【古典邦画】「あにいもうと」

成瀬巳喜男監督の、1953(昭和28)年の作品「あにいもうと」。原作は室生犀星の小説。YouTubeにて。

妹の妊娠を機に、激しく争う兄妹の愛憎を描く。

ガサツな兄伊之吉を森雅之が、惚れっぽい妹モンを京マチ子が、末の妹サンを久我美子が演じる。モンとサンって名前がスゴいね。母はリキだし。

モンが奉公先で家の学生と親しくなり、妊娠して暇を出されて、実家に帰って来る。
実家のある田舎ではその噂で持ち切り。
看護学生のサンも休みで帰って来る。
職人気質で気難しい伊之吉は、モンが妊娠して帰って来たことに腹を立て、モンの顔を見れば嫌味ばかり。
モンはいたたまれなくなって家を飛び出す。
結局、モンは荒れた生活を送ったため流産してしまう。
やがて実家にモンを妊娠させた学生が訪ねて来る。
学生は詫びを入れてお金を置いていく。
伊之吉は、学生の帰りを待ち伏せし、「大事な妹をあんなにしやがって…」と彼を殴りつける。
盆になって、またモンもサンも帰って来る。
伊之吉は、またモンに嫌味を言い、学生を殴ったことを話す。
すると、モンは突然、激怒して、伊之吉と取っ組み合いの喧嘩に。
サンも母も止めに入るが、2人はなかなか止めない…。

映画のキモは、伊之吉とモンの激しい喧嘩だろう。兄は妹を引きずり回して、めちゃくちゃに殴りつける。妹は啖呵を切って反撃し、「殺せ!さっさと殺しやがれ!」と仰向けに寝転がる。これほど激しい暴力シーンは成瀬監督の映画では珍しいのではないか。

だいたい男は、いつまでも幼い頃のカワイイ妹の影を引きずってて、妹は立派な大人の女性になって外で恋愛もするのである。

伊之吉は、親父譲りの頑固さで、モンに古い価値観を押し付けようとし、モンはそれに激しく反発するのだ。血の繋がる兄妹だからこその愛憎劇。

それでも喧嘩は後を引くことはない。盆明けに、モンはサンと一緒にバス停に行き、「あんな男でも兄だから…」とまた帰ることをサンに約束する。

いつまでも変わらない伊之吉と、外で恋愛して変わったモン、それに妥協する恋愛よりは自分の生き方を貫こうとするサン、この対比の演出が成瀬監督の職人技で冴えている。


脳出血により右片麻痺の二級身体障害者となりました。なんでも書きます。よろしくお願いします。