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今は亡き愛しき人へ

今は亡き愛しき人へ

また1つ歳をとった。
記憶が薄れるうちに、遺していこうと思う。

十数年前に紹介で彼と出会った。
少し年上…プロの漫画家で、ちょっとだけ長髪、低身長で細身の人だった。
登戸の居酒屋で4人で呑んだっけ(新潟の方で大地震に見舞われた日だった)。
その日は何となくお話して…元々話上手ではないわたしはそんなに自分を出せなかった。
でも、お互い音楽や芸術も好きだし、連絡先を交換して、やり取りの中で仲良くなって、気になる映画があるので一緒に観に行くことになった。
吉祥寺バウスシアター、ジョー・ストラマー。
なぜかクリスマスイブだったので、引かれるとは思ったけどクリスマスプレゼントを持っていったら喜んでくれて、「自分は何も持ってきてないから…」と、言って自身のしてたシルバーのバングルをプレゼントとしてくれた。
カラオケでショートケーキを一緒に食べた。
今でもめちゃくちゃ鮮明に覚えている。

それから彼(と、言っても付き合ってはいない)の仕事の締め切り日後に会うような関係だった。
しかしながら、彼は繊細な芸術肌で、元カノの依存性持ちでもあり、重度の躁鬱持ちだった。
鬱状態の時は拒絶モードで、会いたくても会えなかった。
そんな彼になぜ惹かれたのか…自分でもわからない。
告りはしたけど、明確な返事は貰ってなかった(でも、嬉しいとは言ってくれた)。
ソウルメイト的な感覚。

ファッション改造計画的なショッピングや、散々説得して行ってくれたディズニーシー、締め切り追い込み時の食事作り。
恋愛経験が少ないわたしは、何もかもが新鮮で愛おしい時間だった。

そんな彼から連絡が少なくなった時期…。ずっと言い出せなかったけど、鬱状態が酷く、実家に戻って休養すると知らされた。
とても寂しいけれど…本人の事を思うとそれは致し方ない事だと思った。
東京駅へ彼を見送りしたその日、何となく変な違和感がして、この先の事を悟っていた。

その後は安静にしてもらいたい一心で、あまりこちらからは連絡を取らないでいた。
何ヶ月かして連絡が…。

「そこら辺の女の子と寝たりしてた。こんな俺を叱ってください。」、と。

わたしの気持ちを知らずにいるのか?
それとも気持ちを知っていてわざと言っているのか?
わたしは何を言ったら良いのかわからなかった。
返信は返さず、連絡もあまりしなくなった。

「こっちに遊びに来なよ!○○行こう。」

誘われても、うやむやに済ましてた。

数年後、自分の中で消化出来た時に、ふと彼のことがよぎって、思い切って連絡した。
何度かメールしたけど、連絡がなかった。
後日メールが入ったが、内容を読んで、わたしは落胆し、しばらく放心状態だった。
それは彼の妹さんからの返信で、彼は数ヶ月前に心不全で亡くなったとの事だった。

信じたくないのと同時に、もう会えない悲しみと、あの時わたしが誘いにのってたら良かったとか…もっと力になってたらとか…ごちゃ混ぜな感情と絶望に似た…罪悪感に晒されて、とても辛い日々を過ごしていた。
仕事や友達・知人からの励ましの中、少しずつ忘れる努力をしていきつつ、彼の故郷浜松で、彼の遺作の個展をやる事を御家族からお知らせいただいて、様々な情景を思い出しはするけど、行って良い感じで消化できた(個展は地方紙に載っていた)。

今現在のこんな生きにくい世の中を、天国の彼は知らない。
今、彼がいたらこの世の中をどう思うのだろう。
今なら言える。
本当に…出会ってくれてありがとう。

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