見出し画像

《後編》A・ビルバオ 地域育成プロジェクトコーチ

スペインリーガエスパニョーラ1部アスレチック・ビルバオの地域育成プロジェクトコーチのウナイ・ロドリゲス氏へのインタビュー《後編》です。

 アスレチック・ビルバオ(以下Aビルバオと省略)は1898年創設のサッカークラブで、1928年のスペインリーガエスパニョーラ創設時の10チームの中の1つである。レアル・マドリード、FCバルセロナとともに1部リーグから1度も降格をしたことがなく、なおかつ同クラブはバスク人(約350万人)と呼ばれる、スペインバスク州に起源のある選手のみで構成される純血主義を貫いている。そのため「地域育成プロジェクト」と呼ばれる同州における選手と指導者の育成・発掘に力を入れている。


 フィードバックとは

 フィードバックは学びを得るために最も重要なことの1つと言えるでしょう。それは指導者同士はもちろん、選手とのちょっとした会話の中にも大きな学びが隠れています。大切なのはいつ、どのタイミングで行うのかということです。もしフィードバックを行うのが1週間後では、その瞬間に起こっていたことを修正することはできません。すでに過去のものなのです。
 
ホットな状態でフィードバックを送ることによって、指導者は良くなるための方法を考えることができます。フィードバックと学びは常に繋がった状態です。だからこそ私たちは指導者がどんなミスをしているのかを知る必要があるのです。それはペナルティを課すためではなく、解決策を探し学びを得るために必要なことだからです。どんなことが起こっていて、良くするためにするべきことについて議論をしていきます。その中でしなければいけない質問は「良かったことは何か」「次に改善するべきことは何か」の2つです。

 前者は良かったことに対して質問です。後者の質問は次に改善するべきことについて触れながらも良くなかったことは何だったのか、という意味も含まれています。起こったことに対するミスやエラーに焦点を当てずに、解決策を探すというのがこの質問の真意です。そのようなフィードバックを通して選手や指導者が良くなっていくのです。

 例えば指導者に対して、「このトレーニングで良かったところは何か」という質問をしたとします。

「選手たちの立つ位置が良かった」や「練習内容の説明がスムーズにできた」などの返事が返ってくるでしょう。

そして、「じゃあ次のときは何を良くできるのか」と質問を投げかけます。


「ピッチのサイズが小さかった」

「選手のタッチ数が多すぎた」

「チームのレベルがアンバランスだった」


というような言葉が返ってくるでしょう。それらの返答は良くなるための方法を探しているのです。

もしも始めから「悪かったことは何か」と聞くことによって、ネガティブなことを言われると思い心を閉ざしてしまうのです。

 「ピッチのサイズが少し小さくなかったかい」と質問をすることもできます。

しかし、その質問は自らがエラーを探すことなくミスの所在を明らかにしてしまっているのです。

それらのことをフィードバックをする際に気をつけなればいけません。
その中で指導者自身からフィードバックを求めてくることは、学びを得たいという形の表れなのです。そのような関係性を作ることで、多くのことを伝えていけるのです。


 学びを得るために適した状態を探す

 選手や指導者がどのような状況なのかを知るための指標として、選手のプレー理解度(戦術レベル・技術レベル)とモチベーションを大きな柱として評価しています。

画像1

学びを得るために指導者と選手はどのレベルにいるのかを知り、その人にあった方法でアプローチをしていく必要があるでしょう。

例えば、プレー理解とモチベーションともに高いレベルにいる指導者は、近くに寄り添い、フィードバックをするだけで私たちが練習に介入していく必要はありません。

次にモチベーションは高いがプレー理解が欠けているという指導者は多く存在します。この場合は、トレーニングの構築方法やフィードバックをしていくことによって時間をかけて学びを得ていくことができます。

問題なのは、プレー理解はあるがモチベーションに欠ける指導者とどちらも欠けている状態の指導者です。練習に遅れてきたり、選手を罵声し、練習を考えずにグラウンドに来るのです。サッカーに対する欲がなく、何かによってサッカーによって繋がれた状態です。

そのような場合に私たちが提案できる解決策としては、講習会やミーティングを行うことやコーディネーター(育成年代統括者)との話し合いの場を持つことなのです。また、外的モチベーションを与えることも1つの手段と言えるでしょう。

外的モチベーションとは、給与や監督をしているという満足感、クラブのエンブレムを纏えるといったような外的に与えられたモチベーションのことを指します。

 最も大切なのは、学びを得るために練習を準備し、選手との対話を楽しみ、練習時以外でもサッカーの話をするほどの情熱を持ち、サッカーが好きであるという内的モチベーションを持った状態の指導者を育成していくということです。最終的に被害を受けるのは選手たちなのです。


 優秀な選手を育成するということ

 私が思う優秀な選手とは、サッカーの戦術面や技術面におけるプレー理解と勇敢さを兼ね備えた自立した選手であるということです。

自立した選手を育成する上で、最も重要となってくるのは指導者である私たちの存在です。小さい頃からサッカーに必要な戦術・技術などを習得させてあげることは非常に大切なことです。なぜならば、多くの子どもたちはサッカーを好きでやっているのでモチベーションは高い状態にあるのです。できることが増えることによってサッカーを楽しめるようになっていきます。

指導者がやってはいけないことは、自立しない状態を作り出すことなのです。例えば、「早くパスを出せ!」「ドリブルするな!」と選手を怒鳴りつけたり、練習メニューに2タッチまでと制限をつけたりします。

もし、ある選手がPKを2回失敗したとします。3回目のチャンスが訪れた時は失敗を恐れて蹴りたがらないかもしれません。なぜならば、その子はもしかすると小さい頃に監督が「君はもう2回失敗しているから蹴るな」と頭の中に制限をかけられたことがあるのかもしれません。そのようなことを言われた選手たちの思考は間違った方向へと自立していくことになるのです。

大切なのは選手が持つ疑問や発見、挑戦、失敗することに対して、指導者が選手への信頼、努力、愛情と勇気を与えていく存在でなければいけないのです。それこそがプレー理解を獲得するための土台を作っていくことができるのです。

その中で間違えてはいけないのは、勝利と育成を離して考えるということです。勝利なくして育成はなく、育成なくして勝利もないのです。勝利というものは相手を上回るために戦い、失敗と成長を積み重ねていくのです。大人は育成が必要ないというわけではなく、子どもだから勝利が必要ないわけでもありません。それは人生にも共通して言えることです。

あなたが大学生ならば、就職という競争が近い存在です。小学生ならば、そこまではまだ遠い存在なのです。しかしその競争に向けて距離は異なるが様々なことを学んでいかなければなりません。仕事が見つかり就職をしたからといって学ぶ必要がないわけではありませんよね。年代によって、勝利と育成の割合が変わる中で、その年代に応じて適した競争を与えることが大切です。勝敗は成長していくために必要不可欠なものなのです。

画像2

インタビュアー 杉山智春
2015年春バスク地方ビルバオに渡西。サッカー指導者。U-16監督や育成年代でのコーチを務めながら、日々現場を通してサッカーを学んでいる。スペインレベル1・2(UEFA-B・A)指導者ライセンス取得。 AC等々力→Askartza/Astrabuduako

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?