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最後のページをめくる場所

定時で仕事をあがった昨日は、真っ直ぐ家に帰りたくなかった。

空はまだ明るい。暑くもなく、寒くもなく、少しだけ気だるい夏の初めのような気温が心地よい。こんな日に、自宅でひとり夕食を食べるのも、なんだか癪な気がしたのだ。バトンズの学校が終わってから、なぜかこんな気持ちになることが増えた。この感情が、「さみしい」ということなのだろうか? この私が「さみしい」だなんて、本当に、笑ってしまう。

新宿駅で降りて夕食を食べる場所を探すことは、2日前に読み始めた小説の最終章を読む場所を探す作業でもあった。

電車の中やベッドの上で読み終えるのも、なんだか嫌だった。その気持ちが「こんな日に自宅でひとり夕食を食べたくない」という感情と混ざり合って、私は地下鉄の改札を出た。

新宿ミロードの2階からサザンテラスに向かってのびるデッキ沿いに、ロブスターロールの店がある。店の前には、白い椅子とテーブルが並んでいて、そこに座れば新宿駅南口を見下ろせた。

初めて食べるロブスターロールは土臭さかった。添えられていたチリソースの意味を悟る。眼下の横断歩道の脇にいたバンドがエルヴィス・プレスリーの曲を演奏し始めた。「ビールにすれば良かったな」。そう思いながら、私は口の中のロブスターをオレンジジュースで流し込む。

本のページをめくりながら、私はいつかの、心地よい初夏の夕暮れを思い出していた。そうゆう「断片」を並べたら、何かひとつの読み物になるのだろうか。少し考え、当時の気持ちを思い出そうとしたけれど、なかなか上手く出来ない。もっともっと、自分の感情に目を凝らさなければならないのだと思った。

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