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《前編》A・ビルバオ 地域育成プロジェクトコーチ

  スペインリーガエスパニョーラ1部アスレチック・ビルバオの地域育成プロジェクトコーチのウナイ・ロドリゲス氏へのインタビュー《前編》です。

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 アスレチック・ビルバオ(以下Aビルバオと省略)は1898年創設のサッカークラブで、1928年のスペインリーガエスパニョーラ創設時の10チームの中の1つである。レアル・マドリード、FCバルセロナとともに1部リーグから1度も降格をしたことがなく、なおかつ同クラブはバスク人(約350万人)と呼ばれる、スペインバスク州に起源のある選手のみで構成される純血主義を貫いている。そのため「地域育成プロジェクト」と呼ばれる同州における選手と指導者の育成・発掘に力を入れている。

まずはこれまでの経歴を教えてください。

 私が指導者になりたいと考え始めたのは、当時15歳でした。足首の度重なる怪我と選手としてベンチを温めることが多くなっていたことが、指導者を目指すきっかけとなりました。16歳の時に指導者としてグラウンドに立ち始め、8歳から15歳までのカテゴリーの監督を約15年間経験しました。その後、Aビルバオから地域育成プロジェクトのコーチとしてオファーをもらい、7シーズン目を迎えています。
 
 当時は私自身が厳しい指導者の世界で生きるという不安からサッカー分野における専門知識の獲得だけでなく、リーダー論やコーチング論、モチベーションのコントロールなど、異なる分野での専門知識を得たいと思うようになりました。
そして、現在はリーダー論の側面からAビルバオの地域育成プロジェクトのコーチとして選手と指導者の育成・発掘の携わりながら、指導者養成学校の先生として最高位ライセンス(レベル3、UEFA-PRO相当)の授業を受け持っています。

Aビルバオが行う地域育成プロジェクトのついて詳しく教えてください。

 同クラブはバスク人のみで構成されるクラブという哲学を持っています。
地域はAビルバオを必要としていて、Aビルバオも地域を必要としていると理解しているので、20名程のコーチが県内を5ブロックに分けて各チームに常駐しています。講習会開催やピッチでの活動、クラブ発展の手助けをすることによりバスク州全体のサッカーレベルを高め、優れたバスク人を輩出することに繋がると考えています。多くの優秀なバスク人を育成するために、レサマ(下部組織)のみに留まることなく、ビスカヤ県全体の選手・指導者の育成をするためのプロジェクトです。

 プロジェクトの目的として、①育成レベルの向上 教育された選手の育成タレント発掘の3つのことを柱として考えています。育成レベルの向上は、人間としての成長とサッカー選手としての成長をサポートできるために指導者がより良いトレーニングを提供し、適したコーチングができることにより選手が学ぶための環境を作るということです。教育された選手の育成は、一人のサッカー選手として必要な知識と技術を身につけ、高いレベルに到達できる選手を育成するということ。最後のタレント発掘は、Aビルバオの下部組織により早い段階でやってくる選手を見つけるということです。


指導者育成でグラウンドに立つ時に注意している点はどんなところですか。

 一番大切にしていることは指導者が抱える様々な不安要素に寄り添うことです。彼らがモチベーションを維持し、成長できる環境を作るということです。私たちの目的は選手が成長することであり、チームが強くなるということではありません。トレーニングを考える際に、チーム強化や試合に勝つことだけを考えた練習メニューは、選手個人を成長させるものではないかもしれません。もし指導者がチームを強くするだけを考えるのであれば、私たちの持つビジョンとは異なる方向に向かっていると言えます。これらの考え方の違いは非常に大きな問題です。

 例えば、レベル3(UEFA-RPO)を保持している指導者がいるとしましょう。本人は素晴らしいトレーニングを構築していると思っています。でもそれは小学生年代に適した練習ではなく、ユースの選手や社会人にフォーカスが当たったトレーニングです。大人に対してするような言葉を使い、説明しようとするのです。練習メニューというのは、選手が良くなるための指導者とのコミュニケーション手段でもあるのです。

 最も良い状態は、私たちがトレーニングやミーティングに介入することがない状態であるということです。まずは指導者自身のモチベーションや選手との接し方、私たちがサポートをしなければいけないことをしっかりと分析し把握する必要があるのです。

 学びを持とうとする指導者に必要となってくるのは、時間をかけて経験を積むということになってくるでしょう。そのような指導者の場合には、私自身が選手に対してコーチングをする必要はありません。その代わりに指導者に「どんな目的を持ってトレーニングをしたのか。」と問いかけるのです。なぜならば、そこからサッカーについて深い議論を重ねるきっかけとなっていくからです。


《後編》へ続く


インタビュアー 杉山智春
2016年春バスク地方ビルバオに渡西。サッカー指導者。U-16監督や育成年代でのコーチを務めながら、日々現場を通してサッカーを学んでいる。スペインレベル1・2(UEFA-B・A)指導者ライセンス取得。 AC等々力→Askartza/Astrabuduako

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