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世界のスマキチの「今」がわかる スマートキッチン業界カオスマップ2020年 After COVID-19を読む

みなさんこんにちは、クックパッド住です。2019年に公開したスマートキッチン業界カオスマップから1年経ち、業界はどのように変化したのかをまとめました。

なんといっても2020年一番のトピックスは COVID-19の世界的流行により世界中の人々のライフスタイルや業界が大きく変化した1年となりました。

スマートキッチンおよび、FoodTech周辺でも大きな変化が起こっており、この1年でどのように変化してきたか、アフターコロナの食の世界はどのようになっていくのかをカオスマップ+考察でまとめましたので、皆様のお役に立てればと思います。

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全体的な構成としては食材→流通→料理→外食のように食のバリューチェーンの流れに沿う中で象徴的に起きている出来事をピックアップしていっており

・食材-次世代タンパク質が注目された年
・流通-ECへのシフトに伴って変化していったこと
・料理-巣ごもりシフトと見る未来の料理体験
・外食-コロナによって大きく変わる未来

といった構成で記載しています。

マップはものすごい広い領域にまたがっており、全部乗せると細かすぎて理解が難しくなるため「その領域で有力なもの」「個人的に注目している」「他と比較して特徴的」なものを中心に掲載し、全体像の理解しやすさを優先にしています。

■次世代タンパク質 -昆虫から肉へ、そしてさらに多様に

コロナ禍により最も大きな変化と様々な注目を浴びたのが次世代タンパク質です。
大きな理由としてはコロナの流行により世界中の貿易が停滞したため、食肉等のタンパク質も世界中で流通しなくなってしまう現象が起こりました。
それにより、従来のようなビーガンや持続可能性を強く意識している層だけではなく、人々の日常生活において持続的にタンパク質を生産、安定供給しなければならないニーズが「起こり得る危機」として高まってきたためです。

また、2019年時点では代替タンパク質の主役はコオロギ等の昆虫で、そのたんぱく質成分を利用する成分補給的な要素が強かったのですが、2020年になって肉と同じように料理として食べる肉そのものを作り出すという方向にトレンドがシフトしていっています。

このような、プラントベースの肉は世界中で徐々に市民権を得ており、台湾モスバーガーやロッテリア、海外のバーガーキングなどファーストフードチェーン店のメニュー等にもすでになっていますし、日本でもセブン&アイ日本ハムが商品化をして販売を開始しています。

スタートアップとして最も有名なのは2020年に約770億円を東南アジアでのマーケティング等を目的に調達したImpossible Foodsと2019年に株式公開したBeyond Meatの2社ですが、2020年には中国Alibabaや米スターバックス等との提携を決めており、明確に研究開発時期から普及期に移行した一年となりました。

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・原料の多様化

Impossible Meatを始め多くのプラントベースミートは大豆たんぱく質を主原料にしており、2020年の代替肉ブームで大豆が不足するのではないかとも一部では言われていますが、その原料も多様化していっています。
例えばライバルのBeyond Meatはエンドウ豆をベースにしていますし、Verygood Buchersは小麦ベース、Prime Rootsは菌ベース、Haofoodはピーナッツベース、Scandi Standardはじゃがいもベースといったように原料の多様化が進んでおり、大豆依存でもなく多様な植物から様々な肉が生まれる時代へとなってきています。

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・細胞培養によって肉を作り出す

プラントベース・・・つまり植物由来以外のアプローチ方法もあり、細胞を培養して肉の形を作る培養肉がその代表的なものとなっています。
日本でもインテグリカルチャーといったスタートアップがありますし、2020年12月にはEat Justがシンガポールで販売承認を得て、世界で初めて一般販売されるようになり、まだまだ非常に高単価という課題はありますが実際に食べられる日も近くなってきています。

・牛肉以外も次世代タンパク質へ

代替肉といえば牛ひき肉が2019年までは象徴的なイメージでしたが、2020年になって一気に多様なものになってきています。例をあげていきますと

-豚肉
欧米はハンバーガー中心ですが中国や東南アジアでは豚肉のほうが需要が高いため、香港からOmni Porkといった製品も出ていますし、2020年1月のCESではImpossible Porkも発表されました。
個人的にImpossible Porkを試食したのですが、八角といった香辛料の効いたミンチミートになっていまして、何も言われないと中華風味付けの豚肉と認識するくらいジューシーさと豚肉の味がしていました。

-海産物
もちろん肉だけではなく、海産物にも次世代タンパクの波は来ていまして、Hooked Seafoodはプラントベースサーモン、Avant Meatは細胞培養による魚製品の開発、Shiok Meatはプラントベースロブスターなどを開発しています。

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-その他ユニークなチャレンジ
最近わりと話題に出てくるのは牛乳で、従来アーモンドなどから作るのが多かったのですが、微生物を発酵して作るPerfect Dayは今年約300億円を資金調達しました。また、ZeroEggは卵、細胞培養によって母乳の代替を作り出すTurtleTree Labなどのユニークかつより高機能なものが出てきています。

また、個人的には以前イタリアFoodTechの記事で書いたSOOSが非常にユニークです。鶏卵の受精卵に特定の音波をあてることによって雌雄両方の特性をもった鶏を生み出し、従来廃棄されていた雄のひよこを減らして経済性を高めるというアプローチに衝撃を受けました。

国内でも日本のリージョナルフィッシュはゲノム編集により2倍以上の養殖効率と脂のノリをもつ品種を作り出すチャレンジをしており、これらのチャレンジは既存のタンパク質を革新的にするというものとなっており、個人的に非常に関心を持っています。

・日本でも普及するのか?

代替肉市場加速のもう一つの大きな要因は欧米を中心としたヴィーガン人口の増加で、米国では過去15年で960万人増加し人口の3%(IpsosRetail Performance調べ)英国では過去1年で40%増加し同じく人口3%の110万人(Finder.com調べ)程度と言われています。
一方国内は過去2年でほぼ倍増し人口の2.1%(Vegewel調べ)となっており、国内でも確実に増加しており、ニーズは高まっていると考えられます。

しかし、タンパク質が不足していない状況で今後の普及するためのポイントとしては、特定少数の食生活を送っているアーリー層から一般層へ訴求できる体験にならねばならず、仕方なく「代替」する肉ではなく「これを食べたい」になっていく必要があります。

その中でユニークな取り組みとしてRepabli9が取り組む東京ヴィーガン餃子で、匂いがしなく冷めても美味しいという本物の肉で作った餃子を超える体験を目指しており、このような取り組みが増えてくると普及が加速していくと思われます。

■食材の流通 -ECが爆発的に普及する中で勝者は?

コロナの流行により外出が減少していく中で反比例して増加しているのは生鮮への支出額で、総務省統計局の家計調査によると2020年5月の前年同月比で23.4%増加し、ネットスーパーも2020年4月時点でユーザーがスーパー各社先月比で4割近く増加(マナミナ調べ)と外出控えと生鮮需要増の影響により急加速しています。
あまりのニーズの急増に、配送する曜日を減らさざるを得なかったり、先着順での申し込みが争奪戦になったりと、サービス的には嬉しい悲鳴なのかもしれませんが、既存のキャパシティがオーバーしたこともあり、様々なサービスが今年誕生または成長しており、世界的にも同様のトレンドとなっています。

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・より高付加価値な購買体験へ

従来のネットスーパー的な体験は、家庭でよく使われる食材の定期補充や、持ち運びが大変な水などを面倒を省いて買うというのが主流な用途となっており、週に1回またはそれ以下頻度でまとめ買い需要が主要な用途でした(マイボイスコム調べ
COVID-19によってそもそも外出したくないというニーズが増加しており、今日使いたい食材などのちょっとした買い物等も賄いたいと、買い物代行などのサービスが急成長しています。
UberライクなC2C買い物代行サービスの最大手米Instacartは2020年に約250億円調達しましたし、東南アジア版Uberとも呼べるGrabは多くのバイクと車のドライバーを抱えていましたが、人の移動が減った代わりに物を運ぶべくデリバリーサービスへの注力やスーパーマーケットの新事業を立ち上げる等の業態のシフトも起きています。
このようなUberライクな雇用関係のないC2C型デリバリーが急成長した背景としては、ユーザーニーズの増加とCOVID-19によって収入の減った労働者が運び手になるという両面があります。

日常の高付加価値な買い物体験としては、クックパッドでも新規事業のクックパッドマートを推進しており、生産者から直接新鮮な食材が当日に届くサービスで1万戸以上のマンションの共有部、ファミリーマートやローソンといったコンビニへ設置された専用冷蔵ステーションに毎日一品から今までではなかなか手に入らないクオリティの食材が届くというサービスを提供開始し、2020年急速に規模拡大しました。

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・食材流通の変化で加速するDX

外食割合の低下により、レストラン向けの高品質な食材が業界として余るというのも世界中で発生しており、これらの食材を一般向けに販売するという取り組みが増えてきています。

販路のなくなってしまった農作物を積極的に送料無料で販売し、食べチョクが月間流通額が35倍となりTVCMの放映や6億円の資金調達を達成し、急成長を遂げました(秋元さんNote
また、羽田市場が外食向けの高品質な鮮魚を一般向けに格安で購入できる話題となりました。

今回のコロナの影響は短期的に収束するわけではないため、既存の流通が停滞し新しい取り組みが定着するという業界構造のシフトが発生するきっかけになると考えられます。

B2B取引において国内スタートアップでは八面六臂ウーオSENDといった既存の卸売流通に変わって直接生産者とレストランを結び、需給状況をデータ化して生産者を支援していく取り組みが存在します。

既存の流通の世界は対面販売に近く、直接買い付けに行かないと買えない、付き合いのある卸の扱っているものしか買えない、中間業者が多く生産者に落ちるお金が少ない、生産者は何がいついくらで売れるかわからないので同じものを生産し続ける・・・等の課題が存在しますが、After COVID-19の世界ではそれらの課題を解決するDXへシフトしていくでしょう。

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・ミールキットも息を吹き返す

2019年度版の記事ではミールキットは苦戦していると記載しましたが、生鮮需要と料理需要の増加により息を吹き返してきています。
前回触れたミールキットスタートアップの最先鋭BlueApronは2017年のIPO時の株価は約10ドルでしたが以来低迷し、一時は上場廃止寸前の状況まで追い込まれていましたが、コロナロックダウン下においてこのようなサービスを不可欠なインフラとアメリカ政府が指定、支援したこともあり昨年同月比で2倍以上の成長を見せており息を吹き返しています。(Nielsen調べ
同時に、新たなミールキットスタートアップやスーパーやレストランなど既存業態のミールキット参入も増加しており加熱状態となってきています。

国内でもOisixもミールキットの巣ごもり需要で過去最高の売上高を記録しており、シャープのヘルシオデリも会員数が2万人を超えると急成長し、味の素等の食品メーカーやカプリチョーザといった外食チェーンも参入しました。

2021年も引き続きミールキットの需要増な状況となりますが、ただ便利なだけでは結局外食デリバリーでいいや・・・と同じ歴史を繰り返すことになるため、レンチンではない料理された温かい食事ができるヘルシオデリや、作る楽しさ、とても美味しいなどのならではの価値が求められるようになると思われます。

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・増加するD2Cへのチャレンジ

D2CとはDirect-To-Consumerの略で、メーカーやブランド自身のWebサイトなどを通じて直接消費者に販売するモデルで、小売や卸売などの仲介業者を迂回するのが特徴です。

それだけならば今までも各社直販等をやっていたと思うのですが、D2Cが注目される大きな違いは「コト消費」にあります。D2Cは製品訴求よりもブランドの存在意義といったストーリー重視であり、ユーザーの利用データを重視し直接ユーザーとコミュニケーションしながら製品を改善し、発信し続けるという要素が強くDNTV(Digital Native Vertical Brand)とも言われます。

D2Cへの移行はECの増加とInstagramやTwitter、Youtubeといったマーケティングが加速したことが背景にあり、ブランドが提供する価値が共感されシェアされる事によって認知される割合が増加したことにあります。

-D2Cとスタートアップ
D2Cは強いメッセージ性や尖った製品である必要があり、多くのスタートアップがこれに該当します。例としては完全栄養食のBase FoodCompのような機能性に特化したものやPost CoffeeMinimalPetokotoのようにそれにこだわりがある人向けに最高のものを届ける体験などがあります。

また、変わった体験に特化すると、通常の決済はなくSMSでテキストを送ると決済されるDirtyLemonや最大3つのフレーバーをスマートボトルにセットするユニーク見た目のLifeFuel、死ぬほど強いに特化したDeath With Coffeeなど、そのコンセプトだけで人を惹きつける力を持ったものもあります。

-大企業も続々と
もちろん大企業もD2Cへの参入をしてきており、例えばコカ・コーラ社は新製品をいちはやく体験でき、その不フィードバックを得るCoca Cola Insiders Clubを立ち上げると同時に先程取り上げたDirtyLemonの運営会社Iris Novaへ出資をしています。

日本の大企業でもミツカンの野菜を捨てる部分まですべて食べるZENB、キッコーマンのワインアッサンブラージュWineBlendPalette、ニチレイのConomeal Outdoorなど様々な企業がD2Cブランドを立ち上げています。

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・食材の流通廃棄と戦う

昨今SDGsの意識の高まりとともに、食材廃棄への課題意識は一般的になってきたものの啓蒙活動で解決することは無理に近くあまり有効な手段がありませんでしたが、技術や体験として解決するというチャレンジが増えてきた一年でした。

同封すると農作物の呼吸速度を低下させて腐敗を遅らせるHazel、植物油から生成した特殊なコーティングを吹きかけると2~3倍長持ちするApeel、マットの上に果物や野菜を置いておくと腐敗を40%遅らせるProductmateなど、流通や保管上での食材の劣化を妨げる技術が出てきています。

また、もう一つのアプローチがアップサイクルで、Goodfishはサーモンの皮、Renewal Millは大豆や麦のおからKaffe Buenoはコーヒーといった生産過程で廃棄されてきた副産物を原料として、新しい製品に生まれ変わらせたり、香港のスタートアップBreerは廃棄パンからビールを作る等様々な取り組みが生まれています。

日本では流通過程で完熟して廃棄される果物を、細胞を破壊しない特殊冷凍技術でおいしいフローズンフルーツに変えるデイブレイクが注目を浴びています。

これらの製品もECシフトとD2Cの流行によって、マーケットでの存在感を今後増していくと思われます。

■料理の進化 -効率化と豊かな料理体験の両立

COVID-19によって人々の家の滞在時間と料理をする頻度が世界中増加しており、その象徴の一つとして家庭でパンを焼く人が増えたため小麦粉やホットケーキミックスが不足したというニュースを見た方も多いと思います。
これは日本に限ったことではなく、実際にクックパッドイタリアの検索でもピザやパスタ、パンなどの検索が昨対比で2~3倍程度増加しており、ロックダウン等で増えた可処分時間を料理に費やし、スキルアップや満足感を得たいという人々が増加しているのは世界的なトレンドです。

一方、在宅勤務の増加で料理頻度が増えたため、なるべく手間を削減したいというニーズも増えており、手間を削減したいが満足度も得たいという両方を得たいという傾向が強まっています。

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・コネクテッドキッチン

COVID-19によって部品調達や生産計画に世界中の家電業界は大きな影響を受け、新しい製品の発表は減ったものの、家庭で料理をしたい、新しいチャレンジをしたいという人々が増えたためコネクテッド家電は売上が増加しているとSmart Kitchen Summitで各社のスピーカーは回答していました。

主な傾向としては2019年からは大きな変化はないものの、より具体的な普及に向けた取り組みへと進んできています。

-誰が勝者になるか?加熱する家電、レシピ、ECの融合
料理には「食材の調達」「作るものを決める」「調理する」といった段取りが存在しますが、これらをスマートに統合する取り組みが加速しています。
このトレンドは明確にプラットフォーム競争へと発展しつつあり、ビジネスとして成立するためには「家の中で料理をする際に一番に見られるもの」と「毎日発生するお金のトラフィック」を両立する必要があるため、日々消費される食材へ注目と、一番始めに見られるレシピサービス、料理を便利にする家電の融合が一つの形として注目されています。

-レシピと家電メーカーの関係
家電メーカー自身がレシピサービスを運用するのは困難なため、家電メーカー自身がレシピサービスやコミュニティを買収するケースも増えてきており、WhirlpoolYummlyを、ElectroluxAnovaを、SamsungWhiskを・・・といったように自社の家電とレシピを融合し、ユーザーが決定したレシピに基づいてそのままECで食材を購入し、家電が連動して調理をしてくれるという体験を作っています。

また、別のアプローチとしてCheflingInnitSideChefといったスマート家電向けに特化したレシピサービススタートアップが登場しており、複数の家電メーカー横断で家電と連携するレシピの体験を提供しています。

家電メーカーによって垂直統合型かオープン型に方針が分かれるのですが、垂直統合の場合家庭ではすべて同一のメーカーで家電を揃える人はほぼいないという課題もあり、毎日使われるプラットフォームは何になるのか?というプラットフォーム競争がしばらく続くと予想されます。

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・よりリッチな家庭での体験

一つの傾向は「今までプロしかできなかった事を自分好みで」です。
Chocomakeはチョコレート製造を、Beermkrはビール醸造、Beanbonはコーヒーの焙煎、Aveineはワインのエアレーションといったように、原料を加工する際の温度や行程、同時に混ぜたりするレシピで味が変化するものは数多くあり、これらはアプリと連携することにより自分のアイデアで試すことができ、そのノウハウや発見を人と共有する楽しみも提供してくれます。

日本では茶葉の魅力を最大限引き出すTeploや1536通りの卵かけご飯の醤油を生み出せるLuna Roboticsなどのスタートアップが存在します。

また、デバイスではないですが、最近個人的にMeat Epochの熟成肉シートにハマっており、誰でも簡単に個人では難しかった熟成肉を作れるようになり、コストコで買ってきた塊肉や魚などを自宅の冷蔵庫で熟成させて色々試しています。

このように今までプロしかできなかったことを自宅でも、自分でもできるようになる体験は家で料理をする頻度とともに今後増えていくと思われます。

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・料理をおいしく簡素化する体験

一方で料理頻度が増えることによる負荷も増えていっており、毎日の料理が面倒だが質は落としたくない、むしろ上げたいというニーズも高まっています。

BonBowlはIHクッキングヒーターと専用ボウルのセットで、15分以内に1人前の料理を作ることができ、さらにボウル状(日本的にはどんぶり)なのでそのまま食卓で食べる事ができます。

また、ThermomixJuliaのような切る、熱を入れる、混ぜる等を一つですべてできるマルチクッカーも海外で人気で、Thermomixはレシピと連動してそのまま食材を注文できるサービスを2020年7月に開始しました。

さらに進むとロボット的になり、NymbleのやOliverような食材をケースにセットをすると、調理工程に基づいて段階的に食材や調味料を投下しながら自動で調理を進めてくれるようなハードも出てきました。

そして究極的な所では、2020年12月にMoleyのロボットキッチンがついに発売されました。ロボットアーム付きのユニットで約3500万円ととても高価ですが、プロのシェフの動きをトレーニングし、家庭でそれをロボットが作ってくれるようになります。

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・コロナ流行で注目される家庭菜園

大型の展示会等にてスマートキッチンやホーム関連で、スマート家庭菜園の提案を見ることが増えてきました。
また、パンデミックによって、食料の安定供給への不安、家で過ごす時間の増加、自分で何かしたいというニーズの高まりを背景に、スマート家庭菜園への注目が集まり、Google検索トレンドにSmart Gardenが急上昇したり、Rise GardensがAmazon Alexa Fundから資金調達するなどがニュースとなりました。

日本でも畑シェアのようなサービスは昔から存在するのですが、それが新しい形に進化するかもしれません。国内で最も注目しているスタートアップの一つがPlantioで、スマート家庭菜園のキットgrow Connect の販売を始めました。また同社はビルの屋上をシェア農場にするgrow Fieldも運営しており、家庭菜園と都市内菜園をつなぎ、参加者間で野菜や種の交換ができるなど新しいエコシステムを作っていくという革新的な取り組みをしています。

■外食 ‐圧倒的窮地な産業は今後どうなるのか?

クックパッドのスマートキッチン担当ということで料理を推進する立場にある関係上、前回まで外食についてはあまり触れてこなかったのですが、非常に大きな変化が起こる兆候なのと、食の体験としては外食も内食も繋がっているということであえて記事に入れさせていただきます。

おそらく皆様ご存じの通りコロナの流行によって外食産業は深刻な影響を受けており、米国では11万を超えるレストランが閉店または長期休業となっており、国内では2020年に810社が倒産と過去最悪の状況となっており(東京商工リサーチ)、大手チェーン店でも大量閉店や業態転換を余儀なくされています。

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・デリバリーとゴーストキッチン

国内でもUber Eats出前館が最近よく話題に上がりますが、ユーザーは店舗から足は遠のいたものの食事をとる必要があるためデリバリー専用サービスに注目が集まっています。
アメリカではDoordashが時価総額6兆円で2020年12月9日に上場し、インドではZomatoが約130億円、フィンランドでもWoltが約120億円を調達するなど既存のデリバリーサービスが世界中で急拡大をしています。

そして、デリバリーサービス成長の裏で活発になってきているのがゴーストキッチンです。
ゴーストキッチンとは客席も接客窓口も持たないデリバリー専用レストランのことで、キッチン以外の設備が不要で、調理スタッフのみで運営することができます。
海外では今年Ordermarkが約130億円、Zuulが約10億円の資金調達を達成しており、一つのキッチンを複数のゴーストキッチンで共有するダークキッチンという事業も生まれています。

国内では既存のレストランの遊休時間に専用のデリバリーメニューを作ってもらって収益化促進するという複数店舗キッチンをひとつのサービス化するCookpy、シェアキッチンスペースを用意してシェフ一人でだれでもゴーストキッチンを起業できるKitchenBASE、もともとはパンのデリバリーサービスでしたが誰でも出品できるようにすることでゴーストベーカリーサービスを提供するPanforyouなど様々なアプローチが生まれています。

これらのトレンドによって変化することは、外食は立地とキャパと回転率で事業規模が決まってくるという要因が強かったのですが、ユーザーもネットで食べるものを探すようになり、より低リスクで様々な個性を発揮した飲食店がトライできるようになるためより多様な飲食文化に発展していく可能性があります。

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・加速する外食のデジタル化(DX)

このような外食産業の危機的状況でアメリカのメキシコ料理チェーンChipotleは200%以上のデジタル領域での売上増を達成し、2020年6月末までの四半期の売上としては約900億円と同社の60%まで到達するというニュースがありました。

Chipotleは国内では2019年に破綻したサブウェイのようなオーダーシステムで、たくさん並んでいる食材から店員と会話をしながらタコスやブリトーに入れるものを選んでいくという感じで、カスタマイズするのは楽しいし美味しいけど面倒な側面もあります。
同社では近年デジタル投資に力を入れており、オーダーはアプリ状で事前にゆっくり見ながら選んで仮想で組み立てて注文し店舗でピックアップやデリバリーできるようになり、業務効率化とユーザー体験向上の両方を達成しています。

また、新規デジタル事業として、同社の食材供給元が直接消費者に販売できる仮想ファーマーズマーケットを展開しており、こちらも食材ECの加速とともに成長しています。

‐より効率化される
デジタルといえば効率化ですが、様々な新しい技術が生まれています。
Satis.aiはキッチンで調理をしている人の行動を解析し、オーダー通りでない調理をしようとしたり、注文と異なった料理を袋に入れようとすると警告を発するという技術を提供しています。

国内ではTablecheckアスラボといったスタートアップが予約管理、顧客管理、データ分析といった経営支援からオーダー、レジシステムまでカバーするソリューションを提供するスタートアップや企業がかなりの数となっています。

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‐非接触、無人化
ウィルスは人が媒介するため、そもそも人を介さなければ…ということで非接触、無人化の外食テクノロジーに注目が集まっています。

ひとつはロボットレストランでYo-Kai Expressは、日本の妖怪をかけてどこでも現れそうだからと名付けたそうで(余談ですが「日本語だとどんな印象?」と聞かれて、怖いと楽しいの中間って答えました)サンフランシスコを中心に設置されているラーメン自販機です。価格は1200円くらいとかなり高価格なのですが、アメリカでラーメンを食べると2000円近くするためより低価格でインスタントではないラーメンが食べれるとそれなりに人気のようです。
個人的に食べた感想としては、セブンイレブンのレンジで作るラーメンくらいの感じでした。

ほかにもかなり本格的なロボットとして、PiestroPicnicのようなユーザーのオーダーを受けてその場でトッピングをして焼き、販売するような調理&販売ソリューションが出てきています。

また、非接触化ソリューションとしては、Minnowのようなデリバリー受け取り用のボックス設置するサービスと、レストラン店内を動き回って配膳をするロボットのPuduのようなアプローチを2020年は多く見ました。

■まとめ -コロナ後の世界のキーワードは何か?

2020年のトレンドをひとつにぎゅっと凝縮したためかなりの情報量となりましたが、2019年と比較して「これから来そう」ではなく、「実際の変化」として世の中に出てきたものが非常に多くなってきたと感じています。

まとめとして、コロナ後の食の世界を2つのキーワードで総括してみたいと思います。

・効率化によって大事になるのは「私らしさ」のアイデンティティ

スマート化によってもたらされるのは
 -今まで専門の人間しかできなかった事ができる
 -手間がかかりすぎてできなかったことができる
 -土地や場所の物理的な制約がなくなる

といったことが起き、今回取り上げた食材・流通・料理・外食すべての面において提供する側の様々なアイデアを世の中に出すことができるようになります。

また、消費者側はスマート化によって家事労働としての料理や買い物がどんどん楽になる裏側にあるのは「今までにない選択肢の多さ」であり、時短や楽になることによって選択する余裕が生まれてくるというのが重要だと思います。

こうした、トレンドの行く先は賢く効率化しつつも自分で選んだ「人とは違う体験が私らしさ」といった価値観へとより加速させていく世の中になっていきます。

・再構築でSDGsは思想から生活の中の当たり前へ

実は個人的には「フードロス削減的な活動は成功しない」という意見を持っていました。
というのも、フードロスが非常に大きな課題であるのはそのとおりなのですが、従来のアプローチは意識が高まるような啓蒙活動にとどまるものが多く、それを利用する必然性が無いことから普及には至らないと考えていました。

ですが、次世代たんぱく質やアップセル、D2Cなどはその象徴的なものとなっているのですが、2つの方向性が見えてきたなと感じています。

ひとつは世の中の食のシステムとして、消費者の意識は関係なく組み込まれていくプロダクトや取り組みであること。
もうひとつは思想に関係なく、ユーザーがあえてそれを選びたい魅力ある製品として出すという道です。

COVID-19の流行は既存の仕組みや生活スタイルを大きく変化させることを人々に強いてるのですが、逆に考えると今までの仕組みから大きくシフトするというキッカケにもなりますのでこうしたタイミングにこれらのような取り組みが生まれてきたのは、新しい社会へシフトする流れなのではないかなと感じ、今回考えを改めました。

ということで、以上で2020年のまとめとさせていただきます。
2021年はどんな年になるのでしょうか?皆様の今年一年がよい年となりますように。

■カオスマップに関してのご意見お待ちしております

このカオスマップと考察記事は独自に作成しており、網羅性や正確性を完全に担保するものではありません。抜け漏れのご指摘や掲載をご希望される方はtomomichi-sumi@cookpad.com まで、ご連絡をお願いします。また、各社のロゴを使用させていただいておりますが、使用上問題のある場合はご連絡いただければ削除等の対応をいたします。


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