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「寒い国から帰ったスパイ」

1965年公開の英・スパイ・サスペンス映画「寒い国から帰ったスパイ(The Spy Who Came in from the Cold)」(マーティン・リット監督)。モノクロ作品。原作の小説は有名らしいけど知らない。

英国秘密情報部のアレックスが、恋人ナンシー(英国共産党員だった)にスパイの非情な作戦を非難されて思わず言うセリフ。

「ご都合主義、それだけだ。スパイを何だと?哲学者でもなければ神もマルクスも信じない。俺と同じ惨めなクズだ。小心者に飲んだくれ、変人に公務員、女房の尻に敷かれた男たちだ。スパイは修道僧なんかじゃない。でも、くだらん人間の安眠のために必要なんだ」。

国策のコマとして、理想も正義も哲学もなく、ただ命令のままに動くだけのスパイという仕事について。

英国の協力者であった東ドイツ諜報機関の実力者ムントを二重スパイと気付き始めたその部下のフィードラー。
そのフィードラーを排除することを目的に英国諜報部員のアレックスが東ドイツに派遣されるが、ムントに疑いの目が向くことを阻止するために、ムントが罠にはめられたように演出する偽の作戦が実行されて、アレックスの恋人ナンシーもそのために利用される…。

よく観てないと、彼は東で彼は西でどっちがどっちを騙して?とわからなくなるけど、007のように派手なドンパチもカーアクションもないが、相手をジッと見据える徹底した心理戦のみの演出は地味だけどスリリングである。

シリアスなスパイものは必ず悲劇で終わるがこれも例外ではなくて、ラスト、東側の手引きでアレックスとナンシーはベルリンの壁を越えようとするが、警備兵に見つかり関係ないナンシーが射殺される。アレックスは戻って彼女の遺体の前に立ち尽くし、同じように警備兵に撃たれてしまうのだ。

最初は理想に燃えて活動に参加したかもしれないが、組織の活動の前に個人の思いは消えてしまう。最終的な目的のためには、単なるコマとして利益にならないヒューマニズムは捨てて、非情に無情に冷酷にならなければならない。恋人に対して情に流されてしまった男の悲劇だ。

二重三重のウソと裏切りと思惑と。陰湿なスパイの世界で生きてきた人間には表通りの明るい人間社会は住みにくいだろうなぁ。組織と個人、引いては国家と個人の在り方について考えさせられた作品だったね。

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脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。