ケガしてる看板のきもちになってみた
「この子ケガしてるな」とおもう看板をみかけることがある。
風がつよかったり車にぶつかられてしまって、ぐにゃりとゆがんでいる。なんだか痛そうだ。
こういう看板や標識を見るたびに、ちょっとだけ胸の奥の大切なところがチクっといたむ。ぼくはこの看板を立ててもいないし特別な思い入れもないのだけれど。
だって。
痛そうなんだもん……
なんだか見ているうちに情があふれてきちゃう。ひとりでいるのはかわいそうだから、しばらく寄り添ってみることにした。この子のことをもっと知れば、ただ痛ましいと思うんじゃなくて、もう一歩、踏み込んで君のことを知ってあげられるから。そうとも、僕はあまり仲良くない友だちを保健室に連れていくようなタイプだ。
一緒に座ってみる。こうして並ぶと、きみ背がたかいね。
ちょうどこの写真を撮っているとき、通りがかりの車から顔を出したおじちゃんに「何しよっとー?!」と尋ねられた。「ケガをした看板が居たので寄り添ってま~す」と応えると、「そんたぁ昔っからやろー!」と教えてくれて、ニコニコしたまま軽トラを唸らせていった。どうやら、昔からケガをしている子らしい。
こうしてみんながスルーしていくものにマジマジと接していると、考古学者になって文化財を発掘しているみたいで自分が誇らしくなる。
目線をかえて、看板くんが見てる景色はこんなかんじ。
ふつう看板は人間のほうから一方的に見るばかりだが、こうしてみると新鮮だ。この子はこうして、ここを通るひとびとを見つめていたのだろうと思うと、なんだか愛おしくなる。ぼくが通るときも、見てくれてたかも。
そういやさっき教えてもらったけど、この子、どのくらい前からケガしてるんだろう?googleマップで見てみよう。
どれどれ……この辺だな。
あ!
今ほど大ケガじゃない!
2014年2月には、今みたいにそんな痛そうなケガじゃなかったんだ。右足がちょっと曲がってるくらい。さしずめ捻挫かなぁ。
ということは、2014年以降2022年までの間に、おっきい事故に遭っちゃったのかな。かわいそう。
とかなんとか思いながらちょっとストリートビューをずらしてみたら、
なんかすげぇ晴れた
左上の撮影日を見ると、2019年になってる。ほんのワンクリック移動した先だけど、こっちの辺りは新しく撮影してくれてたんだね。
と、いうことは2019年の看板くんはと言うと・・・?
ちょっと前のめりだ!
かわいい。なんか、すごく生きている感じがしてきた。動いてるじゃん!
もうちょっとマップの中をウロウロ動き回ってみたけど、別の日時に移ることはなかった。
そんなわけで、看板くんの動きはこんな感じ。左から2014年、2019年、2022年。
かわいい。ちょっと踊っているようにすら見えてくるね。
特に、最後のダイナミックに胸を広げる動きが、『アン、ドゥ、トロワ!』って感じの躍動感を引き立ててる。
かわいい。
こうして看板くんのことを知れば知るほど、「痛々しいな」と思っていたのが、うそみたいな気がしてくる。
もしつぎに通りがかったときに、ケガを治してもらってぴかぴかになってたら、おもわず声をかけてしまいそうだ。「よかったね!調子はどう?」って。
ささ、仲良くなれてよかったな。それじゃ、また会いに来るね。バイバイ!
おしまい。
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