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データマネジメントプロジェクトをやさしくする

今回は、データマネジメントプラットフォームについてです。一般的には、DMPと呼ばれたりCDPとも呼ばれたりします。
アドビでは、Adobe Audience Managerというソリューションが該当します。これもあまり世の中に情報がなく、担当することになった方は、右往左往することが多いのではないでしょうか。
得体のしれないデータマネジメントプラットフォームですが、要するに、「セグメンテーション戦略を絵に書いた餅ではなく、施策に使えるものにする」ソリューションと私は捉えています。
「施策」といっても、ある特定の場所に限定したコミュニケーションを行うための施策、ではなく、セグメントが辿る一連のプロセス全体に対してコミュニケーションを行う施策、になっていなければなりません。そうでなければ、前回書いたようなAdobe Targetの最適化となにが違うの?ということになってしまうからです。

データマネジメントマネジメントはなぜやるか

前回同様に、プロジェクトの目的を考えると以下のように考えられます。

Chart1 - いまさらコンテンツ最適化 – 1

セグメントを絵に書いた餅にしない、ということを「民主化」と「コミュニケーションの多様化」と考えてみました。

マーケティング戦略にあるセグメント像を、確実にリーチ可能なものとしてアプローチできる、ということは、一見簡単なようで、難しかったりします。これをデータマネジメントプラットフォームでアプローチを可能にすることで、精緻なマーケティングを実現します。

また、昨今「スモールマス」というコンセプトで、関心事項が細分化されたユーザーを捉えて、商品開発やコミュニケーションアプローチを行い市場規模を開拓していく手法も注目されています。そうしたものにも、データマネジメントプラットフォームが役立てられるではないか、という期待が寄せられ、実証実験を行うプロジェクトが作られたりします。

データマネジメントプロジェクトがうまくいかない理由

様々な期待と思惑がうごめく故、なかなかうまく行かないプロジェクトも多く耳にします。「導入はしたけれど、全然成果が出ない」という話が出ることも多く、手に負えないという状況になっていることもしばしば。
その背景として考えられるのは、施策用途が定まってないことにあると思っています。

Chart2 - いまさらコンテンツ最適化 – 1

いざ導入していくぞ、という段階で、用途が定まっていないケースが多いのではないのでしょうか。データマネジメントプラットフォームというコンセプトは理解しているけれども、具体的なユースケースがプロジェクト開始時にない、ということ場面を多く見てきました。導入にあたって、インフラシステム系のスタッフはいるけれど、施策実務担当がおらず、導入をするシステム担当に施策を考えてくださいという、そりゃ無理でしょというケースは少なくないのではないのでしょうか。

データマネジメントプラットフォームを活用した施策立案にあたってのポイントは、上記図で示したとおり、「誰に」「どこで」「何を体験させるか」をセットで考えることです。非常にシンプルなのですが、ユースケースによって揃えるスタッフは異なります。プロジェクトには、システム担当だけではなく、コミュニケーションを立案するスタッフ、分析を担当するスタッフも備わっていなければ運用開始時にスムーズなスタートを切ることはできません。

ビジネスと技術を分担するも、互いの作業を理解しておく

「誰に、どこで、何を」のフレームをビジネスサイドと技術サイドで分担すると以下の通りになると思っています。

Chart2 - いまさらコンテンツ最適化 – 2

どちらか片方だけを担当するから、といって片方は見ないというのは、こんなはずじゃなかったを招きます。互いの役割を補ってすすめる必要があるのがデータマネジメントプラットフォームプロジェクトのポイントです。

図を見ながらお気づきになる方もいらっしゃると思いますが、ビジネスサイドの業務プロセスは、コンテンツ最適化プロジェクトの施策立案フレームと同じです。

Chart2 - いまさらコンテンツ最適化

ポイントは配信先がAdobe Targetのようなサイト内だけじゃなく、様々な配信チャネルが企画対象になることです。施策を実施できる幅が広がった、と捉えれば、難しくないでしょう。
多くの企業の場合、チャネルごとに担当者が異なることもあると思います。その場合、各チャネル担当も揃えてプロジェクトを進めていくことがポイントです。プロジェクトの開始時点で関係者を募ることで、データソースの選択肢や配信先の選択肢が増えるメリットがあります。また、運用開始後にセグメント別のユーザーシナリオを実現するリードタイムも短くすることができます。巻き込む上でのコミュニケーションコストはかかりますが、全社で関心を持ってプロジェクトをすすめることが、効果を実感する近道だと思っています。

データマネジメントプロジェクトの構造を理解する

ビジネスユーザー向けにプロジェクトを構造化してみました。

デジタルコンテンツ分析の軸を考える – 4

一般的なデータマネジメントプラットフォームのコンセプトチャートよりも、もう少し具体的な作業プロセスを分解しています。かなりシンプルにしても概ね10個ほどの検討ポイントがあります。様々なツールを用意して自前で作られている会社もあると思いますが、これをAdobe Audience Managerで置き換えると以下のようになります。

デジタルコンテンツ分析の軸を考える – 3

①データソースを用意する
これは図のとおり、データマネジメントプラットフォームに取り込むデータを選定するプロセスです。セグメンテーションを実現するために必要なデータを揃えることは自明ですが、ポイントとして、スコアリングなどが必要なセグメントは、データソース側で作っておくほうが良いです。
Adobe Audience Manager側には複雑なスコアリングをするような機能はないからです。とはいえ、UIの操作だけで、複数のデータソースから送られたデータを組み合わせてセグメント化するということは、一見すると当たり前なような作業なようですが、地味に実現が難しい機能だと思っています。

②ID Sync
データマネジメントプロジェクトでおざなりになりやすい部分です。導入前に勘違いされやすいのが、「データを入れれば勝手に連携するんですよね」、という考えです。
データマネジメントプラットフォームは、「DMP側のCookie ID」と「各種データソースのユーザーID値(ハッシュ化されることが多い)」と連携をすることが求められます。これを「ID Sync」と呼び、Adobe Audience Managerでは、特別な関数を発動させて「Adobe Audience ManagerのCookie ID」と「ユーザーを判定する値」を連携させます。
取り込むデータが決まった際、Cookie IDと取り込むデータのユーザーIDキーはどこで紐づくのかを必ず確認するようにしましょう。

③連携するデータをDMPに渡す
Adobe Audience ManagerではData Onboardingと呼ばれます。接続がサーバ間で連携されているAdobe Analyticsでは意識することはありませんが、CRMからデータを連携する場合は、CRM側から会員IDを抽出し、Adobe Audience Managerに内包されるS3にアップロードする作業が必要になります。この部分に関しては、手動になるので、自動化する場合にはその開発工数を見込んでおく必要があるので、プロジェクト開始前にイメージを共有しておくとよいです。

④アップロードしたデータをタグ付け
Adobe Audience Managerに取り込んだデータがどのデータソースに属しているものなのかをタグづけする機能です。名前もそのまま「Data Source」です。タグをつけることで、特定のデータソースから取り込んだデータに対して閲覧制限をかけたり、利用用途をツール側で制限をかけることができます。概念としてフォルダのように思われるかもしれませんが、概念としては、図のようにタグとして捉えるほうが理解がしやすいです。

⑤データの属性化
このプロセスが一番馴染みにくい部分だと思います。図中にある⑤は、矢印とTraitの2つにかかっています。矢印の部分をSignalと呼び、データソースから送られるデータ要素をAdobe Audiece Managerでキャッチできるようにする機能と思ってもらえるとよいです。
例えば、Adobe Analyticsの場合、イメージリクエストに該当ページのプロパティがくっついています(prop1=new、prop2=TOP PAGEなど)。こうしたプロパティ単位で値をキャッチして、Adobe Audience ManagerのCookieを持ったユーザーの属性を増やすことをTraitという機能で実現します。

⑥セグメンテーション
Adobe Audience Managerではセグメンテーションを、作成したTraitの組み合わせで構築していきます。Adobe Analyticsから作ったTrait、CRMデータから作ったTrait、など自由に組み合わせることができ、具体的なユーザー像をつくりあげることが可能になります。

⑦配信先にわたすセグメントの選定
セグメントを配信先にわたす機能をDestinationと呼びます。Destinationには3つの方式があり、URL連携、Cookie連携、サーバ間連携があります。
昨今、多くはサーバ間連携が選ばれ、Adobe Audience Managerの利用者は渡すセグメントを各Desitination毎に選択するだけの作業になります。

⑧連携するデータを配信先にわたす
セグメントリストを配信先のサーバにエクスポートする機能です。注意点があるとすると、Adobe Audience Managerにはエクスポートした後、配信ツール側がどのように取り込み、処理をして渡したセグメントを利用可能になるのか、は当然ながらコントロールができません。あくまでも配信側がほしいフォーマットでファイルをエクスポートする、ということができるのみなので、配信先のツール担当者とコミュニケーションで食い違いがでないようにしておくことが重要です。
このフェーズでは、配信先の担当者と以下についてコミュニケーションをとっておくことが求められます。
・渡すファイルのフォーマット(ファイル名、ファイル内のデータ記載の型)
・ファイルを受け取るサーバの接続情報(FTP情報)
・渡すファイルの頻度と更新方式(差分か全件か)

⑨施策を実施する
セグメントを活用した施策を実行する部分です。ここはで配信ツール側の知識が求められます。Adobe Audience Manager側との役割分担が曖昧になる部分ですが、配信ツール側の方には最低限、渡したセグメントについて
・どのようにツールUI上に表示・選択できるのか
・どのように配信したことがデータとして表示されるのか
を確認してもらえることを求めておきましょう。

⑩データの流れをモニタリングする
各プロセスで適切にデータが流れているかどうかをチェックする機能です。正しくデータが取り込めているか、データが反映されているのかをプロジェクトを進めながら確認できることができます。各種データレポートについては、ヘルプ記事を参照ください※日本語訳は機械的なのでトンデモな感じです。

Audience Managerのレポート関連ヘルプ
Onboarded Report
Unused Signal Report
TraitとSegment Report
Destination Report


⑪プライバシーポリシーを遵守する
昨今、Cookieデータの扱いに対しては、以前にも増して留意が求められます。充分に扱いに注意を払ったとしても、関係者が増えれば増えるほど、取り込んだデータの扱いについて、ブラックボックスになることも多いです。そうしたことを防ぐために、Adobe Audience Manager側ではデータの閲覧やエクスポートに関して制限をかける機能が揃っています。

また、機能の話とは別になりますが、オプトインアウトの仕組みを整えること、自社のプライバシーポリシーを見直すこともこの機会に考えなおすことがよいと思います。ユーザーに意図しない形でデータを使わない、一方でユーザー体験を良くするためにデータを活用する、の2軸を持つことで、決して保守的にならないデータ活用構想をつくりましょう。

Audience Managerのセキュリティ関連ヘルプ
セキュリティ
プライバシーコントロール
データ保持に関する仕様

導入プロジェクトの型としてまとめると難しくない

ツール導入としてプロジェクトを捉えると、結局、「型」はAdobe AnalyticsやAdobe Targetと同様のフェーズです。

Chart4 - いまさらコンテンツ最適化 – 1

Adobe Audience Managerというか、データマネジメントプラットフォームの基本構造を把握した上で、上記のプロジェクトプロセスを踏めば、導入は2ヶ月もあれば完了できます。

導入目的はもちろんのこと、一番重要なことは、導入した後の施策イメージを持つことです。ただし、イメージがないからといって、プロジェクトがいつまでも始められないのはもったいないと思います。そこで、以下のようにプロジェクト進行とともに、理解度に合わせて施策企画を調整していくような進め方もおすすめします。プロセスに合わせたチェックポイントを設けると以下の通りです。

デジタルコンテンツ分析の軸を考える – 6

企画を考える手順は、コンテンツ最適化のプロセスサイクルを参照し、関係者の協力を仰ぎながらプロジェクトを成功に導きましょう。