を示すと解説してきました。一方、クロスファンクショナル組織では縦軸を「意志決定の順番」、横軸を「時間」と捉えます

これだけではイメージが掴みにくいかと思うので、それぞれの捉え方について詳しく解説していきましょう。

まずは縦軸からです。職能越境した、クロスファンクショナル組織における基本的な考え方は、「外部環境の変化に合わせて、業務プロセスを変化させる」というもの。

具体的な進め方としては、まず3年、1年、四半期、1ヶ月といったさまざまな時間軸のロードマップを描きます。次にロードマップに基づいて、タスクを切り分け、その優先順位を決めた上でカンバン方式(タスクを「カンバン」と呼ばれるカードの形で整理するタスク管理手法)で管理し、さらにそれぞれのタスクをチケット化し、チームメンバーに“貼り付けて”、実行に移していく……これを繰り返すことが、クロスファンクショナル組織における縦軸、つまり垂直的な分業の設計です。

これを図示すると、以下のようになります。

このような意志決定の順番で「いつまでに何をやるか」を決めていくわけですが、クロスファンクショナル組織の特徴は、外部環境の変化に合わせて、業務プロセスを変えていくことです。つまり、一度決定した「いつまでに何をやるか」にとらわれることなく、臨機応変に変化させ続けることが求められます。

これを実現するためには、チームを5人から8人ほどの規模にとどめるとよいとされます。すぐに全員が集まり、車座を組みながら「いま何にフォーカスすべきか」を話し合い、柔軟にプロセスを変えるためには、スモールチームである必要があるのです。

さて、次に横軸の解説に移りましょう。先に書いたように、このケースにおけるクロスファンクショナル組織の横軸は「時間」です。

たとえば四半期後のゴールを策定し、そこにたどり着くためのロードマップを描いた上で、カンバン方式で進捗を管理しながら、施策実行を繰り返していくわけですが、その四半期の間にも外部環境は変化し続けます。ですから、その四半期がスタートする前に思い描いていた「次の四半期」のロードマップもまた、組み替える必要が生じます。

垂直方向の“分業”、すなわち「ロードマップ→カンバン→施策実行」という意志決定のサイクルを高頻度で回し、その内容を組み換え続けることで、外部環境の変化に即応し、事業を成長させる──これがクロスファンクショナル組織における“分業”の考え方です。

以上のように分業の設計においては、固定的な業務プロセスではなく、「意志決定の順番」や「時間」を軸に据え、設計することも可能なのです。

分業設計における5つのポイント

ここまではさまざまな分業図のスケッチを描きながら、設計のポイントについて解説してきました。

最後に、分業設計における5つのポイントを紹介したいと思っています。ぜひみなさんもマトリクス図を書いた上で、自組織の分業体制がどのようになっているのか確かめ、以下のポイントを参考にしながら、必要に応じて再設計してみてください。

ポイント①:自動処理やアウトソースを想定する

AIなどのテクノロジーの発達によって、自動処理できる業務の幅が広がっています。そういったテクノロジーを活用すること、あるいは業務をアウトソースすることは、分業の設計を行う上で忘れてはならない選択肢だと考えています。

現在のチームが抱えるタスクのうち、自動処理できるもの、アウトソースできるもの、あるいは将来的にそれらの手段が活用できそうなものをあらかじめ洗い出した上で、分業の設計を進めてみると良いと思います。

ポイント②:例外処理の対応を想定しておく

THE MODELについて解説したパートでも触れたように、どれだけ綺麗に分業を設計しても、どの部門の守備範囲なのかが判然としない、例外的な意志決定やタスクは必ず発生します。そのような事態が生じた場合、逐一「どこの部門の誰が処理するのか」を相談し、決定していては組織全体の動きが遅くなってしまいますし、担当するメンバーの負荷が大きくなってしまう。

そこで、分業設計を行う段階で、あらかじめ「例外的な処理を担当する部門(ないしは人)」をつくっておくことをおすすめしています。そうすることによって、定常的な業務を担当する部門は、自らのミッションにフォーカスできるようになり、パフォーマンスの向上につながるはずです。

ポイント③:「認知処理削減」によって処理速度を高める

ウォーターフォール開発の問題点は「上流を担当するプロジェクトマネジャーの負荷が高くなってしまうこと」だと述べました。たしかに、ウォーターフォール開発にはさまざまな困難が伴いますが、だからといって「絶対にやるべきではない」と言いたいわけではありません。

開発するシステムの内容や、組織を構成するメンバーの能力、特性などに応じて、ウォーターフォール開発を選択すべき局面もあります。では、どうすればウォーターフォール開発の問題を解消し、円滑に開発を進めることができるか。

その答えが、「認知処理削減」を促進する分業化を実施することです。

たとえば、上流工程を担当するマネジャーのアシスタントをアサインすることが、一つの解決策になるでしょう。アシスタントがさまざまな情報を収集し、マネジャーの意志決定をサポートしたり、現場で作業を担当するメンバーの困り事などを常に吸い上げたりすることで、マネジャーにかかる負荷を軽減し、処理速度を上げる。

ウォーターフォール開発の例に限らず、認知処理の負荷が高くなるポイントを見極めた上で、その負荷を下げるための体制を考えることは、分業設計のアイデアの一つだといえます。

ポイント④:知的資本を蓄積し、活用促進する

知的な資本を蓄積し、さまざまなチームがその資本をいつでも利用できる状態にしておくことも、組織全体の処理速度を高めるための一つの方策です。

たとえば営業部門であれば、営業資料や営業に関するナレッジを常に閲覧できる状態にし、さらに部門内“カスタマーサポート”のようなチームを設け、知的資本の利用を促進したり、メンバーからの質問に答える。そういった体制を構築することによって、部門全体の処理速度を高めることができるでしょう。

ポイント⑤:判断力あるスモールチームにより処理速度を高める

クロスファンクショナル組織、アジャイル開発のパートでも言及したように、チーム内でスムーズに意志決定をしていくためには、チームの規模を5〜8人に設定する必要があります。

ただこれはクロスファンクショナル組織に限った話ではなく、あらゆる組織形態において、スモールチームを編成することによって各チームが自律的に判断を下し、スピーディーなタスク処理が期待できるようになるので、ぜひこのポイントも抑えて分業の設計に臨んでみて下さい。


本記事では、分業設計の基本となる「水平」と「垂直」の考え方と、実際の組織体制を元に、設計を行う際のポイントについて解説しました。

今後もこうした難題への処方箋としての組織デザインにまつわる知見を、このnoteや、MIMIGURIが運営するオンライン学習プログラム「CULTIBASE Lab」、オンライン対話型学習プログラム「CULTIBASE School」にてたくさん蓄積・発信していきますので、ぜひチェックいただけると嬉しいです。


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