私の内なるゴブリン
ある日、前から存在を知っていたある一つのパーツ(副人格)が、活性化して出てきているのに気づいた。
それは、心の中で密かに他人に対して暴言を吐くパーツだった。
そのパーツの存在は知っていたが、そのパーツとの関係性を深める機会が何故かなく、そのままになっていた。
そのパーツが私を乗っ取って実際に私の口から誰かに暴言を吐いたり、暴挙に至ったりしたことは一度もなく、あくまでたまに出てくる心の声の一つに過ぎなかったからかもしれない。
以前よりは出てくる頻度もとても少なくなっていたので、存在もすっかり忘れていた。
少し近づいて、久しぶりに出てきたそのパーツの様子を見てみると、それがとても怯えていて、恐怖のために相手を攻撃していたことがわかった。
私はそのパーツにとても興味が湧いて、たまたま、スタイラスペンを買ってデジタルお絵かきをしてみようと思っていた時期だったので、iPadでそのパーツの絵を描いてみることにした。
そのパーツのイメージは、「ロード・オブ・ザ・リング」のゴラム(私はゴブリンとゴラムは同じだと思っていたのだが、実際には異なるものらしい)だったので、ネットでゴラムのイラストを探して、それを見ながら描いた。
最初はイラストを真似してなんとなく描いていたのだが、段々と手が勝手に動くような感じになり、リアルさが増していった。
すると、心の中で、そのパーツの目から涙がこぼれ落ちるのが見えた。
あ、泣いてる、と思いながら、それまでは黒いペンで線をなぞっているだけだったが、こぼれ落ちる涙だけ水色で塗り込んだ。
そうしてる内に、私の目からも涙があふれ、その後はただひたすら泣きながら描いていた。
描きながら、私は彼女の感情を初めて感じた。
そして、彼女に思いやり、同情の気持ちを感じずにはいられなかった。
彼女が感じていたのは、相手にされない、話を聞いてもらえない、と感じたことによる深い悲しみと孤独感、そして「自分には価値がない」という深い絶望だった。
純粋無垢な子どもの頃に、彼女と同じような体験をしたら、誰でも彼女のようになるだろう。
かわいそうな私の内なるゴブリン。
私は初めて彼女を抱きしめることができた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?