ハンドスピナー


あなたは、ハンドスピナーを知っていますか?ハンドスピナーとは、2017年度の流行語大賞にまでノミネートされた、「くるくる回るアナログ玩具」です。

実際には遊んだことがない人でも、電車で、街中で、カフェで、若者がこのおもちゃをくるくる回しているのを見かけたことがあるはずです。

私の会社「株式会社ケースオクロック」では、このハンドスピナーが流行する前から、「【公式】日本ハンドスピナークラブ」という団体を立ち上げ、ハンドスピナーの普及活動と販売を行ってきました。結果、累計20万個のハンドスピナーを販売することができました。

今回は、ハンドスピナーがどのようにして世間に認知され、広まっていったのか、そして株式会社ケースオクロックが、なぜハンドスピナーを20万個も販売することができたのか。その裏事情をお話したいと思います。

これは、皆さんにとって関係のない話ではありません。商品をヒットさせるには、どのような工夫と努力が必要かを示す、ひとつのヒントになると思います。


ヒットの前に「導線」を作っておく

ハンドスピナーが日本で流行が始まったのは、2017年5月8日です。断定できるのには理由があります。この日、ネットメディア「ねとらぼ」のハンドスピナーを取り扱った記事が、Yahoo!のトップページで掲載されたのです。この「ヤフー砲」がきっかけとなって、一気にハンドスピナーという言葉が世間に知れ渡ることになります。

その瞬間から検索エンジンでの「ハンドスピナー」の検索数が急増し、私が運営していた「【公式】日本ハンドスピナークラブ」に、各メディアからの問い合わせが殺到しました。その後、「ハンドスピナーとはなにか」がテレビや雑誌、ウェブメディアで紹介され、瞬く間に世間に認知されるようになりました。

なぜ私の元に取材が殺到することになったのか? それは、日本でハンドスピナーについて詳しく解説する専門サイトが、「【公式】日本ハンドスピナークラブ」のホームページだけだったからです。

実は、これは偶然ではありません。狙い通りでした。

私はとあるきっかけで、以前からハンドスピナーのことを知っていました。このきっかけについては後述しますが、一目見たときに、「このおもちゃは流行るな」という確信を持ちました。ところが、検索エンジンを叩いても、この玩具についてまともに解説しているページは皆無。ここに、ビジネスチャンスを感じ取ったのです。

この玩具は間もなく流行る」「流行る前にこの玩具について詳しく解説するサイトを作っておけば、必ずその運営元に取材依頼が来る」――そう考えて、ハンドスピナーに関する詳しい情報を掲載したHPを作成しました。

どこよりも詳しいHPを作ることで、日本におけるハンドスピナーの第一人者は「【公式】日本ハンドスピナークラブ」だ、と認知され、結果、多数のメディアに取材を受けることになったのです。

もちろん、取材用の窓口をサイトのなかに作り、メディアの人が取材を申し込みやすくしていたことは言うまでもありません。

数えてみると、わずか3カ月で80以上のメディアで、ハンドスピナーと「【公式】日本ハンドスピナークラブ」が紹介されました。

もちろん「【公式】日本ハンドスピナークラブ」では、ハンドスピナーそのものの販売も行っておりました。ハンドスピナーがメディアで取り上げられれば取り上げられるほど、ホームページを通じての同商品の販売も増加。結果、累計で20万個以上のハンドスピナーを販売し、3億円以上の流通を作ることができたというわけです。

「流行ると思ったものは、メディアで取り上げられる前に『導線』を作っておく」……この流れを作ることができれば、「ヒット商品で儲ける」ことができるのです。

(断っておきますが、デタラメなサイトや組織を作ったわけではありません。実際、私はハンドスピナーについてはすみからすみまで調べ尽くしていて、誰よりも詳しい自信がありましたし、サイトに載せている情報もすべて正しいものです。

また、「ハンドスピナー」というワードで商標申請を行ったり、ハンドスピナーのイベントを複合施設で行ったり、日本玩具協会と「ハンドスピナーに関するおもちゃの安全基準を協議したり、「ハンドスピナーの使用に関する注意喚起」などのプレスリリースを行うなど社会的な活動も行っていました。)

ヒット商品、二つの「シンプルな原則」


さて、最も重要なのは、「なぜハンドスピナーが流行ると思ったか」です。ここからは、その点について話しましょう。

企業にとって「自社の商品をいかにヒットさせるか」というのは、永遠の命題です。しかし、ほとんどの企業はヒット商品を作り出すことに四苦八苦しています。それは、なぜでしょうか?

理由は簡単で、「企業が売りたいものと、市場が求めている事にズレがあることに気づいていない」からです。これ以上でも以下でもありません。「欲しい!」と思ってくれる人が少ない商品は、売れない。当たり前のことが、意外と理解されていません。

ヒット商品を生み出すために必要な要素は、間違いなく「市場のニーズを理解すること」です。販売者のエゴで売りたい商品を売っている限り、ヒット商品を世の中に送り出すことはできません。商品の質がいくらよくても、どんなにいいプロモーションを行ったとしても、必要とされないものであれば、流行が生まれるということはありません。


「株式会社ケースオクロック」では、ハンドスピナーだけでなく、「壁にくっつくスマホケース」WAYLLYという商品も販売しており、こちらも売上高3億円を超えるヒット商品になっています。まだ世に出ていない商品を買い付け、あるいは開発して販売するのが私たちの主な業務ですが、私が商品選定を行う場合に必ず守っている、2つのシンプルな原則があります。

1つ目は、「それが、世の中に必要とされているモノであるかどうか。」2つ目は、「その商品を広める適切な手段があるかどうか」――商品選定を行う際、この2つの原則が当てはまるものなら、それはヒットするもの、になるのです。

では、ハンドスピナーはこの二つをどう満たしていたのでしょうか。


ハンドスピナー、ヒットの理由


冒頭で述べた通り、ハンドスピナーは2017年5月から日本で大流行となりましたが、私がハンドスピナーに注目したのはそれより少し早い、2017年の3月頃でした。

その時期、私はスマホケースの買い付けのために中国の深センを訪れていました。

その際、とあるマーケットの店員が、接客の合間に手元でくるくると回していたのが、ハンドスピナーだったのです。

これを見た瞬間、「この玩具は確実に流行る」と直感しました。私の思う「ヒットの2原則」をいずれも満たしていたからです。

まず1つ目「世の中で必要にされているモノ」であったこと。ハンドスピナーは、まさに世の中に必要とされている商品だったのです。

いまや、日本人のほとんどがスマホを利用しています。スマートフォンの利点をあげればきりがありませんが、便利さの一方で、ゲームや音楽、あるいはSNSのやりすぎから、スマホが手放せないという依存症も生み出しています。そんな「スマホ依存症」を解消するのに、ハンドスピナーはぴったりだったのです。

ハンドスピナーを回していれば手持ち無沙汰感が解消されるため、用もないのにスマホを触る、という行動を抑制できます(疑う人は、ぜひ一度ハンドスピナーを手に取ってください。スマホに手を伸ばす回数が劇的に減るはずです)。

まさに、ハンドスピナーはスマホ依存時代に求められるもの=「世の中に必要とされているモノ」であったのです。

次に、2つ目の「商品を広めるための適切な手段がある」についてです。

ハンドスピナーは、Twitter、InstagramなどのSNSとの相性が抜群によい玩具です。ハンドスピナーを回転させている様子をスマホのカメラで撮影すると、ストロボ効果が起こって、ハンドスピナーが逆回転しているように見えるのです。まさに「SNS映え」という言葉が当てはまる玩具です。より適切な言い方をすれば「動画映え」です。

ハンドスピナーを回して、この逆回転を撮影をした瞬間、分かりました。「これは、YouTubeで流行ったり、SNSで拡散される可能性が高いな」と。

この感覚が正しいものであったことは、すぐに実証されました。私が「ハンドスピナーは流行るな」と思っていた直後のことです。日本を代表するYouTuberの一人、セイキン氏が2017年3月28日に「手で回すと超高速回転するハンドスピナーがスゴすぎる!どれが一番長く回り続けるか検証します。」という動画を公開したのです。

セイキン氏が紹介したことで、新しいものが好きな人たちの間で、「ハンドスピナーが欲しい・気になる」という欲求が加速化していったのです。

実際その後、BOUNCYというメディアサイトでもハンドスピナーの動画が投稿されましたし、YouTube上にもハンドスピナーを回す動画が上がってくるようになりました。コメント欄には、「何これ?」「めっちゃ欲しい!」という書き込みが殺到。まさに、動画を見たネットユーザーが、勝手連的にSNSでハンドスピナーの拡散を始めたのです。

その後の展開は、前述のとおりです。5月8日に、「ねとらぼ」の記事がYahooのトップページに掲載されたことをきっかけに、噴火寸前の火山が一気に噴火するかの如く、ハンドスピナーの大流行が始まったのです。

そして、流行すればするほど、前述の「公式ページ」を訪れる人が増え、ハンドスピナーの売り上げも上がり、最終的に短期間で20万個を超える販売を記録するまでになったのです。

特別な何か、があったわけではありません。「何が流行るか」「どうやって流行るか」を頭の中で考え抜き、「流行」が訪れたときのために、情報と販売のルートを確保しておく……。

これが、私の辿り着いたひとつの「ヒットの法則」であり、「モノを売るための原則」なのです。


(参照: https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56438 )

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