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胃癌の原因、ヘリコバクター・ピロリ除菌治療法の日本とカナダとの違い

こんにちは。

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カナダ在住薬剤師の卵、Tomokoです。

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今日は、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori=H.pylori)について。

ヘリコバクター・ピロリとは?

H.Pyloriは、グラム陰性好気性細菌の一種で、ねじれたらせん型構造をしています。消化性潰瘍(十二指腸潰瘍・胃潰瘍)、胃がんなどの消化性疾患などの原因になることが知られています。

他の菌との違いとは?

H.pyloriは、不思議なことに、動物の胃内で増殖できる菌です。
胃は”胃酸”があり、このpHは強く、通常pH1-2です。こんなに高い酸性状態では、通常は菌は生きられません。

さらに、ピロリ菌が活動するのに最適なpHは6-7と言われていて、これは中性です。では、なぜピロリ菌はpH1-2の胃内で生息し、住みついているのでしょうか?

ウレアーゼとは?

H.pyloriは、ウレアーゼ(Urease*)という酵素を産生しています。
〜アーゼ~aseで終わるものは、酵素であることが多いのですが、このUreaseは、尿素((NH2)2)COを加水分解によって、二酸化炭素(CO2)とアンモニア(NH3)に分解する酵素です。

酸性環境のところにアルカリ性であるアンモニアを入れるとどうなるか?
酸とアルカリを混ぜると、中和されます。H.pyloriはこのように自分でUreaseを産生することで胃粘膜内の尿素をアンモニアに変換して胃内に定着しています。

中には、
①UreaseをもたないH.Pylori や
②酸性状況では働かないUreaseをもつH.Pylori
がいますが、これらは胃を通り越して腸内に寄生しています。

どうやって感染するのか?

どのように感染しているのかはあまり多く知られていませんが、経口感染が考えられていて、昔、保菌している親が、小児などに”口移し”で離乳食などを与えていたことから感染した可能性がよく言われています。

日本でのH.Pylori 除菌法について

ピロリ菌の検査を行った上で、ピロリ菌がいた場合、一次除菌療法を行います。一次除菌で70-90%の除菌は完了するとされていますが、もし除菌しきれなかった場合でも、二次除菌によってほとんどが除菌に成功するとされています。

ただし、これらはしっかりと7日間飲み切ることが最も重要です。

一次除菌方法 3剤併用療法⇒1日2回、7日間
1.1種類の胃酸の分泌を抑える薬-PPI
-ランソプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾールのうち1剤
2.2種類の抗菌薬
-①ペニシリン系抗生物質:アモキシシリン
-②マクロライド系抗生物質:クラリスロマイシン

一次除菌療法をしてから4週間以上経過した後、再度H.Pyroliの検査を行い、いなくなっていれば除菌は成功ですが、もしまだ残っている場合は、別の薬を用いて2度目の除菌療法を行います。

二次除菌療法 3剤併用療法⇒1日2回、7日間
1.1種類の胃酸の分泌を抑える薬-PPI

-ランソプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾール、
2.2種類の抗菌薬
-②マクロライド系抗生物質:クラリスロマイシン
-③ニトロイミダゾール系抗生物質:メトロニダゾール

カナダでのH.Pylori 除菌法について

カナダでも一次除菌、二次除菌とありますが、さらに三次、四次もあります。

そして、面白いのが使用する薬剤と投与日数の違いです。
日本では、1日2回、7日間ですが、カナダでは1日2回14日間です。

一次除菌方法 4剤併用療法⇒1日2回、14日間
《1種類目:BMT Quad
1.1種類の胃酸の分泌を抑える薬-PPI
2.2種類の抗菌薬
-B①ビスマス製剤
-M②ニトロイミダゾール系抗生物質:メトロニダゾール
-T③テトラサイクリン系抗生物質:テトラサイクリン

または

《2種類目:CLAMET Quad
1.1種類の胃酸の分泌を抑える薬-PPI
2.2種類の抗菌薬
-CL①マクロライド系抗生物質:クラリスロマイシン
-A②ペニシリン系抗生物質:アモキシシリン
-MET③ニトロイミダゾール系抗生物質:メトロニダゾール

二次除菌療法 4剤併用療法⇒1日2回、14日間
一次除菌でCLAMET QUAD⇒BMT Quadを採用
または
一次除菌でBMT Quad⇒CLAMET Quad または Levo-Amoxを採用

三次療法 3剤併用療法⇒1日2回、14日間
Levo-Amox
1.1種類の胃酸の分泌を抑える薬-PPI
2.2種類の抗菌薬-Amox①ペニシリン系抗生物質:アモキシシリン
-Levo-②ニューキノロン系抗生物質:レボフロキサシン

四次療法 3剤併用療法⇒1日2回、10日間
Rif-Amox
1.1種類の胃酸の分泌を抑える薬-PPI
2.2種類の抗菌薬
-Amox①ペニシリン系抗生物質:アモキシシリン
-Ref-②リファマイシン系薬剤:リファブチン

これがスタンダードとして定着しています。

日本での除菌治療との変化で驚いたこと

私が日本で薬剤師の勉強をしている時は、ピロリ除菌といったら、PPI+クラリスロマイシン+アモキシシリン or メトロニダゾール
と覚えていたので、最近カナダでのピロリ除菌について学び、”ビスマス製剤”と出てきて正直戸惑いました。

ビスマス製剤は、次硝酸ビスマス(Bismuth subnitrate)を下痢症の際に使う薬として覚えましたが、今回ピロリ除菌で使っているビスマス製剤は、Bismuth subsalicylate次サリチルビスマス。同じく下痢を抑える働きがありますが、日本では承認されていないようです。

さらに、現在の日本では、保険適応内診療は二次療法までだそうです。それを超える場合は、保険適応外診療となり、自費治療

しかし、日本でもピロリ除菌の新薬RHB-1053として、リファブチンベース配合剤(RHB-105)の第三相試験から、PPI+アモキシシリン+リファブチンという、カナダの四次除菌療法で用いられている薬剤を14日間、8時間毎に4カプセル投与する方法がコントロール群(実薬治療群)と比べて除菌率が高かったという報告があり*、今後日本でもスタンダードとして用いられるかもしれません。



*参考:Graham DY, et al. Rifabutin-Based Triple Therapy (RHB-105) for Helicobacter pylori Eradication: A Double-Blind, Randomized, Controlled Trial. Ann Intern Med. 2020 May 5. [Online ahead of print]


*この記事は、私が日々勉強する中で得ている知識を元に書いています。事実に基づいた作成を心がけているつもりですが、一部で間違いがあったりする可能性もあります。ご了承下さい。




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