アイスランド大失敗日記③(アクレイリ警察署へ)/長崎日々日記番外編
アイスランドはいま、白夜だ。
午後9時すぎになっても、視界明瞭。
すでに一連の騒動の始まりになったバス休憩所「Varmahlid 」に到着してから2時間半過ぎ、時計は午後5時前を指していた。
白夜アイスランドの本格的な「昼間」は、日本の日中「午後2時」と、ちょうど2時間ずれている。午後4時ごろが、最も人々が活発に動き回る時間帯だ。ミスにたそがれて、落ち込むには早すぎる。
「Guesthouse Himnasvalir 」で、きょうこそゆっくりくつろげる、そのことだけを頭に描き、勇んでレイキャビクを出発しながら、とんだ誤算、ヒッチハイクに及んだ挙げ句、パスポートと現金以上に大切なカード3枚を一気に失くすという、容易ならぬ事態に陥った。
こういうとき、いちばん、大切なのは、気力だ。
思えば、アイスランドに着いて以来、わたしはどこか、急ぎすぎていた。
レイキャビクの旅行会社で、ツアー担当の男性から夏の観光シーズンの「いいところばかり」を聞かされて、舞い上がっていた。
アイスランド島一周、楽勝じゃない?
「やっぱり現地で情報拾って動くのが正解だよね」と、どこまでも自分の従来のスタイルを押し通したい、そんな意識が抜けていなかった。
それが少しずつ亀裂を生んでいながら放置、気づいたときは、破綻していた。
ヨーロッパに来ている。安心感もちょっとあった。治安の良さは、街を歩いていて、すぐわかる。
いつも旅行時には、パスポートとカード、それから100ドル紙幣を何枚かは携帯用の黒くて薄いメッシュの袋に入れ、必ず腰に巻き付けるようにしていた。
それを怠ったことはなかった。
だが今回、それを一度もやっていない。
パスポートとカードを入れた名刺入れ、そしてドル、行先の地図を投げ込んだビニール製のパッキングバッグをナップザックに入れて、出し入れしながら旅して、リスクを疑う一瞬さえ、なかった。
いや、もう、いくら後悔しても、意味はない。
とにかく、パスポートは、ないのだ。
ひとつだけ、不幸中の幸いというべき、自分を支える「ブツ」があった。
空港で50ドルだけ両替した。
そのアイスランド通貨を入れた財布を偶然、ジーンズの右ポケットに入れていた。
しかも、その財布に、いまや唯一残ったクレジットカードも、入っていたのだ。
このクレカの制限金額は40万円。久々の海外旅行、防寒の衣類などを買い、たぶん、残額は25万円もない。
「何か、追い込まれたときに」と、これだけは別にしていたのが、自らを助けた。
アクレイリへ着き、どこかに泊まって、レイキャビクに引き返す、そのぐらいのカネのめどは、つきそうだ。
歩き通すと決めたが、長く背負うことのなかったザック(45リットル・中型)は、次第に肩にくいこんできた。
田舎の高速道、車はビュンビュン通りすぎるが、数は少ない、歩くのに無理、というレベルじゃない。
もし、テント泊が決まっていて、そこを目指して歩いていたなら、そして何も失くしていなかったら、最高のウォーキング気分にひたれたことだろう。
だが、若いときと比べて明らかに歩行の速度は落ち、意気も上がらない。
「やっぱり、もう一度、ヒッチハイクだな」
ランドクルーザーが止まった!
車は、すでにライトをつけて走っていたから、遠目からも、やってくるのがよくわかった。
親指立てて、左手を大きく掲げ、回す。
しかし、やはり、みな、無視して走り去る。
「ダメか」…と思い、歩きだす。
振り返る。
車が来る。
手を上げ、「助けて!」の気持ちを込めアピール。
そんなワタシを、ハイスピードで近づいてきた車は、腫れ物にでも触るように車線をオーバーしながら避け、遠くなっていく。
これ、繰り返して歩いていたら、ほんとうに、いつアクレイリに着けるか、わかったものじゃないな。
そう考えはしても、わずかな期待を胸に、歩いては振り返り、車が近づくのが見えたら、手を振りまわす。そうせずにいられなかった。
はたして。
大型のランドクルーザーが、スピードを緩めてくるのが目に入った。
「えッ?! 止まってくれるのか?」
ランドクルーザーは、わたしの5~6m先で、見事、ストップ。
駆け寄る。
ドライバーは、たくわえたあご髭がたくましさを思わせる、40代そこそこの「ナイス・ガイ」、中年男性だった。
「すみません、わたしは日本人です。モチダ・トモヒコ、旅行者です」
「このあたりのゲストハウスを予約して探してきたんですが、クローズしてしまっていました。そして、パスポートも失くしてしまって……」
そういう趣旨の英語を必死で訴えた。
40代男性は、話し続けるわたしをまっすぐな目で見ていた。
「この車、アクレイリに行きますか。パスポート、失くしたことを、アクレイリの警察に言いたいんです。連れて行ってもらえませんか」
人間、必死になると、たいていのことは伝えられる。
男性は、事情を察してくれたようだ。
「いいよ。アクレイリまで。問題ない」
後部座席を開けると、わたしが担いでいたようなザックがいくつも積み重ねられていた。
いま考えると、彼はツアー業界か何かに関係する仕事をして、通りがかったのだろうか。
それで、前後にザック抱えて、ふだん人が歩かない道をとぼとぼ歩いている外国人を見て、何か関心、持ってくれたのかもしれない。
「ヴォ……」、Varmahlid、トラブルの起点になった、バスの休憩所兼停車場の英語表記さえ、発音できない、もどかしさ。
「日本人ツーリストです。モチダ・トモヒコです」
このフレーズ、まず、出てしまう。
「バスでレイキャビクからきて、前の休憩所で降りました。予約したゲストハウスを探しました。でも閉鎖になっていたんです」
「高齢の男性の車に乗せてもらい、ゲストハウスを探している途中、その人の車の中に、パスポートを忘れました。いま、パスポートがありません。とても、困っています。アクレイリの警察に行こうと思っています」
わたしは、かなりの速度でランドクルーザーを運転している中年ナイスガイに、つっかえながら、説明を続けた。
彼は、わたしをチラリとみて、「ここからアクレイリまで、車で40分はかかる」と、ゆっくりした英語で告げた。
速度、70キロ以上は出てるんじゃないか。それで40分?
歩いていたら、半日でもたどり着かなかったかもしれない。行き倒れになった可能性も、ある。
「パスポートがない。そうか。その男の車に、忘れたのか?」
「はい、たぶん」
「アクレイリの警察署は知っている。ぼくはアクレイリに行く。警察まで一緒に行こう」
神よ。
信仰心には全く欠ける日本人のひとりだが、まれなる幸運に「恩寵」の光が差した気がした。
40代ナイスガイは、静かな男で、何もわたしに聞いてはこなかった。ただ、それなりに飛ばしてはいるものの、確実な運転と雰囲気で、誠実な人柄であることは、伝わってきた。
山間を川沿いに走り続けたランドクルーザーは、やがて少しずつ高度を下げていく。
先のほうに、家々が目に映ってきた。
「アクレイリ、近いですよね」
男性はうなずくだけだった。
港に停泊する大型客船が、姿を現した。
想像以上に、この国では有名な観光地であるようだ。
そんな基礎知識もなく、ツーリストのアドバイスのまま、気軽な旅をせかされるように実行しようとした、自らの稚拙さに、あらためて消沈する気持ちが増す。
「夏の観光シーズン最盛期、どおりで、この町の飛び込み宿泊予約なんて、できっこないわけなんだ」
車は、二階建ての建物の玄関先へと進んだ。アクレイリの警察署に違いない。
アクレイリ警察署、二人の警察官
男性はわたしに、「ぼくも、ついていったほうがいいだろう」と言い、警察署の入り口のドアを押した。
入り口は明るかったが、狭かった。
日本の刑事ドラマで見る、被疑者が弁護士と透明の仕切り越しに語り合うような「接見室」、そんなスペースがあるだけだった。
この日、6日は土曜。狭いとはいえ、窓口に人が待機していなかったのは、当直当番体制になっていたから、と推察される。
中年男性は、外にいったん出て、入り口右手に回り、そこにあったドアのベルを鳴らした。
入り口の「接見室」スペースに二人の制服警察官が現れた。
わたしと、中年男性を見比べ、すぐに男性のほうを向いて、質問を始めた。
アイスランド語でやりとりしているから、何と言っているのかは、全くわからない。ただ、わたしを警察に案内してきた事情を説明、それをまず、警察官が聞き、男性の名前と連絡先を確認、メモを取っていることだけは見ていて明らかだった。
「じゃあ」と男性は、初めて強い目線とともに、ちょっと笑って見せた。
わたしは、名前を聞き、お礼をきちんというべきだったが、次に控える警察官の「調べ」が気になり、つい「Thank you for your-warm-hearted-kindness」と、絞るように声を出すのが精一杯だった。
時は急ぐ。
二人の警察官は、一人は長身の20代と見える金髪で、まだ少し少年ぽさが顔に出ている男性、もう一人は、肌は白いが黒髪、黒縁メガネで、少し年上、30代前半のように思われた。
以下、根拠はないが、わたしの勝手な事情に基づき、20代金髪警察官を「巡査」、黒縁メガネ30代警察官を「巡査部長」と呼ばせていただく。
わたしは名前を告げ、パスポートを探していることをまず話し、そして背中のザックから、別のパッキングバッグを取り出し、万一に備え入れていたパスポートのコピーを見せた。巡査部長がスマホでコピーの写真を撮った。
巡査「日本人の旅行者…いつからアイスランドへ?」
「おととい、8月4日にレイキャビクに着きました」
「それで、アクレイリへ?」
「いえ、ヴォ……、すみません、アイスランド語の発音がわかりません、アクレイリの前のバス停で降りました」
「何しに?」
「ウェブサイトで、ゲストハウスを予約しました。近くにあると、サイトで知りました。そこに泊まろうとしました。探したんですけど、クローズとわかったんです」
「バスを降りてから、つまり、どうしたのか?」
「探したゲストハウスが遠いとわかって、ある男性の車に乗せてもらいました。そして、一緒に見つけようとしました」
「それで…パスポートをいま、キミは持っていない」
「はい。男性の車の中にバッグを置き忘れたと思います」
こんどは巡査部長がメモを取り出して、本格的に聴取を開始した。
巡査部長「男性の名前は」
「知りません。わからない。別れるときに聞いたけど、覚えていない」
「どんな男だった?」
「高齢の男性でした。年齢は65歳と言っていた」「それから、英語の教師だと。小さい子どもに教えているとも話した」
「服は?」
「えっと、ブラウンのジャケット、ジャンパー?(本当はブルゾンと言いたかった)」
「車のナンバーは?」
「わかりません」
「どんな車?」
「古い小型の車です」
「色は」
「シルバー」…初めて自信をもって答えることのできる質問だった。
巡査部長は、わたしが外勤記者をしていた当時とまったくよく似た、縦に開くメモ帳を繰りながら、手早く書き込んでいく。
「パスポートは盗られたのか」
グッ、と答えに詰まった。
その目的で、わたしのヒッチハイクに応じた、とする根拠には欠けていた。
彼は、閉鎖ゲストハウスの最初の、さびれたゲートで別れるとき、少し「これ、大丈夫なのか?」という、いぶかしげな表情を見せてはいたものの、後部座席を振り返ったりするしぐさは、一切していなかったのだ。
窃盗罪の可能性を警察官に告げる、証拠、エビデンスは乏しい。
「車に、わたしが、パスポートを入れたバッグを忘れたと思います」
ここは、警察官にとって、ひとつの核心部だ。
巡査部長は、それまでもわたしの英語力にかなり、もどかしさを感じていたのだろう。スマホの自動翻訳機を取り出して、質問を英語で打ち、日本語に変換した。
スマホの画面に選択肢が4つか、5つ並んだ。
「うっかり」「持っていかれた」「盗られた」、ほかにもあったが、この文をライティングしている段階で、すでに記憶が薄れてしまっている。
わたしは「うっかり」の選択肢に触れた。
質問が変わった。また英語で直接話す。
「それで、そのバッグの中には、パスポートのほかに何があった?」
「デビットカードが一枚、クレジットカードが2枚。あとドルのキャッシュ」
「デビットカードはいくら(まで使える)?」
「1万ドル、あります」
「カードのパスワードは?」
「あります」
「ドルのキャッシュは」
「1500ドル以上、です」
少し、間が空いた。
二人の警察官はアイスランド語で話したあと、「10分ぐらい、ここで待っていて。コーヒーでも飲むかい?」と聞いた。
巡査部長がいったん、署内へ戻り、すぐに紙カップに注がれたインスタントコーヒーを手渡してくれた。
警察官の冷静だが、終始穏やかな対応と、コーヒーの温かさが交錯して、胸に染みた。
やがて、署内から巡査と巡査部長が再び現れた。
スマホの画面を見せながら、「その車が、キミをピックアップしたのは、ここかい?」と巡査部長が聞いてきた。
そうだ。ここだ。「Varmahlid 」の休憩所前のT字路が画面上に明示されていた。
「Right. Here」
巡査部長は続けた。
「それで、キミは、どこに立っていた?」
スマホの画面を指さしながら、この交差点の、ほんの少し先です、という応答をした。
「男の車はどちらのほうから来た?」
「この左側の道路から、アクレイリへの道へターンしてきた」
「そのとき、キミの服は、いま着ている色か」
うなづく。
二人の警察官は、ここでまた「少し、待っていて」と告げ、ドアを開けて署内へ消えた。
けっこうな時間がすぎたように思えた。
二人が三たび現れた。
同時に、長身、白髪、ベテランの警部補? と思われる50台後半警察官が姿を見せ、二人の警察官に指示を出して、署内へすぐ消えた。
巡査部長がスマホに英語を猛烈な勢いで打ち込みながら、自動翻訳して、わたしの目の前に差し出した。
「いま、わたしたちは、交差点のカメラで(問題の車を)探している最中です」
「Yes.」
以下、スマホの自動翻訳で会話。
「調べるのに、時間がかかります。あなたには、この調査が終わるまで、アクレイリにいてもらわなければなりません」
わたしは不安を抱いた。
アクレイリに泊まれるのか?
「パスポートがないんです。どこかのホステルに泊まるとしても、『パスポートを見せて』と言われるでしょう」
そして「署内に泊めてもらってもいいです」とも告げた。
さらに念押し。「事前に予約とれなかったから、探しても難しいと思います」
”被疑者扱い”で署内留置、無問題とでもいうかのような…ここまで甘えた言い分も、追い詰められていたとはいえ、非常識ではあった。
巡査がスマホをまた目の前に差し出した。
「片端から、ホステルに聞いて回る必要がある。見つかると思う」
「ホステルは、この警察署を下ったところ、ダウンタウンで探してほしい。もしパスポートのことを言われたら、(スタッフに)警察署に電話するように話して」
スマホの翻訳は続いた。
「カードは、すべて、使用を止めるように、お勧めします」
そうしよう。泊まる先がきまってからになるけど。
「わたしたちから、連絡が入るまで、あなたは待機していてください」
望みはあるのか。いや、アイスランド警察を信じて、託すしかない。
防犯カメラが「Varmahlid 」の交差点に備えてあったとは知らなかった。
交差点とそんなに遠くないところで、65歳男性の古い車に乗り込んだから、その記録が残っているかもしれない。とにかく、指示どおりにするんだ。
巡査部長は口頭の英語に切り替えて、最後の質問をしてきた。
「アイスランドを発つのはいつ」
「8月23日です」
「キミの電話番号は?」
「〇〇〇ー△△△△ー◇◇◇4」
巡査部長はメモを終えると、「ダウンタウンに下る道を教えよう」と、外に出るよう、うながした。
このとき、午後7時半か、8時ぐらいだっただろうか。
「ほら、あそこに、ライトをつけている車が見えるだろう? あの車の方向に向かって、この道をまっすぐいけば、ダウンタウンだ。ホステルに聞いて回って。そしてわたしたちからの情報を待っていてほしい」
そう言い終え、巡査部長はきびすを返し、署内へと戻っていった。
前日5日に検索をかけて、何度もタブレット端末の画面に繰り返し現れ、すでに「見慣れた建物」になってしまっていた「アクレイリ・バックパッカーズ」が、「おいで、おいで」と誘っていた。
ここがダメなら、もうあとは、超高いところしか残っていないだろう。それは、いまの自分にとって「最悪の選択」だ。
アクレイリ・バックパッカーズの扉を押す。
老若男女、年齢を問わず、国籍問わず、まさに典型的ドミの光景が目に入る。ビールを傾け、みんながみんな、マジ、楽しそうだ。こういうのって、かえって傷を深くするよね。
あとで「アントニオ」と名前がわかる、気のいいラテン系? 男性スタッフが、レセプション兼バーカウンターで、笑顔を振りまきながら、忙しそうに動きまわっていた。
思い切って、大きな声で聞いた。
「リザーブしてないんですけど、空いてるベッドありますか」
アントニオはパソコン画面に目をやりながら「ひとつだけ、あるよ」といった。
選択の余地なし。
すぐに宿泊を決めた。
アクレイリ警察の調査がいつ、終わり、わたしに連絡が来るのか、皆目わからない。
「すみません、2泊できます?」と重ねて聞く。
「ああ、大丈夫、問題ないよ」とアントニオ。
さて、最大の難関だ。
「実はアクシデントで、パスポートがないんです」と話す。
アントニオは「IDか何か、あるかな?」と聞いてきた。
IDか。日本の保険証とか、マイナンバーカードとか、そのたぐいの身分証明書のことか? いずれにせよ、持ってきていない。
「パスポートのコピーならあります」というと、アントニオは「それでOK。出して」という。
このあたりの大雑把なところが、また、ドミトリーの良さでもあるかな。
次は支払いだ。いまとなっては「切札」のクレカを取り出す。
「部屋はワンステイ4500 ISK。毛布がいるかい? そうか、要るならひとつ1000 ISKだから、二泊で1万1000 ISkだ」。アントニオの英語は速いが、発音がわかりやすい。
支払い、キーを受け取る。
部屋は2階「201号室」。ベッドが6つ、二段3つで並び、確かにひとつだけ、空きがあった。
問題は、貴重品入れのロッカーだった。カギがついていない。ということは、以前「地球の歩き方」に書いてあったように、「持参のダイヤル式キーで、よろしくね」ということなのか。
でも、カギをかける、その取っ掛かりになるはずの「穴」がない。
そして、部屋の誰も、このロッカーを使っていない。
別にもう、いいや。
カメラとタブレット、スマホにあと現金少し。最大の貴重品が手元にないんだし。
ザックをおろして、荷を開ける。
すぐにタブレット端末を開いて、デビットカードの銀行、クレカのカード会社の「紛失時の緊急連絡先」を検索して、順次電話、使用不可にしていく。
作業が一息ついたところで、なんだか急に頭が混乱してきた。
バッグから、衣類を取り出しては、入れ戻す、謎の行動がしばらく続いた。
そういえば、バス休憩所でパスタを食べたあと、警察でコーヒーを飲んだだけだが、何かを食べよう、飲もう、という元気さえ出てこない。
「歯を磨かないと」。ベッドに散乱した衣類や、タブレット端末用品袋を、力づくでザックに入れたあと、洗面台で、歯を激しく磨く。
磨いたら、きょう6日の「悪夢のような一日」のもと…歯石が取れる、とでもいうかのように。
ザックをベッド壁際ぴったりに置き、倒れこむ。眠り込みたいはずなのに、どこか、頭が冴えている。
「これから大使館に行って…ああ、もう、面倒の極致だな」
やるせなさを募らせながら、いつの間にか、うとうとし始めた。
(※申し訳ありません。長い文章、今回でケリつけるつもりでしたが、あともう一回、続きます。とにかく備忘録ですから、最大、覚えていることを記録しておきたい。読み手の方のことも考えながら、書き進めてはいる…つもりです。この文章の最後まで、たどりついた読み手の方には、厚くお礼申し上げます)
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