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月の中に見える

昨日の日中は不安になるほどの土砂降りだったけれど、夜にはそれが嘘だったかのように晴れてしまった。

上空をふく風がものすごい速さで雲を連れ去って、ピカピカの満月が顔を出していた。発光する黄色い月を見ながら帰り道を歩く。ふと、月にうっすらと浮かぶ模様が気になった。

子どものころは、あれが人の顔に見えていた。私にとってはどう見ても人面なのに、絵本ではそれを「ウサギが餅つきする姿だ」なんて言っていたりする。まったく理解ができなかった。満月は、いつもこちらを見ている。私は月を擬人化していた。

今だって満月を「顔」として認識できるけれど、昔ほどではない。いつしか月は私にとって「円形の黄色いもの」になっていて、こちらを見ている感じもしない。いつごろからそうなったかもわからない。

そもそもよくよく見たところで、今の私は、子どものころと同じように月の顔を認識できているのだろうか。見えるようになるものと、見えなくなっていくものを増やしながら、人は大人になっていくのかもしれない。

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