【映画】「水の中のナイフ」

タイトルで「水のないプール」(若松孝二監督、内田裕也主演)が頭に浮かんだが(←カンケーナイ)、ロマン・ポランスキー監督の長編デビュー作だ。「水の中のナイフ(Nóż w wodzie)」(1962・ポーランド)。

ブルジョア階級の中年の夫と、その若くて美しい妻が週末をヨットで過ごす。それに、途中、ヒッチハイクで拾った貧しい若者が同行する。海の上で過ごす2日間に起こった、それぞれの感情の揺れを描いた内省的な作品で、登場人物は3人だけ。

金も車もヨットも美しい妻も持つ成功者(多分)の夫に、軽い嫉妬を覚えつつ、若さと若さゆえのプライドだけで対等な立場に立とうとする19歳の青年。
また夫も若い頃の危なっかしい跳ねっ返りの自分を見てるような気がして、逆に青年にいろいろと命令して雑に扱う。妻はそんな2人を距離を置いて見てたけど、夫の横暴な振る舞いに徐々に批判的になってきて、健気な青年に親しみを覚えるようになる。

最後にトラブルになって夫が青年が大事にしてたナイフを海へ落としてしまう。青年は海に飛び込むが姿が見えなくなり、夫も妻も海に入って探すが見当たらない。実は青年は浮かぶブイの陰に隠れている。妻は夫を人殺しとなじってケンカになる。夫は独り、泳いで岸辺まで行く。その隙に青年はヨットに戻り、驚いた妻と良い雰囲気になってキスをして抱き合う…。

埠頭で青年を降ろした妻は、待ってた夫と車に乗って警察署に向かうが、妻は、青年は生きていて自分と浮気をしたと夫に告げる。

気怠いジャズのようなサックスをBGMに、最初から最後まで、異様な、ハッキリとしない不安感というか閉塞感が支配してるような作品だ。デビュー作なので、ポランスキー監督の作風が明確に現れてるとは思わないけど、その萌芽は充分に感じられると思う。

お互いに退屈を感じてた世代的に価値観の違う夫婦が、ヨットでのバカンスに出かけて、新世代の若者を同行させることで、さらに価値観の違いが明確に現れたといったところだろうか。妻の魅力でそれが際立ってる。

ポランスキー監督の人間心理の描き方が素晴らしい。なんかアラン・ドロンの「太陽がいっぱい」にも似てるね。

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脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。