見出し画像

極道へつづく道

前回までのお話し
↓↓↓↓↓↓↓↓


当時の赤羽駅西口に、リラというスナックがあった。
ママとアルバイトのみっちゃん2人でやっている店で、その割にはカウンターの他にボックス席が3つあるなかなか広い店だったが、客はそれほど入ってはいなかった。
ママもみっちゃんもホームレスになった俺たちを心配して、たまに焼きそばを作ってくれたり、これからどうするのかと声をかけたりしてくれていた。
そんなある日、店の前でママに呼び止められた。

「あんた達、どう?仕事は探してるの?」
「実はお客さんであんた達の話をしたら仕事紹介してやろうかって人がいるんだけど、話だけでも聞いてみる?」
不安の中で途方に暮れていた俺たちは、お願いしたいとしっぽを振った。

「じゃあ、今晩来るっていってたから、○時に来て」

約束の時間にSと2人でスナックリラに入っていくと、ずんぐりむっくりでガッチリした体型でパンチパーマにサングラス(夜なのに)をかけたいかにも筋モノ風な男がひとり、カウンターに座っていた。
まだ若く怖いもの知らずな俺たちは、物怖じもせずに挨拶もそこそこ隣に腰掛けた。
その男は、名刺を取り出して俺たちに渡してくれた。
その名刺には







ひっくり返すと





とだけ、筆文字で大きく書かれていた。

仕事の内容は一切伝えられず(俺たちも聞かなかったが)、やる気があれば部屋は用意してくれる事、来週から働いてもらうという事、場所は新宿だという事を聞かされた。
俺たちはホームレスという事もあり、とにかくなんでもやるつもりではいたが、名刺のインパクトが強すぎて、少し考えさせてく
れと言って店を出た。

ベンチに帰ってSと相談。

どうする?
あれヤバくね?
絶対ヤクザだべ?あれ
でもこのままどうするよ
ここにいてもしょうがないもんな
とにかく食えるようにならないと
どんな仕事たろ‥
どうする?
どうする?
もう、ヤクザでもなんでもいっか
だな。
行くとこまで行くか!
今より落ちる事はないべや!
よし。

話しは決まった。

翌日、リラに行ってママにお願いしますと伝えた。
その際、小嶋さんってどんな人か、何をやっているのか当然聞いたと思うが、カタギの人間だという確証が得られなかったのだと思う。
なぜなら、数日後に小嶋さんと一緒に赤羽から新宿に向かうタクシーの中で、Sとふたりこれからヤクザ者になる覚悟を決めていたからだ。
環7が極道へつづく道のように感じていた。

※環7:都内の道。環状七号線。当時環状八号線はまだなかった。

新宿に着いたのは夜の10時頃だった。
3階に事務所があり、事務所のドアに【株式会社彩雲】と書かれていた。
中に入ると、社長と奥さん(二人共70歳を過ぎた頃か)と部長(60歳くらい)が出てきて、ここは印刷をやっている会社、まずは部長と銭湯に行ってきて何か食べろ、今日はとりあえず事務所のテーブルの上で布団を敷いて寝てくれ、明日部屋を探すという事を伝えられた。
どうやら、まっとうな会社。それどころか、お風呂と食事も出してくれて、布団まで用意してくれている。
極道へつづく道どころか、行き着いた先、ここは天国か?

その日は、久しぶりに布団で寝た。

後に分かった事だが、例の名刺の【龍和睦】というのは、小嶋さんが会長を務めている三社祭の神輿会の名前であった。
なぜ、あの時にそんな名刺を出したのか。
なぜ、印刷会社という説明をしなかったのか。
なぜ、夜なのにサングラスをかけていたのか。
全ては未だ謎のままである。








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?