第1話 あたたかい、香り
大奥を凌ぐほどいる清掃員たちの更衣室は甚しく広大な空間で、十四の列を成すロッカーのそれぞれは、トランプカード一式を床に滑らせたように均一に設けられていた。
八時十五分に正緒(まさお)は地下一階へ向かった。エレベーターから降りると、扉らしい扉のなく直結するその場に、一名の清掃員が待ち構えている。点呼と番号を引き換えおえると、散乱と整頓との間の真新しい境界をまたぐようにして入っていった。まっ先に横田さんを探した。この日、M-10をあてがわれた正緒はそのまま最も端へ、しかし彼女