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石木ダム「本体工事着工」の欺瞞/長崎日々日記

9月8日、川棚町の石木ダム工事現場で「県が本体工事に着手」というニュースが出た。テレビ各社が放送、新聞社もウェブで先行報道している。

「本体工事着手」

これはある意味、事実で、ある意味「デマ」に近い。「デマ」はいくら何でもいいすぎか。では限りなく「パフォーマンス」ではないか、と問いかけたい。

報道の動きを時系列で追いながら、読者の判断を仰ぐ。

石木ダムで県が絶対反対同盟住民(13世帯約60人)に、「話し合いは(事実上)期限切れ」と2日の文書で通告をした。嫌な予感が続いた。住民の人たちに耳を傾けたいと8日朝、長崎を発った。

石木郷に到着したのは午前11時すぎ。ダムの計画上、ほぼ真下に埋まる場所に建てられた「団結小屋」前。テレビカメラと取材記者が集まっていた。

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カメラはNHKだけだった。記者、カメラマン、音声各一人。
(先月末から石木ダム問題で特集番組を作るため通っているというNHKディレクターも一人で撮影していたが、今回のニュースとは無関係と言った)

新聞は長崎と西日本。

現場のイニシアチブを握っているのは、NHKだった。

反対住民にインタビュー、収録は大半がこの時点で終わっていたようだ。

すぐそばに、同盟のテントがある。一人に聞くと、県が「新たな工事をしている」という。

ダムの最上部を思い浮かべてほしい。その上辺の片隅、石木川上流に向かって右、南南東の山の上部に大型重機が1台陣取り、四方をならしていた。高さ70mぐらい、団結小屋から目測1キロは、ないか。

IMG_2017石木ダム本体工事着工noteフロント

「県が記者クラブで、『10時からダム本体工事を始める』と発表したそうだ」。同盟テントにいたもう一人が言った。

“本体工事現場”を目指す。

重機の音が近づいたところで山道を外れ、わきの林地へ入る。

すぐ、県が作った林道に出た。だが網製の柵が厳重で進めない。10mほど先、重機のシャベルが首を振っている。ヤブが邪魔して見えづらい。とりあえずスマホで撮る。

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12時5分前。県に電話をかけた。

わたし(以下M)「長崎県の納税者の一人です。広報課にお聞きしたいことがあります」

広報課女性「ご用件は?」
M「いま川棚町石木にいます。県が新しい工事について記者発表したと聞きました。本当ですか」
女性「お待ちください。代わります」

広報課のK氏(以下K)が電話に出た。
M「報道各社の窓口を担当されている方ですか」
K「そうです」
M「きょう、石木ダムで新しい工事、本体工事という言い方をされているみたいですけど、それをやるという発表をされました?」
K「いいえ、してませんね」
M「NHKをはじめ、新聞社も来てますし、現地ではそういう情報が出てますけど。発表はなくても、たとえばクラブにいって、それとなく『お知らせ』をしたとか、どうですか」
K「いえ、そんなこともしてないです」
M「きょう、クラブへ顔出しされました?」
K「ええ。クラブへ行きました。何社かいるな、と思いはしましたけど」
M「それだけ」
K「そう。それだけ」

M「じゃ、なぜNHKとか来てるんでしょうね。テレビはいまのところNHKだけみたいでしたが」
K「わかりません。NHKさんが(県庁内の)どなたかに聞かれたんじゃないですか」

会話をしているうちにテレビの声が電話口の耳に届いた。

K「あ、いま(NHKの)テレビに出てる」
M「え! もう出てるんですか、昼のニュースに?」
K「そうですね」
一呼吸おいてK氏が言った。
「これ、独自ニュースですね」

なにげに発された「独自」の業界用語。根拠なき直感がよぎった。
…K氏はNHKの取材を事前に知っていた…に違いない。

M「Kさんの部屋には、各社のニュースが見られるように何台もテレビがあるんですか」
K「はい、ええ、まあ、一応」
M「ほかのテレビのお昼のニュースに出ていないんですか」
K「ちょっと待ってください。わたしも全部わかっているわけじゃないんで」

K「ほかのテレビ各社はニュースになってみたいです。おそらくね」

礼を言って、電話を切った。

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午後1時半前。付け替え道路の反対同盟住民テントにこの日の午後の座り込み当番女性5人がいた。

同盟住民の中心の一人、IさんがNCCの電話を受けていた。NHKの放送を見てすぐに駆け付けてきたという。

Iさんによると、10時ごろ県がいう「本体工事」の開始を目撃した団結小屋そばテントのメンバーが、長崎新聞と西日本新聞に知らせた。

当初「同着」と思っていたが、NHKが一番乗りだったらしい。

午後2時半ごろ、毎日新聞記者が女性5人に合流してきた。

すぐそばの斜面に同盟住民が休憩所として作った、通称「森のレストラン」の周囲を大型重機が旋回する。レストランは巧妙に避け、大木をなぎ倒していく。「嫌がらせ」にしか見えない。

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毎日新聞記者によると「読売記者は見ていない。朝日新聞は長崎から来ているようだった」。毎日、朝日とも佐世保支局は一人、そして県北全域のカバーを強いられている。

団結小屋に戻る途中、山道を通る車を1台見た。後で毎日記者が「KTNだ」と教えてくれた。

反対同盟支援者によると、8日の“本体工事現場”は、実は半年以上前、同じ佐世保の業者が木の伐採を突然始め、気づいた反対同盟住民が抗議、やりとりの末、業者が作業を中止した場所だという。

大型重機を入れて、とりあえず土砂をこね回せば、それは「本体工事着手」なのか。午前は1時間半超えるぐらい、午後も作業は続いた。しかし実績作りのパフォーマンスとしか、わたしには思えない。

「NHK県政記者が『きょう(8日)10時から石木で本体工事』と佐世保支局に通報、佐世保から取材陣が到着、いち早く映像を撮った」

そういう説明も現地で耳にした。

NHK長崎放送局がウェブサイトに17時05分にあげてある動画では、昼のニュースにあったという、記者の中継シーンが入る。

NHKは抜かりがない。手際が良い。人と金も豊富だ。メディア最強。

取材陣は佐世保支局員に違いないだろう。それにしても、昼のニュース放送、しかも中継もしっかりフォローしてとなると、いかにNHKといえども、準備万端すぎる。「8日工事」を事前に入手していたと考えたほうが自然だ。佐世保支局に戻らず、画像と音声をモバイルで飛ばし、長崎本局で受け編集という方法をとった可能性も強い。

① NHK県政記者が、県がいう「石木ダム本体工事」に神経をとがらせていたのが実り、ひそかにネタの仕入れに成功した。
② 県幹部がこう着した石木ダムの「本体工事着手」を世にアピール、住民に圧力をかけ、避けられない同盟住民家屋の撤去、すなわち強制代執行へ向けて下地を作ろうとした。NHKにリーク、県の意向をくみ取り放送するよう求め、NHKも乗った。同時に今後の報道各社のメディア操作の強化も狙った。

NHKに裏付けをとっていない。わたしは②が説明をつけやすいと考えている。「邪推」「想像でものいう馬鹿者」とあきれられるかもしれない。とれないかもしれぬリスクを取り、②を提示したい。

IMG_2046NHKテレビ放送20210908午後8時45分石木ダム本体工事着工

※上の写真はNHK長崎放送局放映画像 2021年9月8日午後8時45分放送

だから、これはつまり「出来レース」ではないか。NHKと県が手を握って「劇」を上演した。冒頭の「パフォーマンス」という、わたしの見方は、こういう帰結となる。

「ウォッチドッグ」という、ジャーナリズムの基本を説くことばがある。権力監視の「番犬」としての役割をいう。

「Watch:ウォッチ」がなくなれば、「Dog:犬」になる。

「権力の犬」

……………………………………

【おわび】最初の原稿では、現場から長崎へ戻る途中、共同通信福岡支社の記者に会い、その記者が「NHKの昼のテレビ放送を見て、急いで(石木に)来た」と発言し、また石木の現場にいる間に「福岡でもテレビ放送があったらしい」という話が出ていたため、「NHKはこの『本体工事着工のニュース』を、福岡放送局から九州エリアを対象にしたニュースと流した、それはこのニュースがインパクトの強い”スクープ”と位置付けられたため」との趣旨で書いていた部分がありました。
これは9日正午すぎに大部分を訂正、さらに同日夜「福岡放送局と情報を共有」の部分を含めて完全に消去しました。8日、この「note」を出稿する前に、NHKに確認する努力はしましたが、東京本局問い合わせセンターの要領得ない返答もあり、迷った末「共同記者がいうことに間違いはないだろう」と考え、原稿で「福岡でも放送した」ことを前提に文にしました。9日正午前、福岡放送局にあらためて確認したところ、「テレビ放送の事実はない」との正式回答がありました。さらに9日夕までにメールで東京のセンターから「福岡放送局で午後5時のラジオニュースで流したという事実はある」との返答があらためてありました。
結果、安易な判断で事実とは異なる記述となりましたことを、心からおわびいたします。これは容易に裏付けが取れる話であり、その裏取りが十分でないまま出稿したのは、不徳の致すところです。申し訳ありませんでした。


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