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『サリカ法典』は男系継承では無かった?――モンテスキューの考察
皇位継承問題で何故かよく出てくるのが『サリカ法典』です。
「フランスは『サリカ法典』に基づき男系男子の嫡出子で継承されており~~」
と言うような話ですね。
初めに言っておくと、フランスの王位継承は日本の皇位継承には全く参考になりません。
何故ならば、日本では①過去に女性天皇の即位例がある(男系女子の容認)、②庶子にも皇位継承権がある、からです。フランスの正統主義王党派からすると日本の皇位継承のルールはあまりにもルーズすぎるでしょう。
さて、私はこの度、愛読書である『法の精神』を改めて読んだのですが、そこでモンテスキューがトンデモナイことを書いてあるのを発見しました!
その内容は、なんと「サリー族の法律(サリカ法典)は王位の男系継承を規定したものでは無い!」と言うものです。
念の為に言っておきます、モンテスキューはフェミニストではありません。バリバリの超保守派です。
学校では「三権分立」のところでしかモンテスキューが出てこないので「モンテスキューってリベラル派?」みたいな勘違いをしている人がいるかもしれませんが、モンテスキューは「君主政体が理想だ!」と言った人物です。
モンテスキューの女性観もかなり保守的です。
「協議離婚は制限するべきでは無いが、一方的離婚の権利は女性にだけ認めるべきだ。」
というのがモンテスキューの主張です。但し「家庭において男性の力が強い国においては」という限定詞付きですが、今の日本なんかより遥かに男尊女卑であったフランスでわざわざそういうことを書いたのは、まぁ、言うまでもありません。
「うん?女性の権利を守ろうとしたのならフェミニストでは?」と言う方は、フェミニズムの定義を勘違いされているでしょう。
何しろ、モンテスキューは南方では女性の立場が弱い理由を「暑い国では女性の身体的成長が早く、女性が精神的に成長する前に結婚するため男性の言いなりになるからだ!」という、フェミニストが聞いたら激怒しそうな分析をしています。
ちなみに、北方では比較的女性の立場が強い理由を「寒い国の男は酒を飲みまくるからだ!」としています。ロシア人に聞かれると生命の保証は出来ません。
しかもモンテスキューの怖いところは、今でも北欧では女性の社会進出が進む一方、イタリアでは少女買春で首相が失脚したりと、妙な説得力を与えてしまう点にあります。
ついつい「モンテスキューの分析って、いまでも通用するんじゃない?そうか、北欧の男はよっぱらいが多いんだ!」等と言ってしまうと、忽ち外交問題になるでしょう。
ただ、「女性の結婚年齢が低い=女性の立場が弱い」と言う観点は今でも概ね共有されているものでもあります。そういう先見の明があるからこそ、モンテスキューは保守主義に大きな影響を与えました。
で、そのモンテスキューが『サリカ法典』についてこう分析していました。
①場合によってはむしろ女性の方が優先的に相続することになっている。
②そもそも封土の概念は『サリカ法典』が出来た頃にはない。
③封土の概念が出来た後で、女性の相続権は制限されたのだ。
結論として、フランスの王位継承が男系男子なのは『サリカ法典』が直接の原因ではない、としています。
私はゲルマン民族の歴史には詳しくありませんが、説得力のある論証ではあります。
これが事実だとフランスの王位継承の原則は典型的な「創られた伝統」となってしまうでしょう。
モンテスキュー自身は王党派でしたが、このモンテスキューの視点は現在の王党派にどこまで影響を与えているのか、気になります。フランスの王党派が「女系継承容認!」とか言い出したらインパクトがすごいでしょうね。
もっとも、繰り返しますがフランスの王位継承の話は日本の皇位継承とは全く関係ありませんからね。
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