プリンスのニューアルバム『Welcome 2 America』を聴いて その1

プリンスのニューアルバム『Welcome 2 America』を聴いて その1

プリンスのニューアルバム『Welcome 2 America』が到着して聴いてからのレビューを連載する。今回はその1(大幅加筆訂正済)。

到着前に憶測レビューしたのはこちら(一部加筆訂正済)。

https://note.com/tomohasegawa/n/n6cebb33dfea0

Born 2 Dieのレビューはこちら。

https://note.com/tomohasegawa/n/nfae311749749

Welcome 2 America (5:24)

この曲が登場した際に歌詞を抄訳したが、僕には近未来というよりは2010年頃の現状を歌っているように感じていた。でもこれから起こることを示唆している箇所はあって、それはサビの部分だ。“アメリカへようこそ、ビッグなショウへようこそ、皆が何か探し物をしている、行く場所がなければ、アメリカの内部を除けば、それが僕が知る唯一の場所、変革が内部深くで起こっている、起こる、起こらない、起こっているよ”。プリンスは、僕が知る唯一の場所、それはペイズリーパークはもちろん、アメリカ国内でツアーをし、明らかにアメリカは(ライブをするのには少なくとも)良い場所である、ということを歌っている。そして広義ではアメリカの音楽も良い、とも言っているように思える(前回憶測レビューの際に訳した2010年6月27日にLAのThe Shirne Auditoriumでのプリンスのスピーチ参照)。でもアメリカの内部だけは悪い場所なんだ、とも歌っているのではないだろうか。そしてTransformation happens deep within、つまり(アメリカの)中の(=within)深い所で変革が起こっている、これは前述のアメリカの内部(悪い場所)のことを説明している。歌っている頃はオバマ政権1期目(二極分化しつつあるアメリカに変革をと登場したが、当時は不本意な結果と思っている人は少なくなかった)から2期目へという所。僕はこのサビの部分を希望だと思った。つまりあまり上手く行かなかったオバマ政権だが、いよいよこれから良くなるぞ、今度こそ正に変革するよ、と。でもその次の大統領悪しきトランプが生まれることを予言している、そんな解釈もできなくはない。アメリカの内部は今も昔も悪い場所だったのだから。変革が起きてもそれは悪い変革だ、と。またはアメリカの陰部で陰謀が、とか、ネガティブに考えたらそうなのかもしれない。プリンスは答えを言わない。僕らに想像させる。聴き手は良くなるようにと思っているはずだから、このサビは希望の方なのだろう、と僕は解釈する。イエスかノーか、イエス。そのイエスがポジティブに響いていると。

プリンスの『Welcome 2 America』のリリース記念に作られた関係者のインタビューを収録したポッドキャストThe Story Of Welcome 2 Americaより、オバマ大統領に関してモーリス・ヘイズ、そして当時のプリンスのマネージャーであったキラン・シャーマが語っているので掲載する。

アンドレア・スエンソン(番組のホスト):更に特定な会話が聞きたいです。プリンスの作品で言いたかったこと、その考え、ポイントと言うか、環境においてどのような役割を担いたかったか、アメリカの政治的立場、つまり彼の心の中は何なのか、何が言いたかったのか、を知りたいんですよ。

キラン:2度ほど彼が、“オバマ大統領に手を差し伸べられないかな?”と言っていましたね。会いたがっていたんです。実際2度私はホワイト・ハウスに手を差し伸べ、プリンスは恐らく以前もしていたことがあるのでしょうが、少なくとも私の時は2回スケジュールを組み、幾つかの理由により2回ともキャンセルとなってしまいました。プリンスは芸術、音楽、そして特にエンターテイメント業界、その内部で起こっていることにケアする気持ち、機会を伺っていたのです。そして教育も。私達には残念ながらその種のミーティングがありませんでした、その時ツアーがあり忙しく行動していたからです。でも私は知っている、彼は間違いなく何かを考えていたことを。モーリス、彼はあなたに子供の問題についてよく話していなかったかしら?

モーリス:ああ、僕が知っていることは、黒人達、僕らはオバマ大統領は大喜びで迎えたということ、そして最初の黒人大統領であるということの可能性だ。プリンスはその点少し異なった見方があったとは言えるね。“だめだめ僕らはまだ彼に合格点をあげられないね”って言ってた。僕らは彼と話すだろう、意味ある方法で何かを知ることが出来るだろう。つまり最初のアフリカン・アメリカン大統領が生まれたことは僕たちにはとてもとても素晴らしいことだったんだ。でも権利に立ち向かい声を上げ、自分達に出来ることは何か、真剣に試みていく、その機会を得なくてはならない。この新しい大統領からコミュニティのために何かを得なくてはとね。実際の所はどうなのか見てみよう、ということさ。額面通りに受け取らなかった、プリンスは考えていたね、信用させて実は騙すのか、僕らはこの男を中に迎えているけども。僕は人々に間違った印象を与えたくない。プリンスは誰の前でもクールだったけど、でも実際は声を上げて権力に立ち向かっていたね、誰も怖いものなどいなかった。

アンドレア:プリンスの優先事項の一つとして教育を上げていたと思うのですが、彼はオバマ大統領に他に何を望んでいたか、もしくは前進させたがっていたものは何かありましたか?

モーリス:プリンスはキッズが大好きだったね。いつも子供達に関心があったよ。そして教育、音楽教育もね。子供たちには違う世界、楽器を手にして音楽を学ぶことが出来るということを忘れないで欲しいんだ、とプリンスはいつも言っていたよ。周りの人達がどうなっているのかもね。家庭内が良い状況じゃないと、健やかに育つことは難しいって。家族と一緒に、より良い生活をおくることにフォーカスしてた。そして自然のことも。プリンスがとてもクールだったことがある。僕らが皆異なる場所から集まって来ているわけだけど、僕らのホームタウンでコンサートすることになれば、シェルビーに高額な小切手を、ブラックウェルに小切手をあげるんだ。彼は僕らにお金をくれるんだ。シカゴで3つの異なるチャリティーを見つけて欲しい、って頼まれたことがある。寄付したいからって。こう言ってた“3つの違う場所の、だよ。僕らはお金をあげるんだ”。子供たち、家族を助ける、そういうのを探していたし、心配していたんだ。そしてプリンスは評価してからオッケー、お金を渡そう、ってなってたね。本当に沢山のお金だったけど彼は多くの場合匿名で行っていたと思うよ。

キラン:正にそう。とても彼が大事なことをしたのは、ハーレム・チルドレンズ・ゾーン(注:ハーレムに住む貧困に苦しむ子供と家族のための非営利団体)に寄付したこと、それも多額の。なぜなら私たちはニューヨークにいて、彼は思ったのよ、ここは大きな舞台なんだ、そしてツアーを始める場所、だからその舞台で自覚することを広めたいんだ、って。その日は彼のためではなく、ハーレム・チルドレンズ・ゾーンの子供たちを早めに呼んで、ステージで走り回らせたり、全ての楽器、機材を触れさせ演奏させ、バンドとプリンスも共にいて、彼は子供たちに技術を磨くこと、スキルを学ぶこと、楽器を手に取ることを語っていたわ。エンターテイメントの世界は変化している、だから強く信じていたのよ、演奏し学び、そして音楽の才能を持つことの重要さを。

あと「Welcome 2 America」のレコーディングなのだが、2010年3月15日にペイズリーパークにおいて、タル・ウィルケンフェルドがベース、クリス・コールマンがドラム、そしてプリンスがその他の楽器を使って、ヴォーカル無しのセッションを行っていて、その後シェルビーや恐らくプリンスも2010年3月から4月にかけてヴォーカル入れの作業、そしてプリンスにコ・プロデュースを依頼されているために、モーリス・ヘイズが2010年の春に追加でキーボード等を入れている。一応ここでこの曲は完成したのか、と思っていたのだがどうやら違うようなのである。恐らく最終段階となる『Welcome 2 America』制作時期にエンジニアとして抜擢されたジェイソン・アゲルのThe Story Of Welcome 2 Americaのポッドキャストでのインタビューを掲載する。

アンドレア:4月と5月の猛烈なレコーディング活動で、『Welcome 2 America』のために多くの、そして最初の曲が作られています。そこでジェイソン、あなたが8月辺りからアルバムの更新、ミックス、曲の配列がエキサイティングに行われたと思うのですが。プリンスはアルバム用の曲のコレクションをあなたに示しましたか?

ジェイソン:ええ、行われたことは、既にあったものを僕らが引っ張り出した、ということ。『Welcome 2 America』の曲はかなり既に一緒に繋がっていたんです。そして殆どの場合僕が何かをセットアップする係でした。彼がギター・ソロを弾く、すると僕はマイクをセットする。僕は部屋を去る。シェルビーや残りの女の子達のヴォーカルを入れるなら僕もやはりマイクを用意する、という具合で。そして僕は戻って全てをテープからプロツールスに入れて、そのラフミックスをさっと作って。彼は僕だけに沢山のことをさせなかった。共同で全てをして、しかも作業はとても速かった。僕はラフ・ミックスを一緒にする、つまりレファレンスミックス(完成直前のミックスと別のミックス、ヴァージョンを比較してクオリティ判断をすること)なのかな、たまに彼が僕に多くの曲からそういう作業をさせてくれました。それは曲をグループにし確かな順番に置くということ。それらの曲を聴き直して、スタジオの後ろにあったCDプレイヤーで聴くためにCDRに焼いてました。

シェルビー:最初にこれらの曲のマテリアルを聴いた時、どの曲があなたにガツ―ンっと来たの?そうそう、この曲はよく覚えているよ、とかこのミックスが凄かったとか、僕が関係している曲だとか。

ジェイソン:最初僕にヒットしたのは明らかにファースト・シングルの「Welcome 2 America」ですね。彼がほどんど一人でレコーディングした奴で、ある日プリンスが、マイクをセットして、と言うので、おー今日は僕がプリンスが実際歌うのをレコーディングするんだな、って、そして彼が入ってきて、長椅子の僕の隣に座ったりして、なんて色々想像してたら、僕がただコンピューターの所にいて、レコーディングをヒット、開始させて、プリンスは語りをしただけ。彼は歌わず、ナレーションから曲を始めたんだ。全く予期していなかったことだったんで、彼の頭からの声をただ聞いていた、僕の耳に彼の声が、彼が直ぐ近くで、オーマイゴッド、っていう感じだったんです。

シェルビー:目の前で起こったの?

ジェイソン:そう。正に。

ジェイソン:僕らがアルバムの曲をミックスしているとは思えなかった。

シェルビー:でしょ?私達も歌っている間アルバムをつくっているだなんてわからなかったわ。私達は歌っているだけ。

ジェイソン:僕が集めたミックスCDがあったんだ、プリンスに夜聴かせるために。そして数度僕がさっとミックスを作って、彼が“オーライ、これは大丈夫そうだ、これをディストリビュートとCD化のために工場に明日持っていこう”って言ってたんです。でもそれは起こらなかった。僕が“何であっても大丈夫”って思って、プリンスも同じことを言っていて、でも一週間後にはヴォーカルか何かを加える作業をしているという。プリンスが新しい音楽を提示する度に僕はついに来た!って思うんだけど、僕が働いている時には何もなかったんです。

シェルビー:決して起こらなかったと。その日が来る、その日が来るって、今度こそって。

ジェイソン:そうです。

princevaultにある2010年の秋のレコーディング、The Story Of Welcome 2 Americaでは8月(恐らく終わり頃)からとあるが、実際本格的には9月に行われている、つまり秋ではあるかもしれない。しかしThe Story Of Welcome 2 Americaでプリンスはジェイソンにこう言っているのである。

“秋には葉が美しいよ。だから秋にまた来たらいい、きっと素敵なはず”。僕は、おー、そうですか、是非戻って来たいです、って言ったんです。

ジェイソンはペイズリーパークに2度来たということはない。よってprincevaultの2010年秋のレコーディングは、夏のレコーディングとするべきではないか、少なくともLate Summerとか。そしてもしかするとジェイソンがいなくなってもプリンスは一人で『Welcome 2 America』制作を継続したと思われる(偏執的と言いたくなる程プリンスはこの『Welcome 2 America』をどうにかして完成させよう、良いものにしよう、という意思はとても強く感じられる)。そしてジェイソンは「Welcome 2 America」のヴォーカル入れに立ち合っている。そしてそれがプリンスが歌うのを聴く初めてであったが、歌わず語りであったとしている。「Welcome 2 America」ではサビでこそ歌っているものの、基本はプリンスやエリッサ・ディーズらのナレーションが中心だ。モーリス・ヘイズがコ・プロデュースしてキーボードを加えて完成させたと思われた「Welcome 2 America」はジェイソンとのレコーディング時にまた曲の殆どともいえるスポークン・パートを再度入れ直しているのである。しかもこの曲はアルバムのタイトル曲。もちろんジェイソンとの後完成させたとは言えるが、逆にこの2010年秋(夏の終わり)まではアルバムはおろかタイトル曲さえもまだ完成していなかったと言えよう。そして「Welcome 2 America」は時期ごとに幾つかオルタネイト・テイクがありそう。アルバム『Welcome 2 America』に収録されている「Welcome 2 America」は一体いつのヴァージョンなのか、ミスター・ヘイズがコ・プロデュースしている曲となっているから2010年春のヴァ―ジョンなのだろうか。モーリス・ヘイズ・コ・プロデュース・ヴァージョンの『Welcome 2 America』、そして更に手を加えた真『Welcome 2 America』が存在するかも。これ程色々考えて作られているアルバムは、例えばワーナーとの確執がいよいよ表面化した時期のアルバム『The Gold Experience』であったが(プリンス名義の『Come』も作っていて振り分けに迷っていた)、タイミングを逸してしまった結果リリースされなかった(と長谷川は推測している)『Welcome 2 America』はもしかするとそれ以上と言えるかもしれない。

Running Game (Son Of A Slave Master) (4:05)

ここで僕のツイッターを紹介する。

待望のニューアルバムを聴きつつウォーキング。2曲目で号泣。子供が僕を見ているよ。思っていたのと違う、いつもながらのプリンス流華麗なる裏切り炸裂。この曲のライブ・ヴァージョンは一体どうなるんだ...そうか、あなたは今ここにいないんだ。#Prince #Welcome2America

僕がアルバムを聴く時、2曲目というのをとても重要に思っている。そしてオープニングがどうしても先に知っていたWelcome 2 Americaツアーのタイトル曲だし、もしこのアルバムが出ていたらそのツアーも当然このアルバムからの曲がプレイされるのだろうな、と考えながらウォーキングをしていた。続く2曲目はダンスフロアをクエイクさせるようなファンクが来るかな、そんな期待が僕にはあったけど、ここでプリンス流華麗なる裏切りが炸裂する。静かにじわじわと内部に浸透させてから体が喜ぶのに任す、優雅で心地良いワクチンのような曲だったのだ。プリンスならこの曲でウィルスも吹き飛ばしてくれるだろう、そしてこのライブ・ヴァージョンはどんなものになるんだろう、そう思うや否や号泣している自分がいた。

この曲でのプリンスはコーラスの一部のように控えめな役割。女性コーラスの方がメインと言って良いほど。アルバム『Welcome 2 America』はプリンス単独名義だが、ニューパワー・ジェネレーションにしろとまでは言わないものの、NPGの名があったても良いとは思わされる。メンバーはオープニングの「Welcome 2 America」と同様、ドラムがクリス・コールマン、ベースがタル・ウィルケンフェルド、そしてプリンスが2010年3月12日にレコーディングをしたものをベースに、シェルビーJ、エリッサ・デイーズ、リヴ・ウォーフィールドの3人がバック・ヴォーカル、そして特にシェルビーはリラックスしたラップをフィーチャー、、そして2010年の春にキーボードとパーカッションをモーリス・ヘイズが入れてコ・プロデュースし、曲としては完成しているようである(以降再レコーディングされた気配もないし)。このレコーディングにおけるバンド形態もNPGと名付けるしかないのだろうが、もしタルやクリスがミネアポリス周辺に住んで、プリンスに呼ばれれば、いつでもリハーサル、ライブ、そしてレコーディングに参加する、プリンス教入会(嫌な言い方をして申し訳ない)をしていれば、13年1月16日から18日に行ったダコタ・ジャズ・クラブや同年のモントルー・ジャズ・フェスのように、サード・アイ・ガールズとNPGのメンバーを使い分けて、ロックなセット、ファンクやソウルなセット、異なる雰囲気のライブを3種類くらい行う、そこにタルとクリスもメンバー入りしていたと思う。

さて歌詞だが、速射砲のようなラップではなく、韻を踏むのを楽しむ余裕さを魅せるシェルビーのフローが浮遊する。“スラックスから見える銃は何丁あるの?ダウンタウンで知られてる、これぞ、という奴、ギャングスタ同士が会うとつまらない奴が不満を言うんだ”。Slave Master(奴隷/主人)のSon(子孫、若い奴ら)なので、“従属システムに縛られている奴らは今日ものさばり続けてる”と続けて訳してみた。

“リアルな病みつきビートにいくら欲しいんだ?一方別のA&Rマンも白々しい嘘を吐いてやがる、システムに縛られた奴らが来て挨拶、出版権がふいになって、そしてまたストリートに戻らんと、ってわけ”。音楽業界の闇は今も尚、だ。

“2万5千ドルが自由販売扱い、貧窮者になるって時にはそれこそ大金だからね、これら全てのビートにいくら欲しいんだ?そうやってスレイブ・マスターの息子は今もこんなやり方続けてる”。

そして続いてGates Of Henryとあるが、素直に訳すとヘンリーの門、さてどういう意味なのか。これはウィリアム・ヘンリー・ゲイツ3世、つまりビル・ゲイツを指していると思われる。よって“ビル・ゲイツが君の過去を全て暴くよ、NASCAR(アメリカではF1をも超える人気のレース)の旗のようにブンブンと素早く動かして悪いことしてる、だから君は自分のやり方を持つかどうかなんだ、砂時計をまたひっくり返すことになるよ、なんて馬鹿なことなんだろ”となる。SNSで自分の過去が暴露され拡散、つい最近にもあったしこれからもあり続けるだろう。これが政治家のみ対象ならウェルカムなのだけど、善人に対してなら壮絶な弱い者いじめに発展してしまう。

“ダンスが好きな人と同伴ならパーティーに来ていいよ、それかスイートなロマンスが好きな人とかさ、僕らは今もそういうの得意だからね、クレイジーな恋を君にあげたい、でも本当は君のこと全く知らないんだ”。

恋バナが展開されるのかと思いきや閑話休題、ここからまたダークな歌詞になる。黒人同士の犯罪を旧約聖書『創世記』に登場する兄弟相克の物語カインとアベルにもじりつつ、“ハイイエロー(白人と黒人の混血及び黒人で明るく色白な人)に暗いイメージ持ってたでしょ?21世紀は尚貪欲と名声の世界さ、僕はもう狂気状態だ、誰か911番に電話して救急車呼んでよ、その時は彼の名前を言ってくれ、彼の名前を”。

911は一方同時多発テロも思い出させる。そして彼とは誰だろうか、救世主?ならば誰か。『Emancipation』、しかもワーナー在籍時にレコード会社重鎮らに提出した1枚組の『Emancipation』(収録曲は3枚組のそれとはかなり異なる)の続編がもし作られているとしたら、その収録曲でもありそう。音楽業界は、というか、世界は今もスレイブ状態の人々が沢山いるということなのだ。

尚The Story Of Welcome 2 Americaのポッドキャストでのこの曲でラップを披露しているシェルビーのインタビューがあるので掲載する。

アンドレア:そしてあなたは『Welcome 2 America』の製作にとても深く関わっている、実際あなたの声がこのアルバムを通してどの曲でも聴こえてきます。

シェルビー:そうね。とても光栄で感謝することだわ。私はいつも言っているように、プリンスは如何に寛大だったか、私のヴォーカルを前面に押し出してくれた曲もあって、「Running Game (Son Of A Slave Master)」がそうなんだけど、彼と共に座ってレコーディングしたのを、歌詞の全てを、プリンスが私に曲を通して歌わせてくれたのを、覚えているわ。私の声、その深いテナー、そしてざわっとしたメイヴィス(・ステイプル)的声、アルバムを通してそれを聴くことが出来るのよ。本当に名誉なこと、本当に。

そしてモーリス・ヘイズとマネージャー、キーマのインタビュー。

アンドレア:このアルバムについて考えましょう。最初聴いた当時、そして今再び11年後に聴いた今、当時プリンスが語っていたことが反映された歌詞だと言えるでしょうか?

モーリス:僕らは沢山話していたよ、それこそずっと。プリンスは何度も携帯電話、テクノロジー、権利所有、これらのことを語っていたね。特に権利所有に関してはプリンスは特にね、奴隷である日々、90年代のことだよ。彼は何をする時でも自分の頬にSlaveの文字を書いていた。それは自分の作品が自分のものではない、自分の周りのものも自分のものではない、何も所有していない、ということを人々に知らせるために行っていたんだ。そして以降も彼の考えは継続していて、いつも諭し、人々に力を与えていた。それがプリンスにとっては大きな関心事だった。彼がアリシア・キーズや新しいアーティストに会うといつも、自分のマテリアル、出版権、全ての権利を所有することをまず念頭において会話していたよ。それは彼にとって大きなこと、続けざまのしつこい攻撃のようなものだったね。するべきことを人々に悟らせる、プリンスのそれは「Running Game (Son Of A Slave Master)」と「Welcome 2 America」の中に感じられるね。

キラン:全てのレベルでありますね。インスタグラム、教育、銀行のシステム、今日生きている私達に起こっている矛盾、全てに現れてる。自分を向上させ、自分達のコミュニティーをより良くするべく、それらに陥らないように...

モーリス:それをHokey Doke(でっちあげの騙し屋)って言うんだよ。Hokey Dokeに陥れられないように。

キラン:そうね、その通り。

そしてやはりThe Story Of Welcome 2 Americaポッドキャストから、テクノロジーに詳しいソフトウェア会社グリッチのCEO アニル・ダッシュとシェルビー、プリンスのインタビュー。

アニル:プリンスは普通の音楽ファンが理解するビジネスとしてのインターネット、それから遥かに超えた所にいました。後年まで彼が言っている理由、言っていることを普通の音楽ファンには理解できなかった。殆どのアメリカの人々がストリーミング音楽を聴くようになる前に彼はストリーミングが何であるかを見ていた。経済的意味を知ることが出来たんです。プリンスが良く話していたことの一つ、彼が後にタイダルのようなサービスの幾つかを使った際に、彼らは僕の周りにいるアーティストの誰を推奨している?ということを考えていたと思うんです。プリンスは次のスライ・ストーンに、次のジェームス・ブラウンに、次のアレサになりたい、と考えていた。でもレーベルがプロモートしたいと言うアーティストに対してはノー、とプリンスは言うはずです。今や皆が知っています。皆ソーシャル・メディアのアルゴリズムが薦めてくるのは誤ったものかもと警戒している。それが嘘かもしれない、悪いアーティストだ、と。実際世界に害となっている何かかもしれないんです。そして彼はそうなのかどうか見て明らかにした。理解できるようになるものだと僕は思います。彼がキャリアの中でした全てのこと、彼の離れ技を人々は見ている。彼らはプリンスが奥深いレベルのビジネス力、経済力で理解していることを分かっていないんです。インタビューでプリンスは彼の信条として、プリンス自身のギターを弾くことについて話していました。音楽ビジネスがMBA級となるというのが彼らにはわかっていなかったんです。

プリンス:僕らは誰もカメラ、携帯を使わないようにと言っています。そしてその要求を誇りに思っています。

アンドレア:これは2009年秋にパリで部屋の中一杯のメディアの人たちの前で話したことです。

プリンス:テクノロジーに憑かれたアメリカ人ではないですが、僕らはその種の方法でコンサートを残したくないんです。なぜなら音が悪いからです。そして全ての映像をYouTubeのような所に上げるわけです。ユニヴァーサル・パブリッシングやそれに付随する弁護士が関わっているような。沢山の人がその事実を知らない。彼らはそのロゴを見ているだけなんです。でも僕らは裏にある全てを知っているんですよ。

プリンス:人気のある人もそうでない人も彼らはコントロール出来ているように見えます。ラジオは状態制御されています。そしてユーチューブの方がどのくらいのヒットがあるのか、どのくらい観ているのか、コントロール出来ている、と。でもそれは今やただのシステムなんです。それは僕の心を引きつけるものではない。だから僕らはコンサートに固執し、その方法で新しい音楽を創造するのです。

アニル:ビッグなプラットフォームを持っている人々、テクノロジーの側からこれを聞いたら、彼らは手を差し伸べているんだと。当時プリンスの音楽はどんなストリーミング・サービスでも聴くことは出来なかったですからね。プリンスはそんなの知らないという感じの一方、彼らは、“見てください、これがファンのこれからいる場所なのです、未来の形なんです”と。抜け目のないやり方です。彼らはそれらが正しいことだと皆が言っているんだと。でもそれは、“僕の作品をあなた方のプラットフォームに置いてもらいたいと言っているわけで。あなた方が価格を決め、僕の取り分を決め、ディストリビュートする方法も決め、あなた方が一方的に変更できる、そして僕がそれらに全てオッケーと言うと。それが良い取引だとは言えない”。プリンスは明らかに正しいです。

シェルビー:スレイブ・マスターの息子がまだゲームをしている、まだゲームしている。私が言っているんだけど、わかります?それもまあ違うけど似てますね。

アニル:はい、そのことに関する曲が存在する理由があるわけです。彼はよく知っている、その上で曲を書いた。だから今や明白なのです。10年前に思ったことですけど、彼の頭ならスラスラと書けてしまう。裏の裏を知り尽くしているかのように、その行く先までもわかっているんです。

シェルビー:彼はその力にとても警戒していました。あなたが言うように、アルゴリズムやそのようなすべてのものに。テクノロジーは最高、でもそれはあなたのことを考えて始められたものではない、と。

アニル:そうですね。買った携帯があなたの好きな音楽を決める、僕らはそれからかなり遠い所にいますよね。

シェルビー:そうですね、本当によかった。

アニル:皆が気にしないことを見るということですね。質問があるんだ、問い正さなくちゃ、ということです。それは恵みだと思うんです。プリンスが僕らに教えてくれたことだと。彼のファンやサポートをする人は、もう何年間の間、目から鱗が落ちるような経験をしている。これらのシステムを見極めることが出来るんです。プリンスが話していることを理解出来るんです。

シェルビー:“シェルビー、自主性を持つんだ、君自身のために考えるんだ”ってプリンスが言うのを私は聞いていました。“でも僕が言っているように思ってはダメだ。僕が言っていることを聞く、でも君自身が考えるんだ。君自身のものにするんだ。マシーンの歯車の一つだと君の頭が洗脳されるのを許してはダメだよ”。

Born 2 Die (5:03)

プリンスの友人、アメリカ・オクラホマ州出身の哲学者コーネル・ウェストが、プリンスはカーティス・メイフィールドじゃない、の言葉にプリンスが刺激され作られたナンバー。多分にネオ・ソウル的だが、実は先の「Running Game (Son Of A Slave Master) 」(そして後述する「When She Comes」)と同じ10年3月10日のレコーディングだ。歌詞こそレイシャル・イコーリティについてなので「Running Game」に通底してはいる。しかしスムーズで心地良い曲調の「Running Game」はオールド・スクールの匂いこそあるもののニューソウル的とは言えないだろうし、ヒップホップさを加味したネオ・ソウル・マナーというわけでもない。雰囲気の違う曲を一日で作る、これはプリンスではよくあること。彼の脳内はしっかり棲み分けが成されているのだ。尚「Welcome 2 America」はそのレコーディングの3日後3月15日に作られている。アルバム収録の順番がそのままレコーディングの順番ではもちろんないが、アルバムのタイトル・ナンバー「Welcome 2 America」が生まれて、そこから曲が派生していったわけではない、ということは記しておきたい。『Welcome 2 America』というアルバムのために曲を作るというよりは寧ろ脳内にある音楽の塊をそれぞれ曲に具現化し、後からそれらを選択しつつアルバムとしてまとめる、これはプリンスのいつものやり方である。

The Story Of Welcome 2 Americaのポッドキャストでコーネル・ウエストとモーリス・ヘイズのインタビューがあるので、そこより「Born 2 Die」に関する部分を掲載する。

モーリス:ウエスト博士。質問があるのです。あなたとプリンスはどのように出会ったのですか?

コーネル:実際はタヴィス(・スマイリー)を通して私達は会ったんだ。プリンスとブラザー・タヴィスは親しかったから。

モーリス:なるほど。

コーネル:そしてその時私達の親交期間、ある種の独立性というか前へという気持ちが表れてきて。私はとても深く彼のブラザー愛と友情に恵まれているといつも感じられたのです。私の3枚目のアルバムの頃、プリンスのしてくれたことを忘れることは決してないでしょう、プリンスに、私のラップに彼の音楽を使うことが出来るか、尋ねたことがあって、私はヒップ・ホップ・アーティストではないので、私の話す言葉はかなりポリティカルなものでした。そうしたらプリンスは、“ヒップホップ系に僕の音楽を使わせたくないんだ、ブラザーウエスト。でもあなたのならするよ。あなたが正しいスピリット、その全てを持っているのはわかっているからね”と言ってくれたんだ。私はこう言ったよ、ブラザー、僕の人生で最もグレートな名誉の一つです、あなたの曲を使えるなんて、正直ハーヴァードは意味無しだ、プリンスの協会に入れるのと比較したら”(注:『Never Forget:A Journey Of Revelations』の「Dear Mr. Man」がそれ)。わかりますよね。本当のことだよ、カーティス・メイフィールドについて意見をしたのもまた。

モーリス:プリンスが電話して僕に聴かせつつ話してくれたんです。知っていると思いますが、彼は凄いリスペクトと深い愛をあなたに抱いていましたよ、ウエスト博士。実際いつもあなたのことを話していたから。プリンスは面白い人だって知っていると思いますが、とても良いムードの際に彼はとても生き生きとした彼の声を使うことがあって、例えば“さて、モーリス。ここに曲がある。ちょっとカッコよくしてやろう”。そうして僕らが色々話しをするんですが、それがとても面白いものになって。「Born 2 Die」もプリンスが“どうしてこの曲が出来たか教えよう、僕がユーチューブを観てたんだ”。プリンスはユーチューブを観過ぎて、のめり込んでしまい時間が経ってしまうということがあって。それでプリンスは“僕はウエスト博士が好きだから、よく彼のを観るんだけど、ある時カーティス・メイフィールドについて話していたんだ。プリンスは僕の良いブラザーだ、でも彼はカーティス・メイフィールドではない、って。だから僕は、本当にそう思ってるの?このことで博士に連絡しなくちゃ。彼に連絡しなくちゃ”ってプリンスが言ってて。

コーネル:おーおーおー。

モーリス:彼が僕にその曲を聴かせてくれた時、僕は“ワォ!プリンス、わかったよ、僕にはあなたがどこに行くのか、本当にどこに行くのか、わかったんだ!”って思いました。

コーネル:わかったんだね。なら「Superfly」との繋がりを見つけたんじゃない?コカインの歌もきっと関係ありますよね?(注:「No Thing On Me (Cocaine Song)」)“僕は僕自身が手に入り嬉しいよ、僕の人生はナチュラルハイさ”。

モーリス:そうですね。でも嬉しいです。あなたにこのことを話せたのも嬉しいし、レコードの中で好きな曲の一つなので。

コーネル・ウェスト:冷ややかなジャムですよね。リッチなカーティス・メイフィールドのヴァイブがあって。墓場からカーティスの笑顔が浮かんできます。希少価値があるね、キングって呼びたくなる。でも彼は自分のことをプリンスって呼ぶけど。ブラザー、何で君は自分をそんなに過小評価するんだい?君だってキングだろ?レスター・ヤングをプレス(大統領の意。ビリー・ホリデイがテナーのプレジデントという意味でレスターをそう呼んだ)、デュークはデューク(君主)、ラティファはクイーン、アレサもクイーン、ビヨンセもクイーン。皆僕らの皇族達。貴族階級ですよ。でも違う、プリンスだけは私にとってはクールの意味。プリンス・ネルソンから名付けられたということ。わかっています。愛しています、ブラザー。絶対絶対絶対忘れない、あなたが天才で愛であり、あなたであるということを。

モーリス:ありがとうございます。ブラザー。

1曲目、2曲目同様モーリス・ヘイズがコ・プロデュース、2010年春にキーボードを加えている。また21年6月3日にアルバムに先行して聴くことが出来たが、その際のジャケットに使われた写真は、プリンスのホーム・ヴィデオ『3 Chains O Gold』の監督の一人ランディ・セント・ニコラスによるもの。

その2に続く。

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