山田トモ

『前略Kさま』 あなたへ手紙を書きました。 書いても出せないままでいます。 ※フィク…

山田トモ

『前略Kさま』 あなたへ手紙を書きました。 書いても出せないままでいます。 ※フィクションです。 手紙のような物語を書いていこうと思っています。

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前略 Kさま

あなたとお会いすることが無くなってから2ヶ月が過ぎようとしております。 あなたはお元気ですか? きっと相変わらずに、朝早くから現場に向かったり、遅くまで工事に立ち会ったり、今こうしている時間にもパソコンに向かって熱心にキーボードを叩いているのでしょうね。 あなたがパソコンに向かっている背中を見ていることが好きでした。その時々で変わるキーボードを叩いている姿に、あなたの仕事への思いを感じたりもしていました。 軽快なリズムでキーボードを打っ

    • 前略Kさま(9)

      色づく山の景色を楽しむ秋ですよ。 仕事ばかりのあなたが街の木々や山々の景色の変化を感じて、私に話してくれた日のことを思い出していました。 季節が変わったことすら気がつかずに衣替えもしないでいたあなたが、秋には必ずその日に見た紅葉の様子を私に話してくれました。 半袖のまま、銀杏並木の様子を語るあなたを私はなんだか不思議に思えたけど、安心もしていました。 秋は、あなたの好きな季節なのでしょうね。 私には少し淋しく感じる季節です。

      • 前略Kさま(8)

        東京五輪が開幕します。 駅や周辺にボランティアの方がいるのを見て、やっと実感ができます。 TOKYO開催が決まったとき、「一緒にみる人がいて良かった」と言ったあなた。 もし一年延期にならなかったら、私はあなたの隣で数々の熱戦や勝利の女神が微笑む瞬間を一緒にみていたのでしょうか…? 今夜は「もしも」のことは考えないことにします。 あなたが楽しみにしていた五輪開幕の瞬間をみつめます。 どこかであなたもその瞬間をみているのでしょうから。

        • 前略Kさま (7)

          七夕ですね。 もし短冊に願い事を書くとしたら、あなたはどんな願い事を書くのでしょう? あなたのことだからきっと、自分自身の願いは書かないのでしょうね。 だって、あなたはそういう人だから。 いつだって誰かのためのことを考えて行動している。 いつか疲れてしまうんじゃないかと心配になります。 今夜くらいは、あなたのための願い事をしてください。

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        前略 Kさま

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        • 『前略Kさま』
          1本

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          前略 Kさま(6)

          久しぶりにあなたの夢をみました。 夢の中のあなたは元気に仕事をしていました。 動いているあなたを夢でみるとは思ってもいませんでした。 誰かのために力になりたい、と仕事への思いを語ってくれた日のあなたの目の輝きを私は忘れることができません。 叶うなら、あなたの働く姿をもう一度みたい。 あなたは今、どうしていますか? 私が仕事を辞めようとしたとき、「天職なのだから」と言ってくれたあなた。 あなたの言葉があるから、私は働き続けています。 次にあなたに会ったときに、胸を

          前略 Kさま(6)

          前略Kさま(5)

          もう春なんですね。 目覚めた朝の光が、優しくなっていることに気がつきました。 忙しさにかまけて、あなたはまだ冬のコートを着ているのでしょうね。ニットを着込んだりもして。 「寒くないの?」なんて、春物の薄いコートを羽織った私に聞いたりしてたっけ… 通りで卒業式に向かう袴姿の学生を見て、冬のコートを着ていることを恥ずかしがっていたあなたを思い出します。 季節の変わり目に気がつくのが遅いあなた。 今年の春の知らせにはいつ気がつくんでしょうね。 今、あなたの側には、春の訪れ

          前略Kさま(5)

          前略 Kさま(4)

          バレンタインデーなんて興味ない、みたいな顔をしていたあなた。 ガトーショコラを作ってプレンゼントしたら、無表情で全部食べたあなた。 普段から何を食べても「美味しい」と言うあなたが、本当に美味しいと思うときには無表情になることに気がついたのは、2度目にガトーショコラを作った時でした。 私が作ったガトーショコラを完食した後に、少し困ったように、自分のバッグから赤やピンク色の包装された箱を数個、私に差し出して「義理チョコなんだよ。食べるでしょ?」とあなた。 会社の同僚や取引先か

          前略 Kさま(4)

          前略 Kさま(3)

          ひとりで食事をしていて思い出したんです。 あなたの個性的な箸の持ち方を。 初めてあなたと食事をしたとき、私は緊張していて味も何を食べたのかも覚えていないほどでした。 あなたの顔を見ることも恥ずかしく、あなたが食事をする手元ばかりを見ていました。 食べ終わった皿はどれも綺麗なのに、力任せに持った箸を器用に使うあなた。 そんな姿を「あなたらしい」とさえ感じていました。 きっと今日もあなたは器用に箸を使っているのでしょうね。 ひとりで食事をすることには慣れていたはずなのに、

          前略 Kさま(3)

          前略 Kさま (2)

          雪が降ると思い出します。 あの日も、静かに雪が積もっていくのをあなたと見ていました。 向い合わせで座っているのに、私たちは窓の外ばかりを見ていました。

          前略 Kさま (2)