ドラム社長、歌う
突然だが、私には推しバンドがいる。
名をWONKという。4人組のエクスペリメンタルソウルバンド、ということらしい。主にボーカル、ピアノ、ベース、ドラムの編成。
エクスペリメンタルはよくわからんが、いろんなテイストが入っててめっちゃおもろいなぁと思ってる。つまり、大好きだ。
お題目の社長とは、この推しバンドのレーベルの社長であり、バンドのドラム担当のことだ。
今回は目撃した推しの凄みを長々と書く。ご覚悟なされませ。
彼らはインディーズで活動しており、2023年には結成10周年を迎えたと言っていた。
東京を中心に活動する彼らは、ときどき関西にも来てくれる。
コロナが落ち着きを見せて以降、年に数回ライブが催され、私もそう近くもない大阪にそこそこの頻度で行くようになっていた。
そして昨秋、GORILLA HALL OSAKAでの2024年最初のライブが決まった。1月8日。チケットに応募し、ありがたく当選の運びとなった。
そしてライブの前日、Xをぼんやり眺めていると、いつもはウキウキの公式アカウントから目をむくお知らせが流れてきた。
ボーカル、体調不良で欠席。
払い戻し対応するよ。
えええええ!!!
ネットでよく見るやつやん!まさか私が行くライブで起こるなんて。そんなことミジンコほども思ってなかった。
前日にボーカル不在となった以上、歌のあるバンドとしてライブは成立しないはずだし、そもそも自宅から会場までは3時間半かかる。おまけに次の日は仕事休めない。だいたい元日の能登半島地震で気持ちも滅入っていたし、何なら私の青春ど真ん中にいたチバユウスケがこの世からいなくなってからというもの、空虚な気持ちを埋めるために彼の歌ばかり聴いて年を越した。今の推しのことなんてそういえば忘れてた。
もう、行かずに払い戻す。つもりだった。
ところが悲報から間を空けずにメンバーから「サポートメンバーが来てくれる。お楽しみに」との投稿が投げられたのだ。まさかだった。私の中でライブは実質的に無くなるものと解釈していたからだ。
急展開である。メンバーはやる気なのだ。中でもマルチプレイヤーなMELRAWさんの参加に胸が高鳴った。
元々ジャズっぽいのも好きな私(知識は皆無だが)は、ライブでの彼らのセッション性もまた好きだ。だから、サックスプレイヤーが参加することを知った以上、ライブに行かないという選択肢は私の中で消え失せていった。とは言え、そもそもフロントマンの居なくなったライブでお楽しみに、というのも割とクレイジーな話だ。
乗るか、反るか。
乗ろか。なんかオモロそうやし。
そして当日。足取り軽く大阪へ向かった。
時間を潰しながらゆっくりと会場に向かう。
今回のライブは、ライブハウスながら席は指定席だった。私は前方から3列目、ドラムの真ん前に座することができた。ドラムプレイを見るのが好きなので、うれしい席だった。ドラムを叩くのは、バンドが所属するレーベルの社長だ。きっといろいろ気を揉んだことだろう、大変やったやろな、と田舎のおばちゃんは呑気に余計な気を揉んだ。
そして開演を迎えた。
MCはほとんどなかった。サポートのMELRAWさんが、自身のオリジナル曲を演奏中に「この曲知ってる人〜」と投げかけたくらいだ。
そして過半はインストだった。ときどきドラム社長が歌った。サポートのMELRAWさん、Matzuda Hiromuさんも歌った。
これが私にはかなりのご馳走だった。
気迫溢れるセッションが繰り広げられた。
中でも社長のドラムは高まり、時に荒ぶっていた。
それはボーカルというある面で歌をまとめるタガのようなものが外れ、ドラマーとして自由にセッションを楽しんでいるようにも見えた。
かと思えばビートを奏でながら、繊細でハイトーンな歌声をマイクに乗せた。それはベースとドラムが響く重厚なサウンドによく合っていた。
サポートでも、MELRAWさんの存在はやはり大きく、演奏だけでなくステージで踊る姿はこちらまで楽しくなったし、広瀬未来さん、高橋知道さんの金管は色気と迫力にあふれていた。Matzuda Hiromuさんはクールなリッチー・サンボラだった(ワウワウエフェクト好き)。
生で見たkiki vivi lilyちゃんはドキッとするくらいかわいかった。彼女が透き通った声で歌った1曲目が大好きな曲で、こっそり喜んだ。
アンコールで登場したメンバーが「歌える社長で本当によかった」と笑ったが、もちろんベース担当もいつも通りマルチに演奏を魅せていたし、鍵盤担当もいつも通り自在にエレクトーンを奏でていた。
そんな中で初めて見たVJとも相性が良かったし、WONKの新しい一面を開拓し、演奏そのものを味わい尽くせる一夜だった。
「小さなレーベルなので、ライブの保険が効かず、中止にも延期にもできなかった」とこれまた笑い話にしていたが、雨降って地がめっちゃ固まったとは、ファンのひいき目だろうか。いや、会場でも配信でも、誰だって歓喜したはずだ。
払い戻しをせず、行って本当によかった。
あわよくばスタンディングで踊りたいくらいのゴキゲンなライブだった。
念のため書き添えておくと、ボーカルがいるいないが良いとか悪いとかいうことではなく、ただただ大阪の一夜が特別で、とても楽しかったという悦びから素人が長々と書き綴ったこと、ご理解いただけますと幸いです。
メンバー、サポートの皆さん、開催を支えたスタッフの皆さん。大阪での特別な一夜をありがとう。おつかれさまでした。
社長の胸中を思うと、せめてライブ後には、そして中1日でのZepp Divercity Tokyoのライブ後にはうまいビールを飲んでいてほしいと願うばかりだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?