「ともちゃん力持ちー?」
年末は実家に帰って大掃除をしている。ことあるごとに、台所にいる母が私に大声できく。
「ともちゃん力持ちー?」
何かと思ったら、ビンのフタが開かないらしい。歳をとって力がなくなってきた母は、ちょっとしたことでも私に頼るようになった。
黒豆が入った鉄鍋をコンロから下ろすときも、ホットプレートをしまうときも、「ともちゃん力持ちー?」ときいてくる。「ともちゃんこれ開けてー!」ではない。多分、彼女なりに私にストレートに頼みごとをすることに遠慮があるのだろう。
実家に来てから何回も言われるのでもう慣れてしまったが、「お願い」をされるのではなく力持ちかどうかを質問されるスタイルであるため、こちらとしてはその質問に答えるしかない。私はさほど力のある方ではないが、高齢の母に比べれば力がある。
「うん。力持ちだよー」
そう言って台所に行く。まだ力のある私にとってはおやすいご用だ。今日は、昨日買ってきた味噌を開封するために呼ばれた。ツルツルしたフィルムがプラスチックの容器の縁にぴったりと接着されている構造が、お年寄りには開けにくいようだ。
普通に頼んでいいんだよ。そう心の中で呟きながら、私はあり余る力を味噌のフィルムを剥がしに使った。
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